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春海

太陽がきらきらと海中に差し込んで、手を伸ばすと眩しかった。もし私の下半身が魚でなければあの光に触れることができたのだろうか？
私は海の国で魚達の卵を管理する仕事をしている。出張が多いのが玉に瑕で、一晩中泳いで遠くの海まで行くこともある。私たち魚人は眠らなくても生きていけるが疲れはもちろん溜まるので、ちょうどいいイソギンチャク、もしくは海藻のあるところを探し出せないと出張は最悪なものになるのだ。最近はクマノミとタツノオトシゴの卵管理になったので、小さめのイソギンチャクばかりで休憩することが増えた。不満もあるが、この海の生体管理を出来ることは誇らしいことだと思う。
私は自分がどう産まれるのか知らない。卵なのか、イルカのように母胎から直接産み落とされるのかも。物心つくまでは海の理によって記憶が改ざんされ、私たちは大人になって突然働くことを教えられる。だから魚達のように番を探すことはない。
いつからか、あの光によく焦がれるようになった。陸の上は海の中と違って温度が高いから、私たちの皮膚は溶けてしまう。だから、魚人として生まれたら永遠に陸には上がれないのだ。私と同じように陸に憧れた魚人を知らない。彼らは陸になにがあるのかも、どんな世界なのかも知っているから憧れたりしないんだろうか。時折聞こえる陸の子供たちの遊び声が楽しそうで、そっと覗きに行こうとしたが城仕えのシャチに止められてからは怖くてやめた。あの日、シャチにヒレを食いちぎられてでも陸に行っていれば、一瞬でも陽の光を浴びることができていれば、私の身体が溶けて消えてしまっても幸福に包まれて海に還ることができたのだろうか。
そんな想像をしながら、生命を孵す手伝いをしている。