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第12話

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「もしかすると、被害者の奥さんが溺死した田んぼが、あの場所なんじゃないですか? それだと自殺、心中の可能性もありませんか⁉︎ まだそれは調べてませんでしたよね⁉︎」
「そうですね」
「それに『犯人は田中』の本当の意味は、『妻は田の中で殺された』という意味かもしれませんよ! 田んぼの中だと、ダイイング・メッセージが書けないから、道の真ん中で自殺したんですよ!」

 考えた結果、藤岡は他殺から自殺の線で事件を解決したいようだ。
 妻が亡くなった場所で、自ら包丁で腹を刺して、心中したと思いたいようだ。
 何ともロマンチックな事件の真相だが、田代の考えは違うようだ。

「面白い考えですが、藤岡君。無理矢理過ぎますよ。それだと『犯人は田んぼ』でいいじゃないですか」
「それだと馬鹿みたいじゃないですか。詩的な感じの方が愛を感じませんか?」
「愛ですか……私には同じ場所で死ぬことが、愛とは思えませんけどね。それに被害者は癌治療を行なっていました。私にはどうも自殺するとは思えませんねぇ~」

 自殺したい人間が薬を飲んで長生きしようとしない。
 藤岡の考えには無理がある。田代は自殺ではなく、他殺に確信があるようだ。

「そうかもしれないですけど……魔が差したというヤツなんじゃないですか? 治療が嫌になったとかあるじゃないですか?」
「そういう可能性がないとは言いませんが、心中したいのなら、遺骨があるお墓や仏壇がある家の中でもいいじゃないですか。わざわざ田んぼの真ん中で……」
「ん? 田代警部どうかしましたか?」

 それでも藤岡は自殺の可能性を捨てきれないようだ。その可能性を田代が否定していくが、急に考えるように黙り込んでしまった。藤岡が田代の顔を覗き込んで、呼びかけるが反応がない。

「ゔゔゔおお!」
「わぁっ⁉︎」

 けれども、田代が突然激しく身震いした。思わず藤岡が驚き飛び退いた。

「僕としたことが‼︎ ダイイング・メッセージに囚(とら)われるなんて‼︎」
「ど、ど、ど、どうしたんですか⁉︎」
「藤岡君、場所だったんですよ‼︎ あのダイイング・メッセージの謎が解けました‼︎」
「本当ですか⁉︎」
「ええ、行きましょう‼︎」
「行くって何処へ⁉︎」
「我々、警察官が行く場所なんて決まってるじゃないですか‼︎ 犯人の所ですよ‼︎」

 藤岡には何が何やらさっぱりだが、田代は重大なことに気づいて、犯人まで分かったらしい。
 藤岡を置き去りにして、ズカズカと歩き出した。藤岡には訳が分からないが、付いて行くしかない。

「着きましたよ。ここに犯人がいます」
「ここって……」

 到着したのは村長の家だった。
 そこには村長だけじゃなく、村人や他所者も多数集まっている。
 村長は広い庭でテレビカメラに向かって、上機嫌で取材を受けている。
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