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第11話

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「さっきも言っただろ、ミィちゃんと一緒だったって。家にずっと居たよ」
「美海さん以外に、それを証明できる人はいますか?」
「いねえよ。もういいか? 今忙しいんだよ」

 昼間から仕事もせずに、テレビを見る暇な人間に忙しいと言われたくない。
 田代は内心でそう思いつつも、二人にアリバイがないことが分かった。

「忙しいとは……もしかして一億円ですか?」
「ああ、面白いだろ? 俺が考えたんだよ!」
「はいぃ~?」

 テレビを見て忙しいと言うぐらいだ。
 田代は田口が一億円を狙っていると思ったのだが、どうやら違うらしい。
 あの馬鹿騒ぎの発案者だと言い出した。

「そもそも畑耕すなんて、クリエイティブ(創造的)な俺に向いてないんだよ。ダイイング・メッセージを聞いて、ピーンと来たんだよ! これはイケるってな!」
「そうですか……ですが、考えるだけであなたにそれを実行できる力はないと思いますよ」

 他所者で村で養われている田口に、村人を動かす力も一億円を用意する力もない。
 田代はそう考えたのだが……

「それが出来るんだなぁ~! 村長の奴、ミィちゃんの言うことなら、昔から何でも聞くらしいんだよ。『何でも言うこと聞くから、結婚してくれぇー‼︎』って泣いて頼んだらしいぜ!」

 どうやら田口が美海に頼み、美海が村長に頼んだ(命令した)ようだ。
 村長は妻が田口の家で家事、洗濯をしているのを黙認しているぐらいだ。
 美海が頼めば、馬鹿なことをやる、その可能性も充分にありえるかもしれない。


「まったくロクなこと考えませんね、田口の野朗は! 何がクリエイティブだ! あんな奴、森で栗でも拾ってればいいんですよ!」

 田口の家から離れると、藤岡は我慢を爆発させた。

「田口が悪いわけじゃないですよ。悪いのは妻の言うことを何でも聞く村長です。それに……」

『浮気なら、ウチの人もしてるわよ。悦子っていう女とね』

「村長もただ操られているだけではないかもしれませんよ」

 美海の口から浮気しているのは、自分だけではないと聞かせられた。
 もしもそれが本当ならば、村長が何でも言うことを聞くという話自体が怪しくなる。

「かぁー! もう何が何やらさっぱり分かりませんよ! 一体誰が犯人なんだ!」

 藤岡が髪を掻きむしり、大袈裟に頭を悩ませる。

「藤岡君、落ち着きなさい。冷静に考えないと、見えるものも見えなくなりますよ」
「そうは言っても警部! いくら考えても被害者があの場所で死んだ理由が分からないんですよ!」
「そうですねぇ~……」

 美海と田口の浮気、村長と悦子の浮気。
 けれども、現場に残されたゲソ痕は美海と村長だけだ。
 田口と悦子のゲソ痕は現場に残されていない。

 それに不自然に大きかったダイイング・メッセージの『犯人は田中』の『中』の四角。
 そして、被害者が何故、夜の誰もいない時間に田んぼ道にいたのか。
 被害者が田口と同じように愉快犯で、癌(がん)で死ぬ前に村を巻き込んだ馬鹿騒ぎをしたかったのか。
 自殺か他殺か、狂言(きょうげん=嘘)なのか本当なのか、この事件は見た方によって姿を変えてしまう。
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