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第6話

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「これはこれは田代警部! ちょうどいいところに」
「どうしました、竹山さん?」

 田代と藤岡の二人が被害者宅に入ると、鑑識作業中の竹山——眼鏡をかけた小太りの男——が話しかけてきた。

「ダイイング・メッセージなんですが、ほぼ被害者本人が書いたもので間違いないそうです。ただ……」
「ただ、どうかしましたか?」

 タブレットに映るダイイング・メッセージを二人に見せながら、竹山は筆跡鑑定の結果を報告するが……

「字が綺麗過ぎるんですよ。腹を刺されて死にそうな状態で、こんな綺麗な字が書けるでしょうか?」
「つまり、刺される前に書いたということですか?」
「さしずめリビング・メッセージ(生者の伝言)と言ったところでしょうか? それに村の人間が全員田中だと知っているのに、『犯人は田中』はおかし過ぎます。犯人を教えたいのか、教えたくないのか、さっぱりです」
「た、確かに……!」

 竹山の疑問は間違っていない。
 田代は事件現場で気づいていたが、藤岡は今気づいて驚いている。
 それにおかしな点はもう一つある。

「竹山さん、この『中』おかしくないですか? 『口』だと思うぐらいに大きくないですか?」
「確かにバランスが悪いですなぁ~。これでは——」
「田口⁉︎ 田代警部! 犯人は田口です!」
「はいぃ~?」

 田代がダイイング・メッセージの『中』の文字を指差して指摘する。
『田』の文字の外四角と、『中』の中四角は同じ大きさをしている。
 それを見て藤岡は犯人に気づいたらしく、犯人の名前を興奮して言った。

「田口とは、田中陽平のことですか?」
「そうです! 田中陽平です! 田口ならば村に一人しかいません!」
「確かに旧姓で田口は田中陽平一人だけでした。ですが、そうなると新たな問題が出てきます。誰が『犯人は田口』を『犯人は田中』に書き変えたんですか?」
「そ、それは……」

 藤岡は事件が解決したと思って喜んでいたに、田代に問題点を指摘されて、何も言い返すことが出来ない。
 そんな藤岡にさらに田代は気になる可能性を話し出した。

「それに考えられる可能性はもう2つあります。ダイイング・メッセージを別人が書いた可能性ですよ」
「「えっ?」」

 何を言っているんだ? と藤岡と竹山の二人は思った。
 筆跡鑑定の結果は自宅にあった手紙やメモから、ほぼ本人だと出ている。
 石で地面を削って書いた文字だとしても、多少の癖は出る。

「竹山さん、事件現場に残っていた足跡は何人分でしたか?」
「えーっと、は、はい! 被害者と第一発見者、それと不明のものを含めると23人です」

 呆気(あっけ)に取られる二人を気にせずに、田代はさらに続けた。
 田代に不意に訊かれて、竹山は慌ててタブレットから情報を見つけて報告する。
 足跡は村人に協力をお願いして集めている。不明の足跡もある程度は判明される予定ではある。

「つまり犯人は23人の中にいます。そして、もう一つの可能性です。被害者が自殺した可能性ですよ」
「「えっ⁉︎」」
「竹山さん、この薬は癌(がん)の治療薬ではないですか?」

 他殺ではなく、自殺の可能性を田代に言われて、二人は今度も驚いた。
 驚く二人を置き去りにして、田代は台所の食器棚に置かれた沢山の薬を指差した。
 それは竹山に訊かずとも、田代にはすでに分かっている。
 紛れもなく、癌の抗がん剤治療薬だ。
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