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生二十九話 おっぱいじゃなくて、死っぱいだ

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(あっ、赤ベレー帽兵士が増えてる)

 ラナさんの住む建物まで戻ると、建物の前に赤ベレー帽の集団がいた。
 一、二、三……道の先に見える兵士まで数えると十五人ぐらいはいる。
 日本の殺人事件だと、警察官が五十人ぐらいはテレビに映っている。
 この世界は欧米並みに殺人事件が日常的に起こるのだろうか?

 まあ、それは今は置いておいて。さっさと家の中に入ろう。人数が少ない方がバレにくい。
 それにこれだけ兵士がいるなら、今すぐ魔女化して暴れても住民達を避難させてくれる。
 どっちにしても少ない方が大助かりだ。

「ただいまぁー……」

 返事があるとは期待してない。扉を開けて家の中に入った。
 少し暗い室内はテーブル上のランプから黒布を取って明るくした。
 あっちの部屋は狭いので、冷蔵庫はこっちの台所で出すとしよう。

 慣れた手順で包丁、冷蔵庫と変化させて、冷蔵庫の中から枷と睡眠薬を取り出した。
 起きているなら、手足に枷を着けてから睡眠薬投入だ。
 これで何も出来ずに魔女化が落ち着くまで見守るだけで終わる。

「…………」
「うーん、まだ脈はあるみたい」

 部屋に入るとベッドの上のラナさんの首筋を伸ばした指二本で調べた。
 ピクピク動いているからまだ死んでいない。薬の大量摂取で寝ているだけだ。

 どっちにしても、睡眠薬はもう必要ない。
 手足に鉄枷を着けて鍵を掛けた。これでもう安心安全だ。
 ではでは、お楽しみの時間だ。おっぱい揉み揉みさせてもらう。
 ベッドに座り込むと、うつ伏せに寝ているラナさんの推定Cカップを襲った。

(あれ? あれれ⁇)

 ふにゅん、ふにゅん。
 コネコのおっぱいよりも少し大きいのに、揉んでもそこまで楽しくない。
 何というかおっぱいに活きがない。死んだおっぱいだ。
 釣りたての魚のピチピチ感がない。波止場の地面に捨てられた干涸びた魚だ。

「うん、駄目だね」

 両手からおっぱいを放棄した。週一でも揉みたくならないおっぱいだ。
 年齢の所為か、病気の所為か、そもそも質が悪いのか……
 とにかく駄目パイ、『死ッパイ(死んだ失敗おっぱい)』だ。

『無いパイのあんたにだけは評価されたくないよ!』——
 とか怒られそうだけど、無いからこそ有る者への評価は厳しくなるものなのだ。
 このおっぱいは星ゼロの最低評価で行かせてもらう。

「さてと、リンゴ食べよ」

 おっぱいはもういいから気分を切り替えた。魔女になるまで時間がある。
 椅子とリンゴに似た果物が入った籠を持って、部屋の入り口に移動した。
 リンゴ食べながら、魔女になった後の対策の最終確認だ。

 モグモグ、モグモグ……

 魔女捕獲して売るなら、常に炎を撒き散らしていたら売り物にならない。
 大人しくさせる方法があるはずだ。でも、それを知っているバンダナ姉さんは死んでいる。
 ここは一般的な方法を試すしかない。つまり殴って気絶させるしかない。

「よし、包丁小! 大!」

 丸齧りして芯だけ残したリンゴを籠に戻すと、勢いよく立ち上がった。
 左胸から包丁小を取り出して、日本刀サイズの包丁大に変えた。

 あの炎に対抗するには特大のフライパンが必要だ。
 包丁小だと小さいフライパン、包丁大なら大きいフライパンに素早く変えられると思う。
 包丁大を野球選手のように構えると、軽くスイングしながら『特大フライパン』と念じた。

「ぬぅあああッッ‼︎」

 予想は当たったのに裏表逆だった。刃側がフライパンの内側、峰側が底側だった。
 直径一メートルどころか、一・三メートルぐらいはある底の浅い特大フライパンだ。
 推定十六キロ。こんな重たいフライパンを乙女の細腕で振れるわけない。

「なあっ! フライパンなし!」

 我慢できずに巨大鉄ラケットを床に放り投げた。
 炎を防ぐフライパンの盾作戦は却下だ。
 頑張って振れても四、五回。しかも低速スイングだ。
 実戦で使えるものじゃない——

「うん? あれ、待てよ……」

 確かに実戦じゃ使えないけど、実戦じゃなければ使えそうだ。
 ベッドに縛り付けているラナさんに振り落とすだけなら簡単だ。
 生き返った瞬間にガァンとフライパンを落として、また眠らせよう。
 これなら超楽だし、攻撃範囲が直径一メートル超えだ。絶対に避けられない。
 痛くないように一瞬で気絶させれれば大成功だ。

 ♢

(まだかな? まだかな?)

 釣りと同じで忍耐力が大事だ。
 ベッド横で椅子に座って、包丁大の峰をラナさんの顔に向けて目覚める瞬間を待ちわびる。
 呼吸と脈が止まってから、結構(四十分ぐらい)経った。
 前回と同じなら、そろそろオレンジ色に光り出すはずだ。
 ペトラみたいに腹を貫かれたら大変なので、光ったら椅子から立ち上がって、ガァンで眠らせる。
 ピカッ、ガァンで再び息の根を止めてやる。
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