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生二十話 チャンコが三倍強くなる薬

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「痛ってじゃねえか! このババアがあー!」
「がはぁ……!」

 ドガァ‼︎ まだ一対一じゃなかった。
 地面に崩れ落ちた坊主がバンダナの左足首を両手で掴むと、壁に向かって投げつけた。
 壁に背中を激しく強打させられて、今度はバンダナが地面に寝転んだ。

「大丈夫ですか!」
「痛っっっ、当たりめえだ。この程度で死ぬか。おい、チャンプ! いつまで寝てんだ! さっさと起きろ!」
「……痛っうう、あのババア、殺しに来やがった。治療費いくらすると思ってんだ」

 坊主の状態を確認すると、脇腹を撫でて大丈夫だと言っている。
 ついでにチャンコも坊主に怒鳴られて、頭を振り回して起き上がった。
 負傷者二名だけど、これで三対一に戻った。

「まったく女の扱いがなってないねぇ~」
「チッ、頑丈なババアだな」

 やっぱりだ。この程度で倒せる相手じゃない。
 バンダナが何事もなかったみたいに立ち上がった。

「さてと、どいつから死にたいんだい?」

 右手に持った棍棒で、左手の手の平をパシィンパシィン叩いて、バンダナが訊いてきた。
 もちろん死ぬのはバンダナ一人で充分だ。

「チャンプ、行けるか?」
「当たりめえだろ。グリード、薬くれ。金なら後で払う」
「ヘヘェ! やる気だな! そらよ!」
「ありがとよ。これでブチのませる」

 負傷者二人が何かやるみたいだ。
 武器も出さずに坊主が服から包みに入った黒い飴玉を一個取り出すと、チャンコに投げ渡した。
 その飴玉をガリッとチャンコが舐めずに噛み砕いた。
 回復薬じゃなくて『回復飴玉』だろうか?

「『身体強化薬』だ。一粒銀貨一枚だが、強化薬との相性が良いと身体能力が一・五倍ぐらいにはなる」

 訊いてもないのに坊主が教えてくれた。
 凄い薬だと思うけど、チャンコの強さが一・五倍になっても元が大した事ない。
 飲むだけ無駄の猿に小判だ。そう思ったのに……

「ムキキキキイ‼︎ ブチコロス!」
「ええー‼︎」

 あれ、絶対に飲んだら駄目な薬だ! チャンコが叫ぶと上半身の服が破け散った。
 チャンコが筋肉ムキムキのマッチョ猿『赤ハルク』に変身した。
 身長は同じままだけど、声が変になっている。

「チャンプは三倍だ。証拠はあのババアで充分だ。さっさと助けに行って来い。ここは俺達が片付けておく」
「は、はい!」

 何か知らないけど、バンダナの相手を二人がしてくれるらしい。
 坊主が薬を飲ませる許可を出してくれた。これで助けに行けるけど……

「何がブッ殺すだよ。この赤猿が!」
「ぐがぁぁ! コ、コロス……!」

 やっぱり三倍になっても全然足りない。
 チャンコが頑張って、バンダナを素手で殴りまくっているけど、全然倒れない。
 むしろ、チャンコが倒れるのが時間の問題だ。さっさとラナさんを助けて加勢しないと。
 扉を素早く開けると、家の中に駆け込んだ。

 ♢

(ふぅー、ここからは時間との勝負だ!)

 加勢するなら今して欲しいだろうけど、加勢しても倒せる保証はない。
 まずは倒さなくてもいいようにラナさんを救うのが先だ。
 救った後なら逃げてもいいんだから。

「冷蔵庫!」

 手に持つフライパンに向かって言うと、大きな四角い箱に変化していく。
 中から薬の材料を取り出すと、次にリンゴに似た果物を包丁で四等分に切っていく。
 最後に「ミキサー」と言って、変化した包丁の中に切ったリンゴ、魔力消し薬、回復薬、マロウ酒を投入した。
 あとはスイッチオンで完成だ。

 ガガガガガガガガッ!

 寝ている病人にはうるさい音だけど、ラナさんはやって来ない。
 今頃はベッドの中でブルブル震えているかもしれない。
 でも、私は寝込みを襲う強盗でも変態でもない。

(さてと、どうやって飲ませよう?)

 だけど、家に押し入った初対面の人間が何を言っても信用されない。
 特にドロドロの液体を飲ませようとする人間は信用できない。

「よし、完成。ビールジョッキ」

 ものの一分で回復ドリンクが完成した。流石は機械の力だ。
 その液体を包丁から変化させたビールジョッキ大に移していく。
 これを一気に飲み干せば、バッチリ天国に送れるというものだ。
 飲ませられればの話だけど……。

「ううん、行こう!」
 
 とにかくあれこれ考えても始まらない。
 ビールジョッキを持って、ラナさんの部屋に向かった。
 案の定、ラナさんは起きていた。
 リンゴの籠を持って待ち構えていた。

「だ、誰ですか……‼︎ 人呼びますよ……!」

 ラナさんが怯える声で強気に言ってきた。
 もう悪い人として信用されているから、悪い人として信用された方が早そうだ。

「……ペトラを誘拐しました。生きて返してほしければ、これを全部飲んでください」

 ほぼ事実なので誘拐犯として色々とお母さんに要求させてもらう。
 まずは手始めにこの不味い液体を飲んでもらおう。
 娘の命がかかっているんだから、断らないよね?
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