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生十六話 脅迫結婚なら出来そうだ

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「そいつは無理だ。魔女協会は魔女を管理するのが主な仕事だ。治療が出来る奴もいるかもしれねえが、魔法関係なら何でもやるって所じゃねえ。——それよりもテメェー、まだ何か隠しているだろ? 何で急に魔力中毒なんて話が出てくんだ」
「あっ……」

 口は災いの元だった。極悪爺が無理だとキッパリ言い切ると、私を睨んでいる。
 本当の事を言うと、魔女になる前の死にかけのラナさんが倒されそうだ。
 一人の命と街の人皆んなの命を天秤にかければ、答えなんて簡単に出てしまう。

「フンッ。こっちが知りたい事は黙りか。まあいい。時間切れだ」

 ギィィィィ……

「お前の客が来たぞ」

 極悪爺が立てた親指で出口の扉を指し示した。
 振り向くと開いた扉からハゲ斧を筆頭に三人の冒険者が入ってきた。
 光る頭には青い鳥が止まっている。

「ピィピィ」
「ジェンキンズさん、俺達に依頼があるそうだな。依頼人はまだいるのか?」
「コイツだ。未来から来て町を救って欲しいそうだ」
「……何だ、それは? 冗談か?」

 可愛い小鳥を頭に乗せたまま、斧男がこっちに歩きながら訊いてきた。
 それに対して、極悪爺が私を親指で指して無表情に言っている。

「さあな。詳しい話はコイツに聞くんだな……と言いてぇいところだが、先に聞いておいた。実際に起きるかどうかは自分の目で確かめろ。半日以内に炎を扱う魔女が町を焼き滅ぼすそうだ。たったの半日だ。それで金貰えるなら悪い依頼じゃねえぞ」
「……なるほど。では、特別料金として報酬は金貨一枚と銀貨五枚になる。それが払えないなら悪いが依頼は受けられない。魔女相手ならば命懸けになるからな」
「なぁっ⁉︎」

 高ッ‼︎ ほぼ有り金全部だ‼︎
 指名依頼なら安くすると言っていたのに、やっぱり極悪斧男だった‼︎
 人をトイレに流すような人間は、やっぱり頭がイカれている‼︎

「どうした? 払えないなら帰らせてもらうぞ」
「ぐぅぬぬぬぬ!」

 払えるけど払いたくない。何故だかハゲには払いたくない。
 財布に伸びそうになる右手を必死に我慢する。

「けぇっ。くだらねえ。自分の町守るのに金なんか要らねえよ。ちょうど暇してたんだ。チャンプ、お前も来い」
「えっ! 俺もぉ⁉︎」
「当たりめえだ。魔女って言えば、若いままの姿で歳を取らねえそうだ。美女に会えるチャンスに行かねえなんて損だろ。お前達もそうだろ!」

 我慢したからか、良い坊主が不機嫌そうな顔で言うと、猿顔を連れて助けてくれると言い出した。
 それもタダでだ。こんな良い話はない。しかも、他の暇な冒険者にも声をかけている。
 やっぱり坊主とハゲでは天の地の差がある。毛を無くした所為で、人間の心まで無くしている。

「おい、グリード。人の客を取るのはマナー違反だ。余計な真似するな」
「はあ? 金払うまで客じゃねえだろ。それともお前もタダでやるか? ごうつくばりのハゲ野郎が。まあ、カミさんに髪以外も抜かれて、すっかり腑抜けになった今のお前には無理だろうな」
「何だと? 無理かどうかここで試してやろうか? 銅級冒険者如きが」
「おいおい、発言には気をつけた方がいいぜ。ここにいる全員敵に回すつもりか? 毛がないのに怪我ある状態してやるぜ!」

(えっ⁉︎ このハゲ、結婚してたの⁉︎)

 ハゲと坊主の口喧嘩が始まったけど、一番の驚きはハゲが結婚していた事だ。
 でも、よく考えてみたら脅せば結婚ぐらい出来る。
 政略結婚じゃなくて、脅迫結婚ならば斧男の得意分野だ。

「おい、いつまで女みたいに喋ってんだ。金なら魔女から町救えば自警団から貰える。俺の前でハゲ二人で痴話喧嘩してんじゃねえよ。眩しくて仕方ねえだろ」

 極悪爺は喧嘩を止めるつもりはないらしい。
 二人の頭に油を注いで、火をつけた。

「おい、ジジイ。誰がハゲだ! テメェーの所為で俺までハゲ扱いされたじゃねえか! 今度から帽子かぶって来い! マナー違反だろうが!」
「クッ、何だこれは‼︎ 呼び出されてわざわざ来てやったのに不愉快だ‼︎ 帰らせてもらう‼︎」
「ああ、帰れ! カミさんのオッパイでもしゃぶってろ!」

 ——でしょうね。私もあれだけ言われたら帰る。
 背中の斧で惨殺事件を起こさずに、ブチ切れた斧男が仲間二人と出て行ってしまった。
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