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生十五話 魔女協会

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 ジジイのこの台詞聞いた事がある。正体不明の要注意人物に言う台詞だ。
 注意深く探るような鋭い目つきで極悪爺が言うと、坊主と猿顔が私が逃げられないように素早く取り囲んだ。
 鳥籠の青い鳥と一緒で、もう逃げられない。だけど、本当の事を言っても信じてもらえない。

 ……どっちにしても信じてもらえないなら、正直に言った方が良いかもしれない。
 多分、言わないと拷問される。女だとバレたらエッチな拷問される。

 こうなったら、不幸な少女を救う為に半日後の未来からやって来た猫型ロボットになるしかない。
 最低でも頭のイカれた奴だと思われて、罪が軽くなる可能性がある。
 牢屋に閉じ込められたって、左胸の四次元空間に隠した万能包丁で脱出だって出来る。
 言わないで殺されるよりも言った方がいいに決まっている。よし、言ってやる!

「ふぅー、仕方ないですね。本当の事を言うと未来に悪影響が出る可能性があるんですが、こうなったら仕方ない。俺は半日後の未来からやって来ました。この街が魔女の炎で焼き滅ぼされるのを防ぐ為にね」

 覚悟を決めると、いかにも知性たっぷりな謎の人物っぽい雰囲気を出して言ってやった。

「…………」
「…………」

 でも、誰も反応しない。口を開けて黙り込んで、何故か私と睨めっこしている。
 さっきまで騒がしかったのに、急に静かになって何だか異様な空間に閉じ込められた気分だ。

「きょ、今日の夜に雨降ります!」

 とりあえず沈黙はマズイ。誰も何も言わないなら、私が喋るしかない。
 半日後に絶対に起きる、未来の出来事を急いで教えてあげた。

「ふぅぅ……長い事やっているが、未来から来た男に会うのは初めてだ。おい、こういう時はどうすればいい?」

 極悪爺が長い溜め息を吐き出すと、猿顔の方を見てから訊いた。

「えっ! 俺っすか⁉︎」
「おめえ以外に誰がいんだ。どうすんだって訊いてんだよ」

 私の処遇は私に聞いてほしいけど、戸惑う猿顔にどうしても聞きたいようだ。
 ジジイに脅されて、猿顔の顔面が青猿になっている。

「えっと、そ、そのですね……!」
「もういい。分かんねえなら、分かんねえってさっさと言え。時間の無駄だ」
「す、すみません……」

 シドロモドロで猿顔が全然答えられないまま、極悪爺に一方的に時間切れ宣告された。
 私は頑張った方だと思う。ジジイはいつか死ぬからそれまでの我慢だよ。

「つまりは未来は誰も分かんねえって事だ。馬鹿の相手をするのは時間の無駄だが、本当だとしたら時間がねえ。馬鹿の相手をするか、町の危機に動くか……おい、お前らはどうしたらいいと思う?」

 使えない猿を見捨てて、今度はギルドにいる冒険者達に極悪爺が問いかけた。
 何だか勉強会が始まっている。ギルドに不審人物が現れた際の対処法講座だろうか?

「へーい! 魔女が相手なら『魔女協会』に連絡するのが手っ取り早いしょ。本当に魔女が暴れるなら、住民全員で避難しないとヤバ過ぎっしょ」

 黄土色の短いツンツン髪の冒険者が軽く右手を上げると、軽い感じで言ってきた。
 それに続けとばかりに他の冒険者も次々と意見を出していく。

「避難よりも、まずは証言の信憑性の確認が先だろ。本当なら良いけど、嘘なら俺達の信用問題に繋がるぞ」
「だったら魔女が暴れるまで待つのか? せっかく未来から来てくれたんだぜ。先手が打てるなら、暴れる前に倒そうぜ」
「おいおい、倒すって簡単に言うけど、魔女と戦った奴いんのか? 俺は会った事もねえぞ」

 ガヤガヤ、ガヤガヤ……

 冒険者達の意見は続いているけど、話の要点は主に三つだ。
 私の話が嘘か本当か、魔女を自分達で倒すか魔女協会(教会?)に頼るか、魔女から避難するか……
 
 でも、私のやりたい事は決まっている。
 私の話は本当で、ラナさんを助けたいから避難はしない。
 魔女協会がどんな組合か知らないけど、騎士団とか自警団みたいな組織だと思う。
 ここが簡単に魔女を救ってくれる組織なら、私が頑張らなくてもよくなる。

「すみません。魔女協会って、魔女になった人を救ってくれる組織なんですか?」

 とりあえず分からない事は訊くのが一番だ。軽く挙手して皆んなに訊いてみた。

「はあ? おい、未来から来たくせにそんな事も知らねえのか」
「はい、全然知らないです」
「ちっ、魔女協会ってのは魔女だけが所属する冒険者ギルドみたいはところだ。依頼料が高額だから富裕層向けだけどな」
「そうそう。それで俺達は貧乏人向けの格下ギルドだ。こっちの方が歴史は古いのに、新入りのくせに女の身体で客奪い取る汚い野朗達だ」
「なるほど……」

 ちょっと馬鹿にされたけど、親切に教えてくれるから良い人達だ。
 つまりは魔女協会はライバル会社でいいと思う。それも優秀なライバル会社だ。
 でも、私が知りたいのはそこじゃない。

「じゃあ、聖女に頼まなくても、そこに頼めば魔力中毒の人を治せますか?」

 ラナさんを助けられるなら、私じゃなくても誰が助けてくれても構わない。
 重要なのはそこだけだ。
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