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生八話 夢じゃないよ。暮らそう

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「あああああッッ‼︎」
「やめぇ、ゆるぅ、して、があっ……あがぁぁ……‼︎」

 フライパンは目玉焼きを作るのものだよ、と教えてあげたい。
 でも、今だけはロリコンを殴り叩くものでいいと思う。
 少女が両手でフライパンを握って、ロリコンの左肩を集中的に叩いている。
 肩の骨が砕けるのも時間の問題だ。

(さてと、他にはいないよね?)

 一応、他にも捕まっている少女がいないか部屋の中を確認だ。
 邪魔なカーテンは下に引っ張って落としたいけど、頑丈すぎて無理だった。
 スライドさせて畳むので出来ないので、邪魔だと払い退けて進むしかない。

「あっ、服だ……キモッ」

 絶対にロリコンの服じゃない。明らかに女物、それも小柄な子供服が棚の一部に普通に置かれていた。
 綺麗に洗濯されているように見えるけど、着るのに抵抗感しかないのはロリコンが触った後だからだ。
 特に下着なんかは絶対に着たくもない。服に罪はないけど、全部ガスコンロで焼却処分決定だ。

「よし、誰もいないっと」

 一応、部屋の中は調べ終わった。
 棚を動かしてないから分からないけど、床下に地下監禁部屋はないと思う。
 ある場合は少女に聞けば分かると思う。
 叩く音が聞こえなくなったので、少女の方も気が晴れたみたいだ。

 ロリコンのお手伝いをしていたのなら、魔力消し薬と回復薬の場所も知っていると思う。
 探しても見つからなかったから、助けたお礼にそれぐらい聞いても叩かれない。
 とりあえずカーテンの一部を大きく四角に包丁で切り取って、バスタオルとして渡す事にした。

「ハァハァ、ハァハァ!」
「終わったみたいだね。とりあえずこれを着て」
「あっ、はい! ありがとうございます! これ、お返しします!」
「うん、ありがとう」

 礼儀正しいいい子だ。
 バスカーテンを渡すと、お礼を言って血塗れフライパンを返してくれた。
 冷凍庫の中は見たくないので、ソッと扉を閉めて、包丁に戻した。
 これで事件は無事解決、いや、無事迷宮入りになってくれた。
 めでたしめでたしだ。うんうん。

「疲れていると思うけど、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「あっ……はい。その……エッチな事ですかぁ?」

 バスカーテンでモジモジと身体を隠して、少女が恥ずかしそうに聞いてきた。
 助けたお礼にエッチさせろと要求する男は屑だから殺してもいいよ。
 もちろん女の私がお願いする事はこっちに決まっている。

「ううん、全然違うよ。このお店に来たのは、薬を買いに来たからで、この部屋に入ったのは店長が怪しかったからなんだ。お店のお手伝いをしていたのなら、魔力消し薬の錠剤と回復薬の錠剤が置いてある場所って分かるのかなって。知らないなら自分でもうちょっと探してみるから、気にしなくていいからね」

 少女の勘違いをハッキリ否定すると、この店に来て、ロリコンを半殺し状態で冷凍庫に閉じ込めた理由を丁寧に話した。
 少女を救いに現れた王子様じゃなくて、通りすがりの偶然助けてしまった女の子です。
 白馬の王子様を期待していたのなら、ごめんなさいです。

「そ、そうなんですかぁ……そうですよね。私みたいな親の顔も知らない役立たずの女を助ける人なんていませんよね。あっははは……分かってます。私って生きてる価値がない人間なんですよねぇ……」

(はぅっ! 何かネガティブスイッチ押しちゃったかも‼︎)

 傷つかないように優しく丁寧に話したのに、ロリコンに監禁されて駄目人間に調教されている。
 死んだ魚のような目で落ち込むと、下を向いて涙をポタポタ落とし始めた。
 絶対に私悪くないのに、悪いのは全部ロリコンなのに、私がどうにかしないといけない状況になった。

「そんな事ないよ! 薬の場所、分かるよね! 分かるよね!」
「はい、あそことあそこの棚にありますけど……」
「ほらあー、全然役立たずじゃないよ! 役立つ女の子だよ!」
「……」

 とにかく明るい安村で行くしかない。褒めて褒めて褒めまくり作戦だ。
 もう薬の場所は教えてもらったから放置して逃げてもいいけど、殺人の共犯者になってしまった。
 ここは第二の人生を明るく楽しく生きられるように全力で協力するしかない。

「本当にそう思ってますか?」

 少女が泣き止み聞いてきた。褒めるのは有効な手段みたいだ。
 だったら褒めまくるしかない!

「本当に本当だよ! 帰る家がないなら、この店で俺と一緒に暮らせばいいよ! 俺もこの街に着いたばかりで家無いし、仕事も無いから、一緒に薬屋をやろうよ。あのロリコンに色々教えてもらったのなら、一人でお店も出来ると思うよ。いや、絶対に出来ると思う!」

 一緒に住むと言いつつ、仕事は一人で出来るよ、と言っておく。これが大人の女のやり方だ。
 暮らすのは週に一回の土曜か日曜で、休日に女友達の家で遊ぶような感覚だ。
 これなら無理なく少女が立ち直るまで、たまに協力するぐらいで無理なく続けられる。

「私のお店……それに綺麗なお兄さんと同棲……夢みたい」
「夢じゃないよ。暮らそう」
「は、はい♡」

 考え込む少女の顎を右手で優しくクイッと上げると、最後の一押しを真剣な顔で言った。
 とにかく明るいだけじゃ駄目なんだ。たまに見せる真剣な表情がなければ笑えない。
 私の顔を見て、少女が優しい笑みで返事した。その笑顔が幸せになる第一歩だよ。
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