上 下
52 / 84

生四話 三種の神材料集め

しおりを挟む
 持ち物を全部冷蔵庫にブチ込むと歩くのを再開した。
 この森を抜けるのは、今度で五回目だ。流石にこの森で一日迷って、ラナさんを死なせる事はない。
『あっ、この辺通ったかも』と思いながら、簡単に森を抜け出せた。

「ふぅー、次は街と」

 今回は薬草集めはしなかったから、かなり早く森を抜け出せた。
 体力節約も出来て、万全の状態で戦える。街に着いたら、休憩時間も少しは取れる。
 そうと決まったら、さっさと街に行ってやる。
 早く着いたからって観光なんかして体力は減らさないぞ。
 もう失敗は許されないんだ。

 ♢

「ふぅー、到着ぅ~」

 ここまでは予定通り順調だ。
 顔見知りの槍持ち門番の前を通り過ぎ、トンネルみたいなアーチ門を抜けて街に入った。

(うーん、まずは材料集めかな?)

 ジョイに断られる可能性もあるので、断られない買い物からだ。
 近場の野菜屋のおばちゃん、マロウ酒、薬屋の順に回るとしよう。

「コレ、三つください」
「はいよ。『クラウン』、三つで銅貨五枚でいいよ」

 銅貨五枚なら約五百円ぐらいかな?
 財布から鉄貨一枚を取り出して、おばさんに手渡した。

「毎度あり。はい、お釣りね」
「ありがとうございます。これって『アマレテ』ですよね? 何でこんな名前なんですか?」

 おばちゃんから銅貨五枚を受け取ると、時間があるので楕円形のニンジンサツマイモを指差し聞いてみた。
 薬草や『クラウン』というリンゴもそうだけど、この世界の名前の由来がちょっと気になった。

「ハッハ! そんなの作った人の名前に決まってるだろ。あとは発見した人の名前だね。野菜は品種改良が多いから、名前を覚えるのも大変だよ。毎年十個は必ず新しいのが増えちまう。野菜屋は特に大変だよ。こんな事なら肉屋をやるべきだったね」
「へぇー、そうなんですねぇー」

 私も受験と試験で英単語を覚えるのに苦労した。
 おばちゃんに頼んで野菜屋で働かせてもらうのはやめよう。
 ラナさんを助けた後は森で薬草でも集めながら、たまに熊肉を肉屋で売って静かに暮らそうかな。

 おばちゃんとの世間話を済ませると、ドリンクバーのお兄さんからマロウ酒を購入した。
 一杯ぐらい飲む余裕はあるけど、これは人間を駄目にする飲み物だ。
 包丁小を取り出して冷蔵庫にすると、木のコップをそのまま入れた。
 これでキンキンに冷えたままのマロウ酒を使える。

「ちょっ、ちょっとお兄さん⁉︎ コップは返してもらわないと困るよ!」
「えっ?」

 あっ、持ち帰りは駄目みたい。お兄さんに呼び止められてしまった。
 使用後に返すから許してほしいけど、多分無理そうだ。
 木のコップ代(銅貨七枚)を支払って、何とか持ち帰りOKにしてもらった。

「ふぅー、危うく泥棒になるところだったよ。気をつけないと」

 ラーメン屋の器と一緒で持ち帰ったら駄目みたいだ。
 あれでインスタントラーメン食べると最高に美味いのに、見つかっちゃった。
 今度は失敗しないようにしないと。

 しっかり反省すると次の目的地に向かった。これで材料が全部揃う。
 若い女の子向けの真っ白な壁にピンクの四つ葉のクローバーが描かれた店が見えてきた。
 カランカランと扉の鐘を鳴らして、ペトラ行きつけの薬屋に到着した。

「すみません、薬が欲しいんですけど……」

 伸びた灰色の前髪で目が見えないおじさん店長に近寄ると訊いてみた。

「あーあ、薬ですか……何が欲しいんですか?」

 んっ? 何か対応が塩対応だ。案外、常連以外はこんなものなのかもしれない。
 常連のペトラと一緒じゃないから、店長の声がいかにもやる気がなさそうだ。
 これだと潰れるのも時間の問題だと思う。

「魔力消し薬と回復薬です。どっちも四百グラム欲しいんですけど、ありますか?」

 塩対応は気にせずに訊いてみた。
 前に大量購入したから、もしかすると無いかもしれない。
 その場合は一見さんにも神対応の薬屋を探す事になる。
 時間もまだあるし、私はそれでも全然困らない。

「えぇーありますけど、何に使うんですかぁ? 見たところ必要そうには見えませんけど……」

 まったく売る気が感じられない。店長がジロジロと私の身体を見回し怪しんでいる。
 確かに健康体にはどっちも必要ないけど、重病人が薬屋に買い物に行けるわけがない。
 代理人が代わりに買いに来たと考えるのが、察しのいい店長だ。

「ペトラのお母さんのラナさんに使うんです。病気を治すに必要なんで急いでいるんです。でも、無いなら他の店を探すので失礼します」

 察しの悪い店長の為に説明すると店を出ようとした。
 すると……

「あーあ! ちょっと待ってください! ありますから!」

 急に店長が態度を急変させた。
 私がペトラの知り合いだと言った途端に神対応に切り替えた。
 やれば出来るなら最初からやればいいのに、これだから個人経営の店は……。

 とりあえず文句は言わずに我慢した。
 別の店を探すのは面倒だし、神対応になるなら腕前を見せてもらう。
 私の審査は厳しいけど、チャンスをやるんだから頑張ってよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【百合】転生聖女にやたら懐かれて苦労している悪役令嬢ですがそのことを知らない婚約者に「聖女様を虐めている」と糾弾されました、死刑だそうです

砂礫レキ
恋愛
「リリーナ・ノワール公爵令嬢、聖女サクラの命を狙った咎でお前を死刑に処す!」 魔法学校の卒業パーティーの場。 リリーナの婚約者であるリアム王子は桃色の髪の少女を抱き寄せ叫んだ。 彼が腕に抱いているのはサクラという平民上がりの男爵令嬢だ。 入学早々公爵令嬢であるリリーナを悪役令嬢呼ばわりして有名になった人物である。 転生ヒロインを名乗り非常識な行動をしでかす為学校内の嫌われ者だったサクラ。 だが今年になり見事難関聖女試験に合格して周囲からの評価は一変した。 ちなみに試験勉強を手助けしていたのはリリーナである。 サクラとリリーナは奇妙な友人関係にあったのだ。 そのことを知らないリアム王子は大勢の生徒と捕えた聖女の前で捏造したリリーナの罪を晒し上げる。 それが自分たちの破滅に繋がることを、そして誰が黒幕であるかすら知らずに。 

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...