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再二十一話 ここでバンダナは殺す
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「うああ‼︎」
気合いを入れて叫ぶと、バンダナに向かって全力で踏み込んだ。
体育祭で全員置き去りにするつもりの全力疾走開始だ。
「シィッ‼︎」
「——‼︎」
上からでも横からでもなかった‼︎
真っ直ぐ向かって来る私に対して、バンダナが一歩踏み込むと、両手で握った棍棒を下から上に振り上げた。
予想外の攻撃と速さに身体が反応できない。片足が宙に浮いた不可避の状態で顎直撃の強烈な一撃がやって来る。
「ぐあッッ‼︎」
首を限界まで右に傾けて回避を試みた。だけど駄目だった。
硬い棍棒が左頬を削り、左耳を引き千切っていった。
けれども、顔を削り取られた痛みを感じるより先に、どうにかしないといけない問題がある。
目の前にバンダナという肉壁がある。この壁を乗り越えないと先に進めない。
このままだと激突は避けられない。捕まったら逃げられない。
だけど、両手が棍棒に奪われているなら今なら捕まえられない。
右足が地面に着いた瞬間に身体を右側に傾けて、バンダナの右側をギリギリはしりぬけたり
「チィッ。さっきよりも反応がいいね」
「ハァハァ! ぐぅっ!」
痛いけど今は我慢だ。足を止めればすぐにバンダナに捕まってしまう。
……それに煙を上げる建物の前にも恐ろしい光景が広がっている。
「ぎゃああああ‼︎」
「に、逃げろ‼︎ 魔女だ、魔女が暴れている‼︎」
家から出てきたラナさんが、家の前に集まっていた人達を燃やしている。
次々に炎の濁流に飲み込まれて、火だるまになって倒れていく。
ザッと数えて、すでに六人の人達が地面に焼け死んでいる。
「はっは! 羨ましいほどの力だね! そう思わないかい?」
「まったく!」
やっぱり速い。有紗も速かったけど、バンダナはそれ以上の速さだ。
私に追い付くと、左隣を余裕の笑みで並走している。
(このままだ!)
恐怖を振り払い、覚悟を持って、真っ直ぐ走り続ける事を選択した。
攻撃を避ける為に横に距離を開けたら、冷凍庫を取りに行けない。
逃げても追いつかれるなら、横ではなく前を見るべきだ。
前にいるラナさんにバンダナを狙わせるしかない。
逃げていく住民達の波に逆らって、ラナさんに突っ込んでいく。
「はああああ‼︎」
「チィッ、付き合いきれないね。死ぬなら勝手に死にな」
距離六メートルでバンダナが立ち止まった。
気にせずに走り続けると、扇状に広がった炎の波がやって来た。
「くぅっ!」
両腕で顔を守ると、炎の波にそのまま突撃した。
「熱づづづぅぅ‼︎」
すぐさま上半身が炎の波に飲み込まれた。
両腕が焼かれ、残った右耳も焼かれ、腕に守られなかった腹も焼かれた。
燃え尽きた身体から力が抜けていき、前に向かって倒れていく。
「ぐがあああ‼︎」
ダァン‼︎ 倒れそうな身体を右足で地面を力一杯踏み付け耐え抜いた。
そのまま倒れるような前傾姿勢で走り続けて、ラナさんの横を走り抜けた。
そして、煙が充満する家の中に飛び込んだ。
「ごほぉ、ごぼぉ、すぐに出ないと……!」
思った以上に煙が充満している。吸い過ぎると倒れてしまう。
煙を吸わないように体勢を低くして、素早くラナさんの部屋を目指した。
(ペトラ……)
ラナさんの部屋は激しく燃えていた。床やベッドから炎が上がっている。
そして、床に焼かれてない血だらけのペトラが横たわっていた。
「熱っ……くない!」
炎の海を注意しながら歩いていく。料理人なら炎は友達だから、全然熱くない。
熱さなんて気にせずに冷凍庫だった溶けた金属の箱に手を触れた。
「熱づづぅ‼︎ か、変われ‼︎」
全然熱くない‼︎ 溶けた冷凍庫に変わるように願うと、光を放ちながら包丁の形に戻っていく。
熱々冷凍庫の表面が溶けていたから、包丁も無傷じゃないと覚悟していた。
でも、どこも欠けてないし、溶けてもいなかった。
まあ、冷凍庫に戻したら直らずに壊れたままかもしれないけど。
それを確かめるのは今じゃない。外に出るのが先だ。
ビギィ……
「んっ?」
何かがひび割れるような音が微かに聞こえた。
おそらく建物の限界だ。早く逃げないと天井が崩れ落ちてくる。
こんな所で生き埋めになるわけにはいかない。
もう一度ラナさんの前に行くのは覚悟がいるけど、やるしかない。
出来るだけ気づかれないようにソッと出て、視界に入らないように動くしかない。
念の為に包丁からフライパンに変えると、炎を警戒して進んでいく。
姿勢を低くして進んでいるけど、それでも煙が目に染みてしまう。
(くぅぅぅ! あれ……誰かいる⁉︎)
ラナさんの部屋から出て、台所から外の開いた扉に向かっていると、出口に足が見えた。
太く大きな足で花柄のズボンを履いている。ラナさんの服は上下お揃いの灰色の長袖長ズボンだった。
つまりこの足は——‼︎
(バンダナだ‼︎)
「オラァッ‼︎」
唸り声が聞こえる前に反射的にフライパンを頭上に構えていた。
すぐさまガァンとフライパンの底に棍棒の凄まじい衝撃が走った。
「ハッハ! まさかこの中まで追いかけてくると思わなかったのかい! 私も自分から袋のネズミになる馬鹿がいるとは思わなかったよ!」
出口を仁王立ちで塞いで、バンダナが勝ち誇っている。
しつこいババアだ。煙に炙られて燻製になればいいのに。
でも、ババアが燻製になる前に、私の方が一酸化炭素中毒で死んでしまう。
こうなったら『乱切り』を使うしかない。
この狭い部屋の中なら全部避けるのは不可能だ。
ここで邪魔なバンダナを殺してやる。
気合いを入れて叫ぶと、バンダナに向かって全力で踏み込んだ。
体育祭で全員置き去りにするつもりの全力疾走開始だ。
「シィッ‼︎」
「——‼︎」
上からでも横からでもなかった‼︎
真っ直ぐ向かって来る私に対して、バンダナが一歩踏み込むと、両手で握った棍棒を下から上に振り上げた。
予想外の攻撃と速さに身体が反応できない。片足が宙に浮いた不可避の状態で顎直撃の強烈な一撃がやって来る。
「ぐあッッ‼︎」
首を限界まで右に傾けて回避を試みた。だけど駄目だった。
硬い棍棒が左頬を削り、左耳を引き千切っていった。
けれども、顔を削り取られた痛みを感じるより先に、どうにかしないといけない問題がある。
目の前にバンダナという肉壁がある。この壁を乗り越えないと先に進めない。
このままだと激突は避けられない。捕まったら逃げられない。
だけど、両手が棍棒に奪われているなら今なら捕まえられない。
右足が地面に着いた瞬間に身体を右側に傾けて、バンダナの右側をギリギリはしりぬけたり
「チィッ。さっきよりも反応がいいね」
「ハァハァ! ぐぅっ!」
痛いけど今は我慢だ。足を止めればすぐにバンダナに捕まってしまう。
……それに煙を上げる建物の前にも恐ろしい光景が広がっている。
「ぎゃああああ‼︎」
「に、逃げろ‼︎ 魔女だ、魔女が暴れている‼︎」
家から出てきたラナさんが、家の前に集まっていた人達を燃やしている。
次々に炎の濁流に飲み込まれて、火だるまになって倒れていく。
ザッと数えて、すでに六人の人達が地面に焼け死んでいる。
「はっは! 羨ましいほどの力だね! そう思わないかい?」
「まったく!」
やっぱり速い。有紗も速かったけど、バンダナはそれ以上の速さだ。
私に追い付くと、左隣を余裕の笑みで並走している。
(このままだ!)
恐怖を振り払い、覚悟を持って、真っ直ぐ走り続ける事を選択した。
攻撃を避ける為に横に距離を開けたら、冷凍庫を取りに行けない。
逃げても追いつかれるなら、横ではなく前を見るべきだ。
前にいるラナさんにバンダナを狙わせるしかない。
逃げていく住民達の波に逆らって、ラナさんに突っ込んでいく。
「はああああ‼︎」
「チィッ、付き合いきれないね。死ぬなら勝手に死にな」
距離六メートルでバンダナが立ち止まった。
気にせずに走り続けると、扇状に広がった炎の波がやって来た。
「くぅっ!」
両腕で顔を守ると、炎の波にそのまま突撃した。
「熱づづづぅぅ‼︎」
すぐさま上半身が炎の波に飲み込まれた。
両腕が焼かれ、残った右耳も焼かれ、腕に守られなかった腹も焼かれた。
燃え尽きた身体から力が抜けていき、前に向かって倒れていく。
「ぐがあああ‼︎」
ダァン‼︎ 倒れそうな身体を右足で地面を力一杯踏み付け耐え抜いた。
そのまま倒れるような前傾姿勢で走り続けて、ラナさんの横を走り抜けた。
そして、煙が充満する家の中に飛び込んだ。
「ごほぉ、ごぼぉ、すぐに出ないと……!」
思った以上に煙が充満している。吸い過ぎると倒れてしまう。
煙を吸わないように体勢を低くして、素早くラナさんの部屋を目指した。
(ペトラ……)
ラナさんの部屋は激しく燃えていた。床やベッドから炎が上がっている。
そして、床に焼かれてない血だらけのペトラが横たわっていた。
「熱っ……くない!」
炎の海を注意しながら歩いていく。料理人なら炎は友達だから、全然熱くない。
熱さなんて気にせずに冷凍庫だった溶けた金属の箱に手を触れた。
「熱づづぅ‼︎ か、変われ‼︎」
全然熱くない‼︎ 溶けた冷凍庫に変わるように願うと、光を放ちながら包丁の形に戻っていく。
熱々冷凍庫の表面が溶けていたから、包丁も無傷じゃないと覚悟していた。
でも、どこも欠けてないし、溶けてもいなかった。
まあ、冷凍庫に戻したら直らずに壊れたままかもしれないけど。
それを確かめるのは今じゃない。外に出るのが先だ。
ビギィ……
「んっ?」
何かがひび割れるような音が微かに聞こえた。
おそらく建物の限界だ。早く逃げないと天井が崩れ落ちてくる。
こんな所で生き埋めになるわけにはいかない。
もう一度ラナさんの前に行くのは覚悟がいるけど、やるしかない。
出来るだけ気づかれないようにソッと出て、視界に入らないように動くしかない。
念の為に包丁からフライパンに変えると、炎を警戒して進んでいく。
姿勢を低くして進んでいるけど、それでも煙が目に染みてしまう。
(くぅぅぅ! あれ……誰かいる⁉︎)
ラナさんの部屋から出て、台所から外の開いた扉に向かっていると、出口に足が見えた。
太く大きな足で花柄のズボンを履いている。ラナさんの服は上下お揃いの灰色の長袖長ズボンだった。
つまりこの足は——‼︎
(バンダナだ‼︎)
「オラァッ‼︎」
唸り声が聞こえる前に反射的にフライパンを頭上に構えていた。
すぐさまガァンとフライパンの底に棍棒の凄まじい衝撃が走った。
「ハッハ! まさかこの中まで追いかけてくると思わなかったのかい! 私も自分から袋のネズミになる馬鹿がいるとは思わなかったよ!」
出口を仁王立ちで塞いで、バンダナが勝ち誇っている。
しつこいババアだ。煙に炙られて燻製になればいいのに。
でも、ババアが燻製になる前に、私の方が一酸化炭素中毒で死んでしまう。
こうなったら『乱切り』を使うしかない。
この狭い部屋の中なら全部避けるのは不可能だ。
ここで邪魔なバンダナを殺してやる。
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