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再九話 デカ女って、こっちの事だったの!

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「デカ女一人じゃ物足りねえよ。グリード、俺が二人共やっちゃっていいか?」

 あっ、猿のくせに調子に乗ってる。
『女が男に勝てるわけないだろ』とか思っている低脳猿男子だ。

「女だからって油断してんじゃねえよ。子供でも刃物使えば、大の男を殺せるんだ」
「あーい、分かったよ。じゃあ、デカ女倒した後にあっちもやるわ。それならいいだろ?」
「さっきと一緒だろうが。巫山戯てねえで本気でやれ」
「あーい。じゃあ、軽く遊んでやるか」

 ピキィ! 猿殺す、猿殺す、猿殺す!
 人間の成り損ないの分際で身の程を知らないみたいだ。
 熊殺しのルカの恐ろしさを身体に刻んでやる。

「悪いが依頼はキャンセルだ。嬢ちゃんはさっさと逃げな。ちょっと脅かして家に帰そうと思ったのに、こいつは刺激が強そうだ。子供が見るもんじゃねえ」
「あっ、はい。き、気を付けて」

 ……んっ?
 私が猿に敵意を漲らせていると、ロリ坊主がペトラと何やら話している。
 なんか仲が良さそうに見えるのは気の所為だろうか?

「ハハッ。心配すんな! 嬢ちゃんはただでさえ心配し過ぎだ。こんな俺達の事まで心配する必要はねえよ。さあ、行きな! 家で母ちゃんにうんっと甘えるんだ! それが子供の仕事ってもんだ!」
「は、はい!」

 ……んん? 何だか私の方が悪者にされている気がする。
 ペトラがロリ坊主に背中を押されて、逃げるように走っていった。
 路地裏に二人の男と二人の女が残されてしまった。

「ありがとよ。待ってくれるとは思わなかった。それで誰の依頼だ? この顔だ、女に恨まれる覚えはなくてな」

 意外にもロリ坊主がお礼を言ってきた。
 それに確かにその通りの見た目だと思う。
 二十六歳ぐらいと若いのに、丸坊主の黒髪の左側を稲妻みたいに剃っている。
 その所為で悪いチンピラに見えるし、笑った顔がヤバイ薬やってそうな顔に見えてしまう。
 私の第一印象は変な薬で女の子の意識を奪って、エッチな事する変態野郎でした。
 本当にごめんなさい。

「あんたに用はないよ。悪い人間じゃないなら、そこを通してくれない?」

 心の中で謝罪は済ませた。ロリコンじゃないなら敵じゃない。
 良い坊主とは争わなくていいから、ペトラを急いで追いかけたい。

「……俺には用はないか。だったら余計に通せなくなったな!」
「チッ。あっそ」

 言い方が悪かったみたい。ううん、何を言ってもきっと無駄だった。
 坊主が服から素早く金属板を取り出すと、その板から剣を取り出した。
 両刃の長剣で、長さは百二十センチ以上。
 刃は分厚く、三段重ねのコンクリートブロックなら一刀両断できそうだ。
 流石は異世界、便利な収納板しゅうのういたがある。
 
「余所見するなんて、余裕だなデカパイ!」

 ——デカ女って、身長じゃなくて、おっぱいの事言ってたの!
 坊主じゃなくて猿助が突っ込んできた。ちょっと嬉しく気分になってしまった。
 走りながら猿助が金属板を取り出すと、ちょっと細身の剣を取り出した。
 長さは九十~百センチぐらい。坊主の大剣よりは攻撃力は低そうだ。

(よし、予定変更で行こう!)

 褒め上手な猿助を瞬殺して、坊主は有紗に押し付けよう。その間にペトラを追いかける。
 この場に残されたのは四人だけど、二対二のチームバトルじゃない。
 実際は三チームによる、二対一対一の戦いだ。私にとっては全員敵だ。
 一人で三人を相手にするのは絶対に無理だ。

「来きな。料理してやる」

 包丁の切っ先を迫り来る猿助に向けて、余裕の笑みを浮かべた。

「料理も風呂も要らねえ、テメェーをやらせろおー!」

 それに対して猿助が強気に叫んで、両手で握った剣を身体の左側に横向きに構えた。
 払い斬りだろうけど、自分がモブ助だと知らないようだ。
 こっちは古料理部だ。普通の料理部じゃやらないような野外食糧調達もやっている!

「セィッ!」
 
 予想通り猿助が左横に構えた剣を気合を込めて振り抜いてきた。
 包丁を迫り来る剣の腹の軌道に合わせて、包丁の峰を左手で押さえた。

 ——ガァン‼︎

「ぐぅっ!」

 金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。猿助が受け止められて悔しそうに唸った。
 だけど、これで終わりじゃない。古料理部の先生が言っていた。

『攻撃は最初が肝心だよ。次があると思ってやるんじゃないよ!』

 分かっている。本当の実力は多分猿助の方が上だ。だから手加減している今しかチャンスはない。
 剣腹をガードした瞬間に素早く踏み込み、歯を食いしばり、オデコに気合を入れた。

「テラアアア‼︎」

 ——ゴォツ!

「ぶはぁ……!」

 私の渾身の頭突きが猿助の顔面に炸裂した。こっちも痛いけど、あっちも痛い。
 猿助がよろめき後ろに一歩下がった。だけど、この隙は見逃さない。
 素早く左手で猿助の左肩を掴んで逃げられないようにすると、包丁を振り上げ、柄の尻を振り下ろした。

「がふっ、があっ、ぐあっ、ゔあっ!」

 ドォスドォスと顔面に何度も素早く柄尻を叩きつける。
 猿助の顔面が血だらけになっているけど、絶対に攻撃はやめない。
 
「馬鹿野朗が。だから、言っただろうが!」
「くぅっ!」

 だけど、猿助を半殺しにする前に怒った坊主が向かってきた。
 猿助から急いで左手を離して、坊主の攻撃に備えた。

「フウォリャャー!」

 ——速ッ! 猿助と同じ剣の腹の振り払いだったのに四倍は速い。
 当たらないように後ろに素早く跳んで、避けるしか出来なかった。
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