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再八話 振り返れば……

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「これで足りるかな?」

(あっ、やっぱり!)

 胸(黒鞄)を揺らして冒険者ギルドまで走っていくと、予想通りの展開が待っていた。
 ペトラが冒険者ギルドの前までやって来ると、手の平(多分お金)を見てから、建物の中に入っていった。
 この建物がロリコンとヤクザの巣窟だと知らないらしい。

「よし、ちょっと待とう」

 このまま乗り込んでもいいけど、前回の私は建物の中にいた。それも男装してだ。
 今の偽胸付けた姿で入ると、逆に変態扱いされて追い出される可能性がある。
 ここは極悪さんにロリコン野朗が殴り飛ばされて、ガッカリしたペトラが出て来るのを待つのが得策だ。

「うぇへへへへ! さあ、行こうか♪」

(ちょっ、極悪さんッ‼︎ 何やってんのぉー‼︎)

 待っていたのに無傷のロリコン冒険者が、ペトラの腰に右手を回して下品な笑顔で出てきた。
 極悪さんが見て見ぬ振りして見逃しやがった。やっぱり良い極悪さんじゃなかった!

「くっ、私がやるしかない!」

 こうなったら当初の予定通り、私の手でボコボロにするしかない。
 覚悟を決めると左胸に手を当てて、包丁に出て来るように念じた。
 パァッと胸が熱く光って、上着の切れ目から包丁の黒い柄が現れた。
 この柄を握ればもう後戻りは出来ない。でも、やるしかない。
 覚悟を決めて、包丁の柄を握って一気に胸から引き抜いた。

「ふぅー、ここからは殺るか殺られるかの世界だ」

 キラリと光る柳刃包丁をしっかり見つめて、私がやるべき事を再確認した。
 相手は坊主頭の一部を剃っているロリ坊主(ロリコン)と、その仲間の猿顔茶髪のヒョロガリ(多分ロリコン)だ。
 気づかれないようにロリ坊主と猿助とペトラの後に続いた。

 おそらく人気のない所か、宿屋か、自分の家に向かう。そこで犯行するつもりだ。
 狙うなら人気のない道で通り魔を装って瞬殺だ。背後から襲えば楽に殺れる。
 ペトラが犯られる前に殺ってやる。

「……おい、いつまで着いて来るつもりだ? 俺達に用があるなら出て来いよ」
「いきなりどうしたんだよ、グリード? 何言ってんだ?」

(嘘ぉ! 気づかれた⁉︎)

 露店が並ぶ広い表道から人通りの少ない路地裏に入ったと思ったら、ロリ坊主が急に立ち止まってこう言ってきた。
 仲間の猿助の方は首を傾げているけど、狙い通りの場所に案内してくれたんだ。もう隠れる必要はない。
 
「へぇー、気付いていたんだ。意外とやるね」
「なっ⁉︎ だ、誰だ、テメェー‼︎」

 建物の角からスッと姿を現すと、猿助が盛大に驚いた。
 そのまま余裕の笑みを浮かべて、右手に持った五十センチの包丁を見せるように三人に近づいていく。
 今の私は路地裏のチンピラだ。金目の物とペトラを奪い取るのが仕事だ。

「当たり前だ。冒険者舐めんな。お前、殺気が冷たすぎんだよ。初めてじゃねえな?」
「まあね。熊なら殺した事あるよ。人間はまだないけどね」
「テメェーじゃねえよ! さっさと出て来いよ!」

(へぇっ? どういう事?)

 絶対に目と目を合わせて会話していたのに、ロリ坊主が私の後ろの方に向かって叫んだ。
 何が何やら分からないけど、とりあえず後ろを振り向いてみた。

「……へぇー気付いてたんですね。でも、殺したのは一人だけですよ。私って一途なんです。ねぇ、ルカ先輩」
「アリサ……」

 建物の角から私と同じ黒の制服を着た、右手に短い柳刃包丁を持った女が出てきた。
 有紗サイコパスだ。正真正銘の殺人鬼だ。あと私の真似するな。
 その殺人鬼が私に向かって寒気がする不気味な笑みを浮かべている。
 私を二回も殺したのに、まだ地獄に落ちていなかった。
 こうなったら私の手で地獄に落とすしかない。
 今度こそ殺られる前に殺ってやる。

「同じ服の女が二人か……チャンプ、お前は背の高い方を相手しろ。俺があっちをやる」

 ロリ坊主が私と有紗を舐め回すように見た後に、私を指差して猿助に言った。
 やっぱりロリコンだ。少しでも年齢が若い方がいいみたいだ。
 でも、本当にいいの? 猿が人間様に勝てると思ってるの?
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