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再六話 やっぱり冒険者は犯罪者

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「余計な事しやがって。あんな変態、俺一人で充分なんだよ」

 斧男に赤髪剣士はこう言ってるけど、体格差は重量級対中量級だった。
 二、三発殴られて両腕掴まれてポーキーされたら、赤髪サンドバッグが完成してた。
 今頃は便器に頭から突っ込まれて、ブラシ代わりに使われている。
 
「そう言うな。お前に怪我されると俺達が困るんだ。守り役の仕事をさせてくれ」
「町ん中までする必要ねえよ。おっと、あんた怪我してねえか? 何か変な事されたんなら、もうちょっと痛め付けてくるぜ!」

 赤髪剣士と斧男が仲の良い男子高校生みたいな会話をしていると、赤髪剣士が思い出したように、私にトイレを指差しながら笑顔で訊いてきた。
 この制服の切り傷は別の奴(有紗)にやられた傷で、体育は変態制服カッター切り裂き魔じゃないです。
 これ以上の暴行は可哀想なので、マジ勘弁してやってください。

「大丈夫です。ありがとうございます」

 体育をやったのは斧男だけど、空気を読んで赤髪剣士に頭を下げてお礼を言った。

「いや、ハッ……ハッハハハ! 男として当然の事をしたまでだよ! 別に礼なんていいって!」

 ……あっ、この人、私の偽胸見てる。
 何か赤髪剣士の視線がチラチラ胸を見てくるけど、切れ目から見えている黒い布は黒鞄です。
 そんな視線をちょっと外して、照れながら何度もチラ見するようなものじゃないです。

「そうそう、別に礼なんていいよ。コイツはあんたが可愛いくて胸デカイから助けただけだから。コイツも変態だから早く逃げた方がいいよ。今度はコイツに襲われるから」
「おい、テメェー‼︎ 何言ってんだよ‼︎ 俺、変態じゃないですよ‼︎ 襲いませんからね‼︎」

 緑髪弓使いの冗談を赤髪剣士が大慌てて否定している。
 もちろん私も冗談だと分かっている。本当の私は高身長、ド貧乳、料理下手だ。
 こんな女に魅力を感じるのは、バレーボール部とバスケット部ぐらいだ。

「あっ、はい、分かってます」

 照れずに真顔で返事した。

「いやいや、違う違う‼︎ あんたが可愛くないとかそういう意味じゃなくて‼︎ むしろ、めちゃくちゃ可愛いから‼︎ 本当は襲いたいからって、あぁー何言ってだ俺は‼︎ テメェーの所為だ‼︎」
「ぐほぉ……! な、何しゃがんだ……!」

(……あれ? この赤髪剣士の反応はもしかして私に一目惚れした?)

 本気の照れ隠しなのか、緑髪弓使いのお腹に赤髪剣士が左パンチを炸裂させた。
 良いパンチだったのか、緑髪弓使いがお腹を押さえて悶絶中だ。
 
「おい、二人共。悪ふざけはその辺にしておけ。お嬢さんが怖がっている」

(お嬢さん‼︎ 私が⁉︎)

「お前の顔に怖がって——ぐほお……!」

 あっ、また殴った‼︎ 赤髪剣士が何か気に障る事を言ったみたいだ。
 斧男の右拳が腹にブチ込まれた。赤髪剣士が緑髪弓使いと並んで悶絶している。

「エルヴィン、お前も何か言いたそうだな?」
「いや、俺は一発で充分——おごぉ……!」

 何で殴ったの⁉︎ 悶絶中の緑髪弓使いは何も言ってないのに殴られた。
 サイコパススキンヘッド(猟奇的反射頭)だ‼︎ 今度は私が殴られる番だ‼︎
 早く何か言わないと殴られちゃう‼︎

「わ、私は、す、素敵な顔だと思いますよ……」
「あっははは。よく言われます」
「えっ? 殴った後にですか?」
「……はい?」
「……えっ?」

 ……あぁー心の声がポロッと勝手に出てしまった‼︎
 斧男が笑顔を消して、真顔で私の顔をジッと見ている。
 私のお世辞に気を良くしてたのに、その後に変な事言うから本音が出ちゃった。
 あの顔を素敵だと言ってくれるのは、お母さんとお婆ちゃんぐらいだ。
 あの顔で奥さんはいないだろうから、娘さんからも絶対に言われない。

「くっはははは! 確かに殴られた後なら、俺でも愛してるって言うだろうな!」

 赤髪剣士が回復したのか、私の本音を大笑いで賛同してくれた。
 だけど、それは火に油を注ぐ危険行為だ。

「だったら試してみるか?」

 ほら、やっぱり斧男が拳を鳴らして反応している。
 せっかく回復したのに、体育と一緒に便器に流されたいみたいだ。

「いや、いい‼︎ 愛してる! 愛してる!
「俺も愛してる! だから殴らないでくれ!」
「わ、私も愛してます!」

 赤髪剣士、緑短弓使いに続いて、私も急いで偽りの愛を叫んだ。
 真実の愛は殴る以外の方法で別の人を探してください。

「お前達は……はぁぁ。殴るのも馬鹿らしいな。お嬢さん、俺達はもう行くがまた困った事があったら冒険者ギルドに依頼してくれ。俺は『ジェイ』だ。指名してくれれば割引きさせてもらう」
「あっ、はい、ありがとうございます」

 良かったぁ~殴られなかった……んっ? あれ? 冒険者ギルド?
 てっきり武装した○○組若ハゲがしらの人かと思っていた。
 困った事と言えば、まさに絶賛困っている中だ。

「あの、それじゃあ早速で申し訳ないんですけど、相談してもいいですか?」
「ああ、人殺し以外なら何でも相談してくれ」
「ありがとうございます! それじゃあ……」

 私が相談したい事は人殺しどころか、その反対だ。
 聖女に会う方法、ラナさんの治療方法に心当たりがないか訊いてみた。

「なるほど……聖女の方は諦めた方がいいな」

 私の相談を聞いて、斧男がハッキリ言いきった。なので、聞き返した。

「えっ、駄目なんですか?」
「ああ、無理だ。一国の国王に平民どころか、浮浪者が会いたいと言っているようなものだ。会う為に必要なのは金ではなく、地位や信用だ。お嬢さん、何か人に誇れるような事をした事あるか?」
「う~ん……?」

 斧男に尋ねられて、一応考えるフリだけしてみた。
 私、この世界に数時間前に来たばかりで、まだ偽医者のタマタマしか蹴り潰してないです。

「ありませんね」
「だったら知り合いにはいないのか?」
「それもありません」

 だから数時間前に来たばかりです。
 凄い知り合いも凄くない知り合いも一人もいません。
 今度も考える必要もないので即答した。

「そうか……エルヴィン、お前、薬に詳しいだろ。魔力中毒に効く薬はないのか?」
「知るわけないだろ。俺が出来るのは簡単な応急処置ぐらいだ。薬には詳しくねえよ」
「何だよ、お前回復役だろ? そのぐらい日頃から勉強しておけよな」
「誰が回復役だ。俺は狩人だ。本職の回復役が欲しいなら、お前の自腹で誰か雇ってろ」
「何で俺の自腹なんだよ!」
「お前が一番怪我してるからだよ! お前の治療費が地味に金食ってんだよ!」
「確かにその通りだ。いい加減に馬鹿みたいに突っ込むのはやめろ。魔物でも学習能力はある」
「おいおい、俺の評価は魔物以下か? その魔物を倒してんのは俺だぞ」

 ……あれ? 別の相談が始まってるよね?
 どう聞いても冒険者同士の内輪揉めが始まってしまった。
 三人の中で誰が一番使えない人間なのかは、私の相談とはまったく関係ない話だ。
 さっさと数日中に逮捕される斧男に決めて、私の相談に戻ってほしい。
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