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再五話 私の胸が揉まれる

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 トイレの個室を更衣室代わりに、ジーファン爺さんのファッションから制服に着替えていく。
 男っぽい服も普段から私服で着ているけど、やっぱり女子ならスカートだ。
 この足がスースー冷たい感じが、女子という気分にさせてくれる。

 でも、下が女子になっても、上(胸)が男子のままだ。
 これをどうにかしないと、女装した男が女子トイレから出てきた事件発生だ。
 通報されたくないなら、上も女子にならないといけない。
 脱いだ冒険者服を制服が入っていた黒鞄に詰めて、胸の形に整えていく。

「良し! これで完璧♪」

 ブラもパットも使わずに、どうにか偽乳完成だ。
 服を詰め込んだ黒鞄の真ん中をベルトで縛って、8の字型に固定した。
 肩下げタイプの黒鞄の長い持ち手は、巻いて縛って長さを調節して首にかけた。

(う~ん、Dかな?)

 ポスポス、ポスポス。
 なった事がないけど、多分Dカップぐらいの大きさだ。
 全然柔らかくない偽乳揉んで、サイズを確認してみた。
 今までの最高偽乳は謙虚にBパットだ。
 黒鞄の大きさは調節できなかったから、これは仕方ない。
 ちょっと大き過ぎるけど、これぐらい大きければ一目で女子だと分かってくれる。

 トドメに薬草を取り出した白鞄を冷凍庫から出して、長い持ち手を右肩にかけて、左腰の横に鞄本体を置いて、持ち手で胸を主張してみた。
 これで街中で見かける『私、おっぱい大きいですよぉ~♪』のあざと巨乳女子の完成だ。
 擦れ違う男達が必ず二度見しちゃうから、困っちゃうぞ。

(……誰もいないよね?)

 ソッと扉を開けて、外を確認してみた。
 前、右、左……と私を探している人はいないみたいだ。
 制服を着た何処にでもいそうな可愛い女子として、女子トイレから出られる。

「ああ、いい天気。早くお買い物に行かなくちゃ……」

 外に出たけど、悲鳴は聞こえない。街の女子達に女子として認識されているみたいだ。
 これで安心して街を歩く事が出来る。さて、何処に行けばいいんだろう?
 情報集めに冒険者ギルド? それとも聖女に会う為に教会とか?

「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ! ちょ、ちょっとキミ!」
「はい?」

 これからの予定を考えていると、背後から男の大きな声が聞こえてきた。
 声の方を振り向くと、全身汗だく(タンクトップ含む)の体育教師が立っていた。

「やっぱり間違いない! やっと見つけた! さあ、行くぞ!」
「えっ⁉︎ えっ⁉︎ ちょっと、何するんですか‼︎」

 何か知らんけど、いきなり体育が私の右手首を掴んで引っ張り出した。
 左手で体育の手を素早くビンタして払い除けると叫んだ。
 私がいくら可愛い巨乳女子だからって、やっていい事と悪い事がある。

「いいから来い!」
「なっ‼︎」

 はぁ~? 何コイツ‼︎ 
 体育が再び私の腕を掴もうとしたので、後ろに跳んで躱してやった。
 この体育、絶対に巨乳好きの変態野朗だ! 私を誘拐してイタズラするつもりだ!

「抵抗するつもりか? だったら少し痛い目に遭うぞ。金貨五枚!」
「は、はい⁉︎ えっ、えっ、な、何言ってるんですか⁉︎」

 えっ……嘘‼︎ 金貨五枚って、この体育、私の正体に気づいてる⁉︎

「とぼけても無駄だ。その胸を揉んで、本物かどうか確かめてやる。さあ、揉ませろ!」
「い、嫌ぁ……」

 やっぱり気づいている‼︎
 体育が両手を伸ばして、私の胸を揉もうと迫ってきた。
 両腕を交差して胸ガードするけど、力も速さも体育の方が上だ。
 私の胸が、偽乳が揉まれてしまうぅ~‼︎

「おい、やめろよ。嫌がってるのが分かんねえのか?」
「んっ?」

 偽乳の絶体絶命のピンチに救世主様達が現れてくれた。
 体育の背後に三人の強そうな男達が立っている。逃げるチャンス到来だ。

「……その格好、冒険者か? 事情も知らずに邪魔するとは、お節介と迷惑の違いも分からないらしいな」

 体育が背後を振り向くと、三人を軽く見てから喧嘩腰に言った。
 剣と斧持った男達に全然ビビっていない。まだ逃げない方がよさそうだ。
 救世主様達が瞬殺される可能性がある。

「減らず口を。おいあんた。この男とは知り合いか?」
「いいえ、違います! いきなり私の胸を揉もうと迫ってきた変態です!」

 赤髪を逆立てて、右側を一房だけ垂れ下げている剣士が訊いてきた。
 なので、素早く事実を伝えた。これで絶対に助けてくれる。

「ほら見ろ、変態野朗。どうやらこの女には、お前は変態にしか見えてないようだぜ。さっさと消えろ。でないと痛い目に遭わすぞ」
「ハンッ。誰が誰を痛い目に遭わすって? まさかお前じゃないだろうな、ヒョロガリ?」

 私の計画通りに赤髪剣士と体育の睨み合いが始まった。
 お互いに一歩踏み出せば、キス出来るぐらいの超絶至近距離デスラップだ。

「あん? デカイのは身体だけで、脳みそは下のタマタマと一緒で極小か?」
「だったら試してみるか? テメェの尻に俺の拳と息子が入るかどうかよおー」
「どっちもお断りだ。テメェの母ちゃんで試すんだな」
「このガキが。大人を舐めるとどうなるか教えてやるよ」

 ……うわぁー、凄い殺気だ。私なら三秒で土下座しそう。
 二人共顔は笑っているのに、目がどんどん血走ってる気がする。
 私の事はもう眼中になさそうだから、余裕で逃げられそうだ。

 でも、私の所為で助けてくれた人が殺されるのは嫌だ。だけど、今の私はか弱い女の子だ。
 胸から柳刃敏朗を出して、体育を刺し殺すなんて出来ない。
『二人共、私の為に争わないでえー‼︎』という、ちょっと嬉しい気持ちで見守るので精一杯だ。

「おい、ルーク。頭を冷やせ。あんたもうちの馬鹿が悪かったな。ここは大人同士、ちょっとそこで話さないか?」

 胸の前で心配顔で手を組んで見守っていると、ツルピカ頭の大男さんが前に出てきた。
 身長百八十後半、体重百キロ近くはありそうだ。
 斧と盾を背中に装備していて、体格は体育と同じぐらいに大きい。
 その人が髭トイレを右手の親指で指して、体育を誘っている。
 
「……いいだろう。その女が逃げないように見張っていろよ。逃げたら金貨五枚弁償してもらうからな」
「フンッ。テメェが逃げないように見張っててやる。まあ、逃げても追いかけねえから安心していいぜ」
「だったら、俺もそうしてやるよ。逃げるなら、俺の小便が終わる前に済ませておけよ」

 大きな身体同士で気が合うみたいだ。
 斧男の提案を体育が受け入れて、連ションに同意した。
 確かに斧男は他の若そうな二人と違って、三十代前半の老け顔をしている。
 大人同士で穏便に話し合いで解決するんだろうな。
 体育が赤髪剣士の挑発に余裕の笑みを浮かべて、トイレに入っていった。

 バタン。

「ぐはぁ⁉︎ ごべぇ……ずべぇ、はぶぅ……き、貴様……ごがあッッ‼︎」

(……えっ?)

 扉が閉まった途端に中から呻き声が聞こえてきた。
 どっちの声か分からないけど、何をやっているか一目瞭然だ。
 話し合いじゃなくて、殴り合いが始まっている‼︎

「……待たせな。水に流してきた」

(誰を⁉︎)

 赤髪剣士とその仲間の緑髪弓使いと待っていると、扉がゆっくりと開いた。
 中から出てきたのは、スッキリした顔の斧男だった。両拳をトイレの紙で拭いている。
 汚いものが手に付いちゃったみたいだけど、絶対に排泄物じゃない‼︎
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