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再四話 ノッポ女を捕まえて五十万円

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「最後にもう一度言うよ。聖女を紹介して」

 聖女の居場所は知らないので、別の誰かに聞くよりもこの偽医者に聞いた方が早い。
 優しい私がタマタマが回復するまでちょっとだけ待ってあげる。
 あんまり遅いと臭い採れ立て薬草口に突っ込んで、無理矢理回復させちゃうよ♪

「だ、だから無理だ‼︎ いや、無理なんです! あの患者は持って一日。どんな方法を使っても、聖女がいるみやこまで二週間以上はかかります! もう手遅れなんです!」
「なっ⁉︎ い、一日……」

 そんなぁ……あっ、でも冷凍保存すれば持つかも?
 余命一日、片道二週間に絶望しかけていたけど、私には大型冷凍庫があった。
 生きてる時に素早く冷凍して、聖女の前で解凍して治療してもらえれば助かる可能性はある。

「分かった。じゃあ乗り物手配して。必ず二週間ちょっとで聖女に会わせてね♪」
「イ、イカれてやがる‼︎ やりたきゃ自分でやれ‼︎ 誰か助けてくれぇー‼︎ 強盗だ‼︎ 強盗に殺される‼︎」
「あっ! このぉ……!」

 そこまで回復しろとは言ってない!
 ニコリ笑顔で頼んだのに、偽医者が元気に立ち上がって逃げ出した。
 捕まえたら路地裏に連れ込んで、ボコってもう一度丁寧に頼んでやる。

「はい、捕まえた♪ 私から逃げられると思ったの?」
「ひいいいい‼︎ こ、殺さないで‼︎」

 軽く走っただけで追いついた。めちゃくちゃ遅かった。
 シャツの襟首を右手で掴んで、グイッと引き寄せた。
 このまま外壁の方に短剣で脅して連れて行ってやる。

「さあ、あっちでゆっくり話そうか? 二人っきりで」
「だ、誰か助けてくれえー‼︎ 助けてくれたら金をやる‼︎ 金貨五枚だ‼︎ 金貨五枚やるぞ‼︎」

 この後に及んで悪足掻きするなんて見っともない。
 これは早く臭い薬草口に突っ込んで黙らせないと。

「おい、金貨五枚だってよ」
「金貨五枚か」
「あの細い男なら行けんじゃないか」

(えっ?)

 偽医者を両手で引き摺るのを止めると、周囲を警戒した。
 歩くのをやめてこっちを見ている人、窓や扉を開けて私を見ている人、早くも角材を持っている人……
 ザッと数えただけで四十人近くの人がジッと私を見ている。
 この視線はきっと好意の視線でも敵意の視線でもない。
 鴨がネギ背負ったみたいな、道に福沢諭吉が落ちているみたいな、絶好の好機を見つけた視線だ。

 私基準で金貨五枚を日本円に両替すると、多分『五十万円』だ。
 弱そうなノッポ女から偽医者助けるだけで五十万円貰えるなら、私なら何も考えずにノッポに飛び蹴りする。
 つまり雑魚倒して大金獲得チャンス到来に街の人達が私を殺しに来る。

「てぇにゃあー‼︎」
「あっ、逃げたぞ‼︎ ブチ殺せ‼︎」
「待てや、コラぁー‼︎」

 やられる前に逃げろだ。偽医者から両手を離して全力で走り出した。
 嫌な予感通り、怒号を上げて角材持った半袖白シャツ男と茶色い鉢植えを持った男が追って来た。
 人殺し集団に捕まったらどうなるか、有紗サイコパスに殺られたから分かっている。
 今回は金に飢えた猛獣街人四十人だ。ボコボコじゃなくて、ボロボロにされる。
 つまり『コ』が『ロ』にされる。コロされるだ‼︎

「ハァハァ! ハァハァ!」
「テメェー止まれやぁー‼︎ 止まらねえとブッ殺すぞ、オラッッ‼︎」

 ヤクザだ! ヤクザが追って来る! 石畳の直線道を全力で走り続ける。
 休んだら負けだ。止まったら死だ。死にたくないなら走り続けるしかない。

「ハァハァ! くそぉ、速え……」
「あぁークソ‼︎ もう駄目だ、これ以上は走れねぇ……」

 ふぅヒヒヒヒ♪ もうおじさん達限界みたいだ。地面に座り込んでどんどん脱落していく。
 若さと体力が有り余っている女子高生に勝てるはずがないのだ。

「金貨♪ 金貨♪ 金貨♪」
「はううう‼︎」

 白タンクトップを着た体育教師みたいな男が両腕を前後に大きく振り回して猛追してきた。
 きっと百メートル十二秒台だ。捕まったら背負い投げからの首絞めで私の人生が終わる。

(くっ、路地裏‼︎)

 追いつかれる前に建物と建物の一メートル程の隙間道に逃げ込んだ。
 こんな狭い場所で挟み討ちされたらほぼ終わりだけど、何とか安全な場所まで逃げ切るしかない。
 広い直線道であれに勝てる自信がまったくない。

「この中に入ったぞぉー! 先回りして出口塞げ!」
「俺に任せておけ! うおおおおおッ!」

 ヤバイヤバイヤバイ‼︎ 私も全力だけど、体育はそれ以上に全力だ。
 イカれ声を上げて、私を路地裏の中に閉じ込めようと勝負を仕掛けてきた。
 このままでは映画に出てくる頭の悪いモブ金髪セクシー美女みたいに、悪者(体育)に路地裏の行き止まりに追い込まれて、『キャ~キャ~!』悲鳴を上げながら殺されてしまう。

 でも、私の場合は人通りがある場所には逃げられない。
 懸賞金をかけられたから誰も助けてくれない。逆に捕まってしまう。
 人が少ない、人が来ない場所に隠れて諦めてくれるのを待つしかない。

 木箱、シーツの裏、デカイ人の後ろ……逃げながら必死に隠れ場所を探す。
 人が住んでいる建物は駄目だ。お店の中も危ない気がする。
 街の外に逃げるという手もあるけど、街の出入り口なんて一番に塞がれる。
 隠れるなら絶対に相手の予想外の場所に隠れないと駄目だ。

「あっ、あのマークは……!」

 大きな建物の一階に逃げながらも見つけてしまった。
 胸のデカイ女性の上半身という、下品な絵が扉に刻まれている。
 多分、女性しか入れないお花畑だ。
 隣の扉には胸の無いヒゲ男がいるから間違いない!
『誰もいませんように!』と祈って、扉の中に逃げ込んだ。

 ♢

「くそッ! 見失ったあ‼︎」
「慌てんな。どうせこの辺に隠れている。この辺の道を全部塞げば逃げられねえ」
「そうだな。金貨五枚、二ヶ月分の給料だ! 絶対に捕まえてやる!」
「よーし! もっと人集めるぞ!」

 巨乳トイレに隠れていると、外から男達の作戦会議が聞こえてきた。
 髭トイレは調べていたのに、こっちは調べないみたいだ。
 まあ、巨乳トイレだ。巨乳しか入れないから当然だ。
 もしも男達が入ってきたら『キャ~キャ~!』言って追い出してやる。
 未来の巨乳代表として。

「おい、ちょっと待てよ。金は捕まえた奴の総取りだろうな? 山分けなら、俺は協力しねえぞ」
「何言ってんだよ。全員で分けても銀貨一枚にはなるだろ。それでいいだろう?」
「巫山戯んじゃねえよ! 捕まえた奴が金貨五枚だ!」
「おいおい、欲張んなよ。ゴチャゴチャ言うつもりなら野朗捕まえる前に、お前からブッ倒すぞ」
「ああッ? やれるもんならやっみろよ!」

 あっ、仲良く作戦会議してたのに、仲間割れが始まったみたい。
 金貨五枚の取り分で仲間割れが始まった。次は殴り合いの喧嘩が始まるぞ♪
 やれやれ♪ 殺れ殺れだ♪

「……いや待てよ? あの野朗から助ければ金貨五枚だよな?」
「ああ、そうだな。それがどうかしたのか?」
「だったらあの野朗逃げたから、もう助けた事になるんじゃねえか?」
「あっ! 捕まえるのあっちじゃねぇ‼︎ あのクソジジイ捕まえるぞ‼︎」

 殴り合いの喧嘩が始まると思ったのに、私から偽医者にターゲットが変わったみたい。
 野朗達が『うおおおお!』と雄叫びを上げて遠ざかっていく。
 これで外に出る事が出来る。

 でも、このまま外に出るのは危険だ。
 今度は女性達から『変態が女子トイレから出てきたわ!」と悲鳴を上げられてしまう。
 完璧な誤解だけど、この冒険者ギルド用の男服がイケない。
 女子トイレに入ったんだから、今こそ私の真の姿に戻る時だと思う。
 左胸から包丁を取り出すと、冷凍庫に変えて、中から黒鞄を取り出した。
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