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再二話 どう見てもあれだよね?

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「あれ? これって……」

 歩き始めて数分、赤い傘のような花を沢山付けた植物を見つけた。
 薬草探し中にペトラが『この花の部分が甘くて美味しいんですよ』と教えてくれた。
 名前は確か『赤傘甘々草あかかさあまあまそう』だ。
 こっちの世界にもあるなんて、生息範囲が世界を超えるビックな花だ。

「どれどれ……」

 プチッと花を引き千切って軽く噛んでみた。
 薄められた砂糖水のような甘さだ。前にペトラと食べた時と同じ味だ。
 世界は超えられても、甘さの限界は超えてなかった。
 とりあえずお菓子代わりに回収しよう。文字通り道草を食うだ。

「ふぅーん、結構同じのがあるんだぁー」

 食糧も水も今回はある。左右に顔を動かして、時間をかけて森を調べていく。
『耳長ギザギザ草』『桃色ランプ草』『緑葉っぱデカデカ草』『黒丸ツイテル草』……
 子供が考えそうな名前の薬草達が次々に見つかった。
 どれも白鞄に入っている薬草と同じ薬草だと思う。

 とりあえず薬草っぽいのは全部回収だ。
 財布の中に金貨や銀貨はあるけど、この世界では使えないかもしれない。
 売れそうな物はとにかく回収だ。鞄の中を探してもスマホは見つからなかった。
 高額のスマホが無ければ、手持ちで売れそうな物は短剣と鍋だけだ。
 二つとも絶対に超安い。薬草採取が私の生命線になるかもしれない。

 前の異世界と超そっくりな森を薬草集めつつ、魔物や野盗を警戒しつつ進んでいく。
 特に凶悪なロリコン熊も現れず、野蛮な原住民にも遭遇しない。
 なんて平和で長閑な森なんだ。もうこの森で自給自足してもいいかもしれない。

「あっ、出口かも」

 まあ、それはこの世界に街や私が出来る仕事が無くて、生活できない場合の最終手段にしよう。
 前方に見える樹木の列が終わってしまった。森を抜けると背の高い緑色の草原が広がっていた。

「ん~? んん~⁇」

 何か凄く見覚えのある風景だ。
 私の記憶が確かなら、この大草原は最近見た事がある。
 それも絶対に二十四時間以内だ。

「いやいや、まさか——なっ⁉︎」

 そんな訳ないと、首を右から左に回して大草原を見渡すと、見つけてしまった。
 草原の中を伸びる白い砂利道と、その先にある楕円形に広がった街を。

「いやいや、街なんて何処も一緒だよ! 絶対に違う! 絶対間違いない!」
 
 見た事ある街の形だけど、あの街なわけがない。
 間違いない。行けば分かる。さっさと行って確かめよう!

 数十分後……

(めっちゃアイツじゃん!)

 白の長袖シャツ、チェックの赤緑ベスト、赤のベレー帽、黒の長ズボン、茶革のロングブーツ。
 砂利道街道を進んで、街の入り口にたどり着いた。
 外壁に囲まれた街の入り口に立っていたのは、超見覚えのある顔の槍持ち門番だった。

(えっ、どういう事⁇ 街もあの門番も知ってるんだけど⁉︎)

 どう見ても絶対にあの街だ‼︎
 名前も知らない街だったけど、雰囲気があの街だ。
 もうそっくりさんレベルじゃない、ご本人さん登場レベルだ。

「と、とりあえず入ろう!」

 ここで眺めていても何も始まらない。街の入り口の石橋に右足を踏み入れた。
 まずは第一街人の外国人門番に言葉が通じるか確認だ。
 あの街の門番ならば、日本語が通じるはずだ。

「すみません……」
「ん? 何だ?」

 あっ、やっぱり通じた。話しかけたら普通に日本語が返ってきた。
 とりあえず何か訊いてみよう。一回会ったから初対面じゃない。
 私の事を覚えている可能性もある。

「えっと、私の事知りませんか? 少し前に黒い制服、いえ、黒いスカート履いて女装して通った事あるんですけど……」
「はぁ? そんな変態が通ったら覚えている。くだらない事言ってないでさっさと通れ。俺を揶揄って遊びたいなら、牢屋の中で遊ぶ事になるぞ」
「す、すみません! すぐに入ります!」

 この歳で牢屋暮らしはしたくない。すぐに謝って、すぐに街に入った。

「ふぅー……完璧にあの街じゃん」

 一息吐いて落ち着くと、街中を見回してみた。
 建物、雰囲気、街人の服装、屋台の商品、どれもあの街と一緒だ。
 間違いない。私は死んだけど、同じ森で生き返っている。
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