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再一話 悪夢再び

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「うわああああああツツ‼︎」

 酷い悪夢だ‼︎ 酷過ぎる悪夢だ‼︎
 飛び起きると世界が震えるほど大絶叫した。

「ハァハァ、ハァハァ…………えっ? 私、生きてるの?」

 何が何やらさっぱり分からない。死んだと思ったのに生きている。
 目を覚ますと森の中に寝っ転がっていた。
 恐ろしい悪夢を見たのかと思ったのに、まだ夢の中にいるみたいだ。

「これ……夢じゃない⁉︎」

 だけど、私が着ている服を見たら、雑貨屋のエロ爺さんが選んだ冒険者服だった。
 ご丁寧に有紗に包丁で貫かれた穴が胸に開けられている。
 もう悪夢の続きなのか、現実の続きなのか分からない。

「あれ? これって、もしかすると……」

 でも、このパターンには見覚えがある。
 失敗した日が繰り返されるやつ『タイムループ』だ。
 有紗に殺されて生き返ると森の中で目を覚ます。
 間違いない。私は『異世界タイムループ』している。
 出来れば有紗に日本で殺される日の朝がいいのに、やっぱり悪夢だ。

 ——ガァン‼︎

「がはぁ‼︎ 痛ぅぅぅぅ、一体何なの……?」

 大正解のご褒美じゃないのは分かる。
 空から女の子じゃなくて、硬い何かが頭に落ちてきた。
 頭を両手で押さえて痛みを堪え、私を襲った物体を確認した。

「な、鍋……?」

 地面に見覚えのある鉄鍋が落ちていた。
 私が薬草を煮た時に使った鍋にそっくりだ。
 ご丁寧にバンダナさんの家に忘れた鍋を誰かが届けてくれたのかもしれない。

「一体誰が……」

 考えれば疑問は山程でてくるけど、今は状況確認が先だ。
 森は森でも別の異世界の森かもしれない。前に目覚めた街近くの森じゃない可能性もある。
 とにかく森を抜け出して、外に何があるのか確認したい。

「あっ、敏朗!」

 確認で思い出した。私の左胸には敏朗がいる。いるはずだ。
 左胸に手を当てて、出て来るように念じた。すると、すぐに左胸が光り出した。
 シャツをググッと押し上げて、外に何かが出ようとしている。
 シャツのボタンを急いで外して、胸の中に右手を突っ込み引き抜いた。

 ズポッ‼︎

「くわっ! や、やっぱりいた!」

 予想通りに左胸に敏朗が潜んでいた。それも前よりも長くなっている。
 前は二十五センチ、今私が右手に持っている柳刃包丁は五十センチはある。
 長さが約二倍になっている。

(——じゃねぇよ‼︎)

 敏朗の成長なんてどうでもいい。私が確認したいのは敏朗の中身だ。
『冷凍庫になれ!』と急いで念じた。忘れた鍋が届いたのに、白鞄と黒鞄は届いてない。
 どっちもペトラとラナさんと一緒に冷凍庫に入れたものだ。
 あるのなら、冷凍庫の中にあるとしか思えない。

「ペトラッ‼︎」

 冷凍庫に変化したので、急いで重い扉を開けて中身を確認した。
 それなのに……

「な、無いッ‼︎ 何で‼︎」

 確かにこの中に死体を入れた。入れた死体が無くなっている。
 あるのは白鞄と黒鞄だけだ。絶対にあるはずのものが無くなっている。

「どうして、嘘でしょ……」

 発言が異常者の発言だけど、仕方ない。
 一応少し膨らんだ白鞄の大きなボタンを外して、中身を確認してみた。
 白鞄には薬草の入った布袋、塩の入った小袋、名も知らない野菜、水の入った革袋があった。
 黒鞄には制服が入っていた。制服を確かめてみると、左胸に穴が開いている上着とシャツが出てきた。
 やっぱり悪夢じゃない。日本で殺されて、街でも殺されている。
 間違いない。私は二度死んでいる。
 包丁の刺し傷が開いた二着の服が存在する理由は一つしかない。
 私が二回殺されて、二回生き返ったという証拠だ。

「くぅぅぅ、アリサめ!」

 あの小娘、今度会ったら許さない。先に天国、いや地獄に送り届けてやる。

(さて、どうしよう?)

 復讐を誓うと立ち上がった。ここで待っていたら、有紗が追ってくると思う。
 待ち伏せして滅多刺しにすれば地獄に送れる。

 でも、一人を二回殺したあの凶悪殺人鬼が来れるか分からない。
 有紗の説なら二人殺したら地獄行きだ。日本の法律なら死刑だ。
 同じ人間でも二回殺したら、二人と数えていいと思う。
 むしろ地獄に一人で行けだ。

「よし、行こう! おおー!」

 多分、有紗は来ない。というか来られない。
 だったらやる事は決まっている。前と同じで街探しだ。
 森経験者の私なら、木の影と反対方向に進めば、森から出れると知っている。
 死んだ所為か眠気と傷が消えて完全回復している。
 冷凍庫に鞄二つと鍋をぶち込むと、包丁に変えて、街を目指して元気に出発した。
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