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第十話 ロリコンはゴキブリと同じ害虫

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 バァタン‼︎

「すみません‼︎ 依頼いいですか‼︎」

 急いで帰ろうとしていたのに、扉が勢いよく開いて、女の子が飛び込んで来た。
 強面達が『あん?』と私の時と同じように、扉の方を一斉に振り向き睨み付けている。
 これがこの組の挨拶みたいだ。

(あわわわっ‼︎ は、入る店間違えているよ‼︎ 早く帰った方がいいよ‼︎)

 ここは『君みたいな女の子が来る場所じゃないよ!』と急いで教えたい。
 女の子は十二~十三歳ぐらいで、フワッとしたセミロングの茶色い髪をしている。
 服は半袖膝下の可愛いらしい白ワンピースで、生地の端が青いレースで縁取られている。

「どうした? 何かあったのか?」

 ……えっ? 極悪爺の落ち着いた声に思わずカウンターを振り返った。
 少女と私では対応が全然違う。ま、まさか⁉︎ ロ、ロリコン爺⁉︎

「お願いです、お母さんを助けてください‼︎ 病気でどうしても『妖精の薬草』が必要なんです‼︎」
「……悪いがうちには無えな。その薬草を見つけるのは諦めるんだな」
「そ、そんなぁ……」

 ロ、ロリコンじゃない? 少女のお願いを極悪爺が丁寧に断っている。
 だけど、薬草なんてゲームの定番アイテムだ。それが置いてないなんて品揃えの悪い店だ。

 ううん、むしろ扱ってない方が納得できる。扱っているのは薬草は薬草でも、ヤバイ薬草だ。
 だって表向きは冒険者ギルドでも、店の中は暴力団事務所だ。
 健全なマッサージ店と看板出して、凄くドエロな事をするのが暴力団だ。
 きっと妖精の薬草とかいう名前のヤバイ麻薬を売っているけど、子供だから売れないんだ。
 そんなヤバイ薬を子供に買いに行かせるなんて、ある意味お母さんは病気だよ。

「ぐぅへへへ! なあ、お嬢ちゃん。報酬はいくらあるんだ?」
「おい、グリード。やめろって」
「良いじゃねぇかよお~! 話を聞くぐらい!」

 うわぁー、心配したとおりの展開だ。落ち込む少女に二人の若い男が近づいた。
 一人は黒髪を丸坊主にして、一部を剃り込んだ大柄な極太マッチョ。
 もう一人は短い茶髪の猿顔の中肉中背男だ。
 猿顔が止めるフリをしているけど、下品な顔を見れば、そのつもりがないのは一目で分かる。

「報酬は鉄貨六枚です。お願いします、足りない分は働いて払いします!」

 何度も頭を下げてお願いする少女から、事態の深刻さがヒシヒシ伝わってくる。
 お母さんはかなりの重病みたいだ。何とかしてあげたいけど、麻薬中毒は力になれそうにない。

「うーん、少ねえな。妖精の薬草って言ったら『存在しねえ幻の薬草』って言われるぐらいだ。報酬には少なく見積もっても銀貨三枚。でも、まあそうだなぁ~? 足りない分はお嬢ちゃんの身体で払うってのはどうだ?」
「……はい?」
 
 はぁっ? 身体で払えって?
 あの筋人丸坊主‼︎ 絶対ロリコンだ‼︎
 困ったフリしながら、少女の身体を舐め回すように見ている。
 貧乳=ロリコンだと思っている胸(凶)悪犯罪者だ。
 今にも少女の身体に触ろうとしている。同級生のロリコン西村タイプだ。

『がっははは! 長身でド貧乳な女はロリじゃねえよ! 需要ゼロゼロ! 背低くて胸デカければ、雪澤も可愛いのに残念だよなあ~!』

 一部の女性を馬鹿にして笑うそういう男は、闇夜に麺打ち棒で頭を強打されて、尻に長ネギ突っ込まれて、髪の毛全部むしり取られて、両足をロープで縛られて、運動場を二十周バイクで引き摺り回されても文句は言えない。
 ロリコンはゴキブリと同じで合法的に駆除しても許される存在だ。
 ロリコンを見たら必ず殺さらないといけない。そうしないと新しいロリコンが目醒めてしまう。
 この冒険者ギルドの誰もこの醜悪なロリコンを殺らないなら、私が滅殺してやる。

「払う必要なんかないよ。足りない分は私が払ってあげる」
「あん? 何だテメェー、邪魔するつもりか? さっさと帰れ。お前は用無しなんだよ」

 エロ爺騙してお金なら持っている。財布を取り出し、ロリ坊主に言ってやった。
 不機嫌そうな顔でロリ坊主が振り向いたけど、財布から銀貨三枚取り出し投げつけた。

「てぇ! 何すんだ‼︎」
「銀貨三枚でいいんだよね? さっさと探しに行きなよ。見つける自信あるんでしょ?」
「このクソガキがあー‼︎ 殺されていようだなあー‼︎ テメェーから先にやっちまうぞ‼︎」

 ロリ坊主の目蓋がピクピク痙攣している。相当キレている。
 本性剥き出しで超ヤバイけど、殺られる前に殺れだ。
 右手を握り締めると、ロリ坊主の鼻にブチ込んだ。

 ドガァ!

「がふぅッ⁉︎」

 拳がロリ坊主の鼻のド真ん中に命中した。
 ロリ坊主が後ろに軽く怯んで、鼻から赤い液体を垂らしている。

「こ、この野朗おー‼︎ ブッ殺してやる‼︎」

 だけど、それだけだった。
 身長差は十五センチ以上、体重差は四十キロ以上はありそうだ。
 ほとんど効いてない。ロリ坊主が顔を真っ赤にして激怒している。
 凄く怖いけど絶対に謝らない。ロリコンに謝るぐらいなら、ゴキブリに謝った方がマシだ。

「うおらッ!」

 謝らないでいると、ロリ坊主が私の顔面を狙って右拳を力一杯振り回してきた。
 少女に手を出し、女の私にまで手を上げるなんて、下衆中の下衆野朗だ。

「ふぅッ!」

 下衆パンチなんて当たらない。絶対に当たりたくもない。
 必死に左に跳んで避けると、右手の中指を立てて言ってやった。

「キチンと入れろよ、ノロマ!」
「こ、この野朗おー‼︎ その顔ぐちゃぐちゃに整形してやる‼︎」

 安い挑発にさらにロリ坊主が大激怒した。
 怒りで狭くなった視野で出来るものならやってみればいい。
 部活で鍛えたフットワークを見せてやる。

「うらうらうらあああ‼︎」

 ブンブンブン。単純な左右の大振り連続パンチを避けて避けて避けまくる。
 有紗の連続殺傷攻撃に比べれば怖くない。
 だけど、私の軽い拳じゃこの大男は倒せない。
 疲れてきたら必殺『玉潰し蹴り』で動きを封じて、少女と一緒に逃走するしかない。

「死に腐れえー‼︎」

 パシィン‼︎

 えっ? 避けようとした下衆パンチが、目の前に現れた大きな手に受け止められた。
 誰だろうと思って手の先を追っていくと、カウンターにいたはずの極悪爺が立っていた。

「おい、いつまで汚ねえダンス踊るつもりだ?」
「痛てててえ‼︎ 骨が折れる‼︎ 骨が折れる‼︎」
「このギルドの面汚しがあー‼︎」

 ドゴォン‼︎

「ぼおへええ‼︎」

 拳を握り潰されると内股で痛がっていたロリ坊主の顔面に、極悪パンチが炸裂した。
 私のパンチじゃビクともしなかったロリ坊主が入り口の扉をブチ開けて、建物の外まで殴り飛ばされた。

「ち、違うんだマスター‼︎ この嬢ちゃんに諦めてもらおうと——」
「——まだいたのか? さっさと消えるか死ぬか選べ」
「す、すいやせんしたあー‼︎」

 猿顔が何やら組長に必死に弁明しようとしてたけど、無駄だった。
 ギロリと睨まれ殺人予告を受けると、猛ダッシュでロリ友が消えた扉の方に逃げていった。
 私もそれが正解だと思う。
 
「おい、お前。名前はなんだ?」
「へぇっ?」

 私も殴られると思ったのに、名前を訊かれた。なので、正直に答えた。

「雪澤瑠夏ですけど」
「長えな。ちょっと待ってろ」

 んっ? 名前を聞くと組長爺がカウンターに向かった。
 何やら引き出しを開けて、取り出した小さな紙に書いている。
 また手書きの地図でも渡されるのだろうか?

「ほら、持ってけ。さっきの気持ち忘れるんじゃねえぞ」
「うわぁ⁉︎ は、はい!」

 戻って来た極悪爺が私の左手に名刺サイズの長方形の白い厚紙を叩きつけてきた。
 手は痛くないけど『仮身分証』と書かれた紙には小さく『ルカ』と書かれている。
 この極悪爺……もしかして意外と良い人なのかもしれない。

「おい、それとそのグラサンは外せ。人と話す時は目を合わすのが基本だろうが」
「はい、すぐに‼︎」

 ——やっぱり超怖い‼︎
 警告されたので殺される前に、サングラスを急いで床に投げ捨てた。
 これで大丈夫だ‼︎
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