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第八話 エロ爺さん騙して生活費ゲット

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「いいか。かねは石・青銅・銅・鉄・銀・金・白金の全部で七種類だ。石貨せきかが一番価値が低く、一番価値が高いのが白金貨だ。白金貨はお前には一生縁がないものだから覚えなくていいぞ」

 エロ爺がカウンターに六枚の硬貨を並べると説明を始めてくれた。
 白金貨を見せないという事はエロ爺にも縁がないらしい。
 もしくは私(貧乏人)に見せると奪い取られると心配している。

「よし、種類は覚えたな? では、次だ。金は十枚集めると、一つ上の金一枚の価値になる。石貨十枚なら青銅貨一枚、青銅貨十枚なら銅貨一枚だ。では、応用問題だ。金貨一枚なら銅貨何枚になる?」

 ニヤリとエロ爺が金歯を見せて訊いてきた。
 小学生じゃないんだから分かるに決まっている。現役高校生を舐めるな。
 頭の中で素早く計算すると、エロ爺さんが答えを教える前に答えてやった。

「銅貨千枚です」
「ほぉ~、正解だ。金はないのにがくはあるようだ。では、次だ。これを金貨二枚で売るか売らないか答えてもらおうか」

 エロ爺が関心しているけど、まだ宿屋の宿泊費を教えてもらってない。
「それを決める前に宿屋の宿泊費を教えてくれませんか?」と訊いた。

「あぁーそうだったな。鉄貨二~三枚が相場だろうな。で、売るのか?」

 金貨二枚なら鉄貨二百枚になる。
 単純計算で百泊できる。なら、売るべきだと思うけど。
 売らないと焦らせば、値段を上げさせられる可能性もある。
 でも、そんな真似は本当に貧乏人みたいで恥ずかしくて出来ない。
 見栄を張って「売ります」と答えた。

「では、契約書に署名してくれ。署名すると返却は出来なくなるからな。本当に売るんだな?」

 何度も訊かなくても私の答えは同じだ。
 あと一日でただの鉄板になるゴミスマホに用はない。
 もう一度「売ります」と答えて、エロ爺が渡してきた契約書に日本語で署名した。

「よし、これで契約完了だ。これはお前の物、これは儂の物になった。お互い良い取引きが出来たな」
「ありがとうございます」
「いやいやお礼を言うのは儂の方だ。ぐっふふふふ!」

 カウンターの金貨二枚をお礼を言って受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
 エロ爺、騙して大金手に入れちゃった。これで生活費には困らない。
 あとは身分証が欲しいけど、ここで買えるかな?

「すみません、身分証って売ってますか?」

 雑貨屋なら売っている可能性がある。一応エロ爺に訊いてみた。

「身分証なんて売ってるわけないだろうが。身分証が欲しいなら『冒険者ギルド』に行ってみろ。面接に合格すれば『仮身分証』が貰える。あとは依頼を何度も達成すれば、信頼されて正式な身分証が貰える。町に貢献しない者はいつまでも他所者扱いだ」

 冒険者ギルド。ゲームやアニメで聞いた事がある。
 困っている人の依頼受けて、達成すればお金やアイテムが貰える場所だ。
 ついでに助けた人と友達になれるかもしれない。
 今の私には絶対に必要な場所だ。これは行くしかない。

「じゃあ、ちょっと行ってみます。場所って分かります?」
「行くのはいいが、その服装で行くのはマズイな。冒険者ギルドで依頼を受けられるのは男だけだ。女装で行くと追い出されるぞ」

 ——女装じゃなくて、女性だよ‼︎
 エロ爺が真面目な顔でジロジロ私を見てから言ってきた。凄く失礼なエロ爺だ。
 だけど、そんなエロ爺のお陰で次の目的地が決まった。
 どうやら冒険者ギルドは男しか入れない会員制クラブみたいだ。
 私の貧乳がついに役立つ日がやって来たみたいだ。
 この貧乳の所為で何度男に間違われた事か……

「手頃な値段で良い服ってありますか?」

 多分声と色気で女だとバレると思うけど、まあやるだけやってみようかな?
 まずは男ならスカートは絶対履いたら駄目だ。次に穴の空いている上着とシャツも交換しよう。
 エロ爺にお小遣い沢山貰ったから、それなりの高い服が買えちゃうぞ。

「ある事はあるが……よし、儂が男らしい服を選んでやろう! お前に任せると心配だ」
「へぇっ?」

 ちょっと何言っているのか意味が分からない。
 エロ爺が椅子から自信満々に立ち上がると、店の服を集め始めた。
 爺のセンスに任せる方が心配だ。
 でも、ここは仕方ない。多少のダサさには目をつぶるしかない。
 エロ爺が若い時はゴイゴイスー男子だった可能性もある。

「服は全部変えるとして、色は髪と合わせるか。冒険者なら革靴と革手袋は丈夫な方が良いな。下は防水性と保温性の高い動きやすい布製で、上着は防御力が高い方がいいな。鉄板入りの物もあるが、あのヒョロイ身体だと重さが増えると駄目か。やはり全体的に軽い素材で選ぶしかないな」

 ……何か路地裏にいる下っ端犯罪者が着るような服が出来上がっていく気がする。
 まだ途中だと思うけど、私の目には完成形が見えてしまった。
 これが若かりし頃のちょい悪エロ爺の勝負服みたいだ。

「よし、これで良いな。ほら、サイズは合うはずだ。そこの部屋で着替えて来い」
「あ、ありがとうございます……」

 絶対に着ないと駄目みたいだ。
 エロ爺さん自信のちょい悪服一式が渡された。
 嫌々お礼を言って受け取ると、物置きみたいな小部屋に入った。

(あっ、下着はどうしよう)

 流石に『ここも男らしいか調べるぞ』とか言われて、面接でズボンの中までは調べられないと思う。
 スカートを脱ぐと、メロン柄の薄緑色の下着はそのままに灰色の布ズボンを履いた。
 次に中央にボタンが六個ある白の長袖シャツ、その上にフードが付いた茶色の袖無し革ベストを着た。
 革ベストは高級感のある色なのに、何故かライフジャケットに見えてしまう。
 その理由は丈夫な黒の革靴と革手袋、黒丸のサングラスの所為だろう。
 棚に売られていた釣り竿を装備すれば、釣り人にしか見えない。

「ど、どうですか?」

 釣り人になって小部屋から出ると、死んだ魚のような目でエロ爺に訊いてみた。

「おおー似合っているな♪」

 その自信が何処から来るのか教えて欲しい。
 多分自分が選んだ服だから間違いないのだろう。
 エロ爺が軽く見ただけで満面の笑みで答えてくれた。

「ほら、冒険者ギルドまでの地図を描いておいた。必要な物があったら、ここに買いに来るんだぞ」
「はい、色々とありがとうございました」

 服は必要ないけど、地図は必要だ。
 エロ爺がカウンターの上の紙を人差し指で叩いている。
 脱いだ制服を小脇に抱えて、お礼を言って受け取った。

「銀貨二枚だ。今ならその脱いだ服を入れる鞄をサービスで付けてやるぞ」
「なぁっ⁉︎」

 それなのにエロ爺が笑顔で金歯を見せて、右手の指を二本立てて言ってきた。
 鞄はクーラーボックスじゃなくて、直径十二センチぐらいの大きな茶色いボタンが真ん中に一個だけ付いた、平たく長い肩掛け紐が付いた白の布鞄だった。
 くっ、これは狡い。ふかふかで白いお饅頭みたいな可愛い白鞄はちょっと欲しい。

「か、買います」
「毎度あり♪」

 ちょい悪爺の誘惑に負けてしまった。
 金貨一枚をカウンターに置くと、白鞄と銀貨八枚を受け取った。
 宿屋代十日分が早くも消えてしまった。
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