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リル・スタットレイ 〜小さな町の小さな家に住む生命の錬金術師〜

最終話・リルvs勇者③

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 ビューン、ビューンとリルに向かって矢が飛んできます。

「ヒョイ、ヒョイ、そんな攻撃は当たりません♬」

 リルは回避能力と逃げ足だけは高いです。なかなか当たりません。このまま逃げられたら第2、第3の小さな町が誕生するのは目に見えています。悲劇は今日で終わりです。

「あの状況で仲間を放り出して逃げるとは。それに想像以上に逃げ足も速い。けれども、見失うような速度ではないか」

 国王軍は町を包囲するのに人員を使い過ぎて、森の中にまで見張りを用意していませんでした。少しは油断していたのかもしれません。

「あとは頼む、勇者よ」「ゼェ~…ゼェ~…速すぎる」

 けれども、勇者アルフレッドの足から逃げられる者はいないはずです。重い鎧を着込んだ騎士達は早くもリルについて行けなくなっています。

(フムフム、あの1人だけ鎧を着ていない黒髪の人がやっぱり厄介ですね。ゴーレムも簡単に倒しちゃうし、勇者とは凄い人がいたものです)

 いつものリルならば頑丈なオリハルコンの家に逃げ込んで、しばらくベッドで寝ていたら、時の力が問題のほとんどを解決してくれます。家の2階にある、コールドスリープマシーンを使えば、簡単に1ヶ月後や1年後の世界がすぐにやって来ます。たまにタイマーを間違えてしまうのが問題ですが……。

(おそらくは家の中に逃げ込んでも、土砂で埋められたり、上にピラミッドみたいな建造物を建てられたりして、起きた時には脱出できない状況になっているでしょう。ここで何とかしないと駄目ですね)

 ついにリルvs勇者の戦いが始まるのかもしれません。

☆リル・スタットレイ 体力40 攻撃力20 防御力20 魔法攻撃力20 魔法防御力20

★アルフレッド・マーシー 体力400 攻撃力350 防御力300 魔法攻撃力350 魔法防御力300

 ………悪い事は言いません。さっさと逃げた方が賢明な判断です。とてもリルが勝てるような相手ではありません。瞬殺されて終わるだけです。

「ハァ…ハァ…自己紹介がまだだったな。私は勇者アルフレッド・マーシー。とんがり帽子のお嬢さん、よければ君の名前を教えてほしい」

「フゥ~…フゥ~…リルです。リル・スタットレイ。出来れば、このまま逃して欲しいのですけれど、駄目ですか?」

「それは駄目だ。けれども、さっきの魔法を見たところ、君は非常に優秀な魔法使いのようだ。本来ならば処刑される可能性が高いが、私が口を利けば、もしかしたら国王陛下への協力という形で助かる可能性もある。全てはリル、君の行動次第という事だ」

「………」

 森の中での追いかけっこはまだ続いていました。このままだとらちが明かないと、勇者は少し攻め方を変えたようです。でも、リルが金や地位に釣られるとは思えません。

「この私が王様の下で働くという事ですか? クッス、それはあり得ませんね。逆ならば少しは考えてもいいですが、冗談にしても笑えませんよ。そろそろ、追いかけっこもお終いです。決着をつけさせてもらいます」

 ザッ、とリルは走るのをやめて足を止めました。息は切らしていないようなので、疲れた訳ではなさそうです。

「ハァ…ハァ…魔法使い相手にここまで走らされるとは思わなかったよ。さて、決着か……こんな事は言いたくはないが、君が私に勝てる可能性は1%もないだろう。それでも戦うというのなら勇者として全力で相手をさせてもらう」

 勇者は神剣エアの切っ先きっさきをリルに向けて構えます。せめてもの情けで一撃で倒すつもりのようです。そんな余計な事を考えてないで、さっさと倒さないと面倒な事になるだけです。

「1%の勝率ですか? 本当にそう思っているようなら、それは大間違いです。この森に何が埋まっているのか知らないで、私が放し飼いにしていた魔物達を殺したんですね。さっきも言ったように逆ならば少しは考えてもいいですよ。あなたの勝率が1%ならば」

 カッカッと、リルは愛用している木の棒で地面に魔法陣を描いていきます。トン! と完成した魔法陣を叩くと、森の地面が光り輝いていきます。

「この光は? またゴーレムやトレントを呼び出すつもりか?」

「フッフ、それは無理です。魔法陣を描いただけで簡単に命を持たせる事は私にも出来ません。出来るのは、予め魔法陣を組み込んでいた対象と必要な魔力と素材が周囲にある時だけです。さあ、頑張ってください。私は逃げるのをオススメします。あなたがこれから戦う相手は古龍《エンシャントホーン》です!」

 ドォゴォン!! グラグラグラ⁉︎

「何が起こっている⁉︎」

 地面が大爆発すると、大量の土砂が空に舞い、雨となってリルと勇者に降り注いできました。そして、抉れた地面の中から骨だけになった巨大な龍が現れました。

「やれやれ、派手な登場です。土で服が汚れてしまいました」

「スケルトンドラゴン。死者の身体さえも操るか」

「えっ⁈ 操っていませんよ。さっきも言いましたけど、早く逃げるのをオススメします。私もすぐに逃げるので。それじゃあ!」

 そうです。リルに生き返らせた強大な古龍を従わせる実力はありません。操る事が出来ないのに、こんな事を平気でやってしまうのです。

「待て、リル! 私はどうすればいいんだ! どうすればいいのか教えてくれ!」

 さっきも言いましたが、逃げる事をオススメします。勇者の責任とか、そんなものはどうでもいいのです。どうせ1人では勝てません。

☆古龍エンシャントホーン 体力999 攻撃力500 防御力500 魔法攻撃力0 魔法防御力600 数千年前の神々との戦いに敗れた古龍の成れの果て。死してなお、その恨みや力は衰える事を知らない。

『許さぬぞ! 許さぬぞ! リル・スタットレイ。あの時の恨みは死んでも忘れはしない。何処だ! 何処に隠れている』

 一般的なドラゴンの5倍以上の大きな身体で、木々をなぎ倒しながら、リルを探して歩き回っています。目当てはリルだけのようです。勇者には興味の欠片もありません。

「ビクッ! どういう事ですか? 生き返らせてあげたリルを襲おうとするなんて、な、なんて恩知らずなドラゴンなんでしょう!」

 でも、前に卑怯な手段で古龍を殺したのはリルです。神々の力を剥奪されて、弱まっている今のリルならば、積年の恨みを晴らせそうです。

『見つけたぞ! リル・スタットレイ! 殺してやる! 手足を1本ずつ潰して、じっくり、たっぷりと痛みつけて殺してやるぞ!』

「えっ! 違います。私はリル様じゃありませんよ。私はリル様そっくりに作られた替え玉です。リル様なら、今はこの先の王国専属の魔術師として何不自由ない生活を送っています。こんな薄汚い森にリル様がいる訳ないじゃないですか」

 ピタッと、リルを踏み潰そうとしていた古龍が動きを止めて、リルの顔をジッと見て、記憶の中のリルを思い出しています。かなり前の事なので思い出すだけでも時間がかかってしまいます。

『………フム、確かにリル・スタットレイに姿は似ているが感じられる魔力がゴミのようだ。生命の母なる海神リル・スタットレイは今度は城に引き籠もっているという訳か。あっちの方にあるんだな?』

「はい、あっちです。そして、そこにいる男と、あっちの方にある小さな町をリル様の手下が大勢で襲っています。私は町の獣人さん達を助ける為に、リル様の実験室から抜け出したんですけど、この卑怯者の男が嫌がる私を無理矢理、無理矢理に森に連れて来て、ああっ~~~、いやぁ~~!」

 これだけの嘘を即座に吐けるとは、もうリルは病気です。低下している魔力のお陰で本人とは気付かれずに済みましたが、危機はまだ残っています。勇者と町の国王軍が邪魔なのです。

『娘よ。それ以上は何も言わなくてよい。安心するがよい。この我が悪しき存在を全て根絶やしにしてやろう。悪しきリル・スタットレイの眷属は全て滅びるがよい!』

 ♦︎

☆古龍エンシャントホーン 体力999 攻撃力500 防御力500 魔法攻撃力0 魔法防御力600

①地震(ダメージ200) ②薙ぎ払い(ダメージ200) ③空振り ④空振り ⑤咆哮(ダメージ100) ⑥岩石投げ(ダメージ100)

★勇者アルフレッド・マーシー 体力400 攻撃力350 防御力300 魔法攻撃力350 魔法防御力300

①秘奥義・エアリアルブレード(ダメージ200) ②秘技・旋風烈斬(ダメージ50) ③神々の祝福(HP回復350) ④奥義・光竜剣(ダメージ100) ⑤剣技・三連突き(ダメージ50) ⑥逃亡(失敗します)

 さあ、見事に古龍を倒して、勇者はリルを倒す事が出来るのでしょうか? それとも、勇者は敗れて、古龍によって王国は滅ぼされてしまうのでしょうか?

『光の力を纏う者よ。その悪しき心に光の祝福は相応しくない。滅びるがよい』

 先制攻撃は古龍からです。世界の運命を決める戦いが始まります!

 ♦︎

 ♦︎

 ♦︎

 あの壮絶な勇者と古龍の戦いの数百年後、新しく選ばれた魔王の元にある知らせが舞い込んできました。

「魔王様、転生者の1人が街に攻め込んで四天王の1人が殺されました。このままでは、いずれこの魔王城も人間達が召喚した転生者によって蹂躙される事になるでしょう。今こそ魔獣開発局の再開をご検討ください」

 新しく魔王に選ばれたばかりの角の生えた女性は、えらく考え込んでいます。人間達が召喚した転生者の力は驚異です。四天王と呼ばれる魔王領の勇者も簡単に倒されてしまいます。対策を用意しないと魔族が滅ぼされてしまうのは時間の問題です。

「我々が束になって戦っても勝機はないでしょうね。分かりました。封印を解除してください。彼女に頼る事はこちらにとっても諸刃の剣ですが、転生者達への牽制にはなるでしょう」

 魔王の側近の1人が壁も屋根も全てが青色の金属の家に向かいます。2階にあるコールドスリープマシーンと呼ばれる封印装置を操作して、中に封印されている少女を起こすようです。

「んんっっ~~~、よく眠りました。あれ、あなたは誰ですか?」

 長い眠りから目覚めた少女は、多くの魔物を作り、転生者と呼ばれる者達との壮絶な戦いを繰り広げます。そして、いつの日か魔族を救った英雄と呼ばれる日が来るかもしれません。

【終わり】



 

 
 


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