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宝くじで『10億円』を当てた日に、車にも当たりました。一度は地獄に落とされたけど、女神の力で幸運MAX『999』で異世界再スタート!

第10話・災禍の指輪

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(錬金素材か………)

 鍛治場と同じなら、1時間500ゴールドの使用料金を払えば錬金工房は使えるものの、材料や素材は自分で用意しないといけません。

 蝙蝠のフン、魔獣の肉・骨・血・心臓、不思議な液体、危ない液体、魔力の素など、錬金素材を少し考えただけで結構出てきます。

 黒魔法ショップとか、黒魔術ショップ、邪術魔法ショップとかがあれば買えそうですが、おそらくは幸運MAXの能力があれば、ちょっとした呪いの品、不幸な品も最上級の邪具に変化するはずです。

(だとしたら、質屋かリサイクルショップを探してみるか。この世界にも不用品を使い回す習慣ぐらいはあるだろう)

 そうと決まれば、お店の場所を町の人に聞く必要があります。キョロキョロと周囲を見渡していると手頃な女性が目にまりました。

(あの娘が良さそうかな)

「すみません。道を教えて欲しいんですけど、不用品を売っている場所を知りませんか?」

 栗色の長い髪をリボンで纏めた可愛い町娘です。わざわざ近くにいる、『ヒィフゥ~、ヒィフゥ~』と汗を流して唸っているおじさんには聞かずに、離れた場所の女の子に聞きに行きます。その気持ちは少し分かります。

「えっ⁉︎ あっ、はい。えっ~と、この道を進んで分かれ路を右側に進んで、次の分かれ道は曲がらずにそのまま進んで、次の分かれ路を左に曲がれば、黄色い看板の雑貨屋さんがあるんですけど、えっ~~と、分かりづらいですよね? よろしかったら、そこまでご案内しましょうか?」

「いえいえ、そこまでは結構です。どうもありがとうございます。助かりました」

「あうっ、はい。どうもです…」

 栗色の女の子にお礼を言うと、教えられた雑貨屋を目指します。

『(いいんですか? あの女の子、あなたを雑貨屋まで案内したそうな雰囲気でしたけど)』

(そうですか? 説明も分かりやすかったし、意外に近くに雑貨屋もあるみたいだから、わざわざ案内してもらう必要はないでしょう)

『(あっ~~~、女心が分かっていませんねぇ~。雑貨屋に案内したいと言ったのは建前で、あなたとお話ししたかったんですよ。その程度の事も分からないから独身なんですよ)』

(女心が分からないのと、独身なのは全然関係ありませんよ。私は好きで独身でいたんですから)

『(へぇ~、そうだったんですかぁ~。へぇ~)』

 もう死んでいるので自分の都合の良いように何とでも言えます。まあ、もしも車に轢かれずに生きていたのなら、宝くじで億万長者になったので、少しぐらいは金に困った女性や、金が欲しい女性が言い寄って来ていたかもしれません。でも、実際には金の力があっても正直微妙かもしれませんね。

 本来ならば、こういうお喋りも、この世界で出会った仲間達と和気藹々としたいものですが、今のところは仕事をサボっている女神様とやるしかありません。くだらない会話を続けながらも、目的の雑貨屋に到着しました。

「目印の黄色い看板………雑貨屋はここで間違いないようですが、どう見ても燃えないゴミの山ですね」

 折れた剣、ヒビの入った盾、穂先の無い槍、中身の入ってないガラス瓶、新進気鋭の芸術家が描いただろう何か。この中から探している物を見つけるのは非常に難しいです。

 ガサゴソ、ガサゴソとゴミの山を漁って、不幸そうなものや、呪われていそうなものを探します。

「この割れた兜の持ち主は死んでるのかな?」

 死ぬ間際まで持ち主が装備していたのなら、死者の怨念とか残っていそうですが、さすがに血の跡は残っていないようです。臭いを嗅いでも金属の臭いしかしませんでした。

『(やれやれ、誰か忘れていませんか? 私は幸運と不運の強さが分かるんですよ。私の指示通りに探してみてください。確実に呪われた品物をゲット出来ますよ!)』

 自分の得意分野なのか、女神は妙にやる気になっています。突然、頭の中で喋る出すしか能がないと思っていた女神様が頼もしく思えてしまいます。

 ガサゴソ、ガサゴソと最初に見つけたのは、ボロボロの可愛いお人形さんでした。モンスターに襲われて死んだ女の子が持っていたものか、病気の女の子がベッドの上で死ぬ間際まで話しかけていたものか。

「ううっ、確かに禍々まがまがしいオーラが話しかけてくるような気がする」

⚫︎少女達の少女人形 『幸運-30』『死亡率15%』 流行り病で死んでしまった沢山の少女達の頭髪が、綿の代わりに入った少女人形。少女が持った時だけに呪いの効果が発動する。

『(気にしなくていいですよ。男の子には呪いの効果はありませんし、男の子という年齢でもないでしょう。さあ、ここに置いておいたら危険な物が多いです。根こそぎ排除しましょう)』

 女神という高性能不幸探知機のお陰で続々と訳あり品を発掘していきます。中には毒薬の入った年代物ワインまで置いてありました。明らかに人に危害を加える意思が感じられました。

「………指輪」

『(へぇ~、気づきましたか。それも不幸の品ですね。離婚指輪ですか。ふっふふ、あなたには一生えんが無い品物ですね)』

「………」

『幸運-5』と低いですが、スキル《錬金》で最高の不幸素材に変える事が出来るので、これも購入しました。呪われた品物が根こそぎ無くなったので少しはこの雑貨屋も商売繁盛するかもしれませんね。

『(さてと、予想以上に材料が集まりましたね。呪いの品を錬金釜に全部入れて、かき混ぜばそれだけで最凶の呪いの品が出来るはずですよ)』

(それは駄目です。呪いの品は多分貴重品なので、入手困難な物です。残しておいた方が得策でしょう)

『(ふっふ、何の為に残しておく必要があるんですかね? まあ、別に構いませんよ)』

 意外と女神は大雑把な性格です。貴重品もまた手に入ると考えているようなら間違いです。大抵のゲームに登場するほとんどの貴重品は、1個限定の物が多いです。消費アイテム感覚で使うべきではありません。

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「すみません。1時間使わせてください」

「おう、初めての奴だな。うちは危険な物を作るから完全個室だ。多少騒いでも爆発させても問題ないからな。安心して失敗していいぞ」

「それは助かります。完全個室はいいですよね」

『(あなたが言うと、何となく如何いかがわしい感じに聞こえるので不思議ですね。まあ、確かに個室は誰かに見られて騒がれる心配はないですからね)』

(ええ、気絶させるのも、頭をパァ~にさせるのも面倒ですからね。早く普通の物が作れるように幸運が下がるアイテムを作りましょうか)

 ポチャン、ポチャンと呪いの品を紫色の液体が入った錬金釜に落としていきます。ザブザブと専用のお玉で混ぜ続けていると、やがて溶け合って、1つになります。

⚫︎不幸の大結晶 『幸運-100』 不幸が凝縮した黒色の大結晶。間違って武具やアクセサリーに付けると不幸になるので要注意。

「ここまでは予想通りか………問題なく進むのもいいけど、ちょっとは手こずりたいんだよなぁ~。こう、ジェットコースターのようなドキドキ、ハラハラの大冒険をこっちはしたいのに、レベルMAXで最強装備、まったく、やる気がなくなるよ」

 獲得ゴールド2倍とか、獲得経験値10倍とか、習得したスキル持ち越しとか、レベル・アイテム引き継ぎとか、そんなのはゲームをクリアして、やっと2周目から許されるご褒美です。初回から使えるのは反則行為のようで、反チート主義のアルさんには受け入れがたいようです。

『(でも、これで幸運は普通の人と同じぐらいになりますよ。それにこの世界の人で、レベルMAXの人は結構いますよ。最強装備も使わずに、店売りの武具を使えば、希望通りのドキドキ、ハラハラの大冒険が出来ます。それが本当にあなたの望みならばですけどね)』

「………ハァ~、さっさと作りますね」

 ポチャン、ポチャンとこのまま錬金釜で離婚指輪と不幸の大結晶を、ザブザブと混ぜ合わせます。スキル《錬金》でも、アクセサリーは作れるようです。そして、目的のアイテムが完成しました。

⚫︎災禍さいかの指輪 『幸運-200』 持ち主に災害級の災いを連れてくる呪われし指輪。決して指に嵌めてはいけない。

「『幸運-200』ですか、1個じゃ足りませんね。5個作らないと…」

 またザブザブと錬金釜を混ぜ合わせていきます。そして、同じ指輪を5個作り終えると、躊躇ちゅうちょなくアルビジアは右手の指輪に、5個の災禍の指輪を嵌めました。『幸運999』が『幸運1』にまで、一気に減少しました。

「これでやっと普通の人か。ステータスの幸運は1からは下がらないようだし、指輪は自由に外せるから幸運の調整も出来る。これで狙った武具も作り放題か。ハッハ……やりたい放題だな」

 あまり嬉しそうには見えません。何でもかんでも思い通りに進む事に抵抗があるのか、それとも、喜べない別の理由があるのか。

「さて、そろそろ約束の時間になりそうなので、酒場に向かいますね。女神様も今日は色々とありがとうございました。お陰で助かりました」

『(ええ、このぐらいは大した事ではありませんよ。ふっふ、感謝しているのなら、人助けとクエストを一杯頑張ってくださいね)』

 ゴールドプラチナキングスライムを倒した時に知り合った町の男衆に、酒場の料理を奢る約束をしています。アルビジアは錬金工房を出て、酒場に向かいます。けれども、災禍の指輪の効果は着々と彼に近づいているようです。コツコツ、コツコツという足音が彼のすぐ近くまで。

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