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第十三章
第3話『奇跡の水』
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——仮病三日目。
ウォルターを苦しめていた呪いの指輪は壊れました。
身体の調子は良く、スキルが覚醒した自覚はあるので、もう大丈夫なのは分かっています。
でも、ウォルターはセレナに見つかる前に壊れた指輪を隠しました。
そして、覚えたての錬水術で似たような銀色の指輪を作ると、スポッと填めました。
(そろそろ、治ったと言わないと……)
ウォルターはベッドの中から、食事を作ってくれているセレナを見ました。
悲しそうな表情を見るのは、やっぱり辛いです。治ったと教えれば、喜んでくれます。
ウォルターはベッドから起き上がると、食事を作っているセレナの元に歩いていきます。
嘘で繋ぎ止めている幸福を捨てる覚悟を決めました。
「母様、なんだか治ったみたい。ほら、指輪が外れたんだ」
ウォルターはセレナの目の前で、左手人差し指から指輪を取りました。
まるで、本当に今、奇跡が起きて治ったみたいですが、実際に奇跡が起きたのは三日前です。
「ほ、本当に? 本当に大丈夫なの? 無理してないの?」
セレナは鍋で魚を煮込んでいましたが、ウォルターに駆け寄って、身体を支えて心配しています。
ウォルターは全然無理していませんが、昨日までは数歩歩くだけでも、フラフラしてました。
心配されてしまうのは仕方ありません。
「うん、もう大丈夫だよ。母様には心配かけたけど、母様のお陰で元気になれたよ。ありがとう、母様」
ウォルターセレナの身体をギュッと抱き締めて、感謝しています。
自分が助かったのは、支えてくれたセレナのお陰だと分かっています。
これからは二人で支え合って生活するつもりです。
「うんっ、ううんっ、ぐっす、良かった、本当に良かった……」
セレナはウォルターが治って、嬉しくて泣いています。
胸元に顔を押し付けて激しく泣き続けます。
ウォルターはそんなセレナにドキドキしています。
「母様……」
「んっ……?」
身体を離すと、セレナの顔を両手で上に持ち上げて、自然にキスしようとしています。
残念ながら、そんな事が出来るはずがありません。
何をしようとしているか気づいたセレナが、ウォルターのオデコに手刀を落としました。
「えいっ! 駄目でしょう!」
「うぅっ、昨日はしてくれたのに……」
「昨日は昨日です。元気になったのなら、料理も自分で食べなさい!」
全然痛くはありませんが、ウォルターはオデコをさすっています。
セレナは死にそうな子には優しくしますが、元気な子には厳しくいくようです。
鍋から皿に、魚の切り身と細かく切り刻んだ野菜のスープを移すと、テーブルに置きました。
もう、フゥフゥも、あーんも無しです。一人で食べさせます。
♦︎
——ロムルス王国。
「予想通りに万能の指輪は、複数のスキルを取り込んでいます。今のところ問題なさそうです」
「それはよかった。使用者に異常が現れるようならば、すぐに報告するように」
テミスは三姉妹の長女イシスの報告を受けています。
テミスは無害なスキルを聖剣に移植させて指輪にしました。
その指輪を無害なスキルを持っている、死にかけている人達に填めさせています。
対象者は寿命で死にそうな老人、重傷で死にかけている冒険者と多いです。
その条件に合う人間は病院を回れば、簡単に見つかります。
「はい。あと信憑性は低いのですが、おかしな噂話を聞きまして……」
イシスは病院で聞いた、おかしな噂話を話すか迷っています。
いつもの報告ならば、万能の指輪が取り込んだスキルと、死にそうな人達のリストを渡すだけです。
あとはリストの人物達をディアナに見てもらって、死ぬまでの日数と本当に死ぬのか、教えてもらうだけです。
「噂話でも、話があるのは事実だ。情報があるのならば、どんな些細なものでも報告するように」
話しにくいそうにしているイシスに向かって、テミスは言いました。
その情報が必要か、必要じゃないのか、それを決めるのはテミスです。
「はい。何でも、どんな重傷者も治してしまう奇跡の人がフラッと現れるそうです。何でも、奇跡の水というものを飲めば、どんな病も治るそうです」
「奇跡の水……確かにおかしな話だ。だが、死にかけている重傷者を治されるのは困る。ディアナがいれば問題ないだろうが、一応は注意するように」
明らかに怪しい宗教の勧誘とインチキ商品の販売ですが、まったく効果が無ければ、噂話にもなりません。
多少の肉体的、精神的な効果があるのだろうとテミスは考えました。
それでも、未来が見えるディアナがいれば、計画に支障はないようです。
ディアナが怪しい宗教家か商売人を見た時に、捕まえれば問題ありません。
「分かりました。それでは、失礼します」
イシスは報告を終えると、テミスの部屋から出ていきました。
新しい職場では、研究者というよりも秘書のような感じです。
「どんな病も傷も治すですか……そろそろ本格的に母上を探すべきかもしれませんね」
テミスはイシスが居なくなった部屋で考えています。計画の鍵はセレナです。
大量のスキルを取り込んだ万能の指輪をセレナに填めてもらえば、弱小スキルも強力なものに覚醒します。
スカンドス王国に戻っているという報告はありませんが、時間の問題です。
万能の指輪も持ち主が死ぬまで外せないので、今のところは大至急探す必要はありません。
それでも、手元に置いておいた方が安心は出来ます。
(でも、探すのは兄上が剣になった後の方がいいですね。下手に城に連れて来ても、扱いに困るだけです。それにいざとなれば、プリシラに指輪を磨かせればいい。もうしばらくは自由にさせましょう)
エウロスの寿命は残り八日です。
そんな時にエウロスが助かる可能性を持つ人間を、城に連れて来るつもりはないようです。
テミスは今はエウロスに集中したいようです。
♦︎
——とある病院。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ウォルターは助けたばかりの子供の母親から感謝されています。
子供は呪われたスキルで死にそうになっていましたが、聖水と言われる怪しい水を飲んだ途端に治りました。
最初は明らかに怪しい人物だと警戒されていましたが、今は病院にいる人達全員に崇められています。
(ふぅ~、聖水スキルを上げる為とはいえ、神様対応は疲れるよ)
病院から出て来たウォルターは、両手一杯に果物の入ったカゴをぶら下げています。
病室に置いてあったお見舞いの品は、お供え物に変わりました。
金銭は一切受け取れないと断っていたら、お菓子や果物を持たされる結果になりました。
(とりあえず、一回帰らないと……)
荷物が多いので、ウォルターは家に帰るようです。
今は手足を使わずに、心で念じるだけで空を泳ぐ事が出来るので、かなり楽です。
しかも、飛行速度もかなり速くなりました。遠くまでスイスイ飛んで行けるぐらいです。
四十分程の飛行で無事に目的地の家に到着しました。
ウォルターは今もミファリスが作った隠れ家に、セレナと住んでいます。
スカンドス王国の王城に引っ越す事も考えましたが、狙われている状態なのに帰れません。
それにディアナが、まだロムルス王国の王城に残っている事も分かっています。
今はディアナをテミスから取り返す為に、スキルの修業中です。
それに……他にも帰れない理由や問題があります。
とくにセレナが妊娠してしまった事が大きな原因でした。
ウォルターを苦しめていた呪いの指輪は壊れました。
身体の調子は良く、スキルが覚醒した自覚はあるので、もう大丈夫なのは分かっています。
でも、ウォルターはセレナに見つかる前に壊れた指輪を隠しました。
そして、覚えたての錬水術で似たような銀色の指輪を作ると、スポッと填めました。
(そろそろ、治ったと言わないと……)
ウォルターはベッドの中から、食事を作ってくれているセレナを見ました。
悲しそうな表情を見るのは、やっぱり辛いです。治ったと教えれば、喜んでくれます。
ウォルターはベッドから起き上がると、食事を作っているセレナの元に歩いていきます。
嘘で繋ぎ止めている幸福を捨てる覚悟を決めました。
「母様、なんだか治ったみたい。ほら、指輪が外れたんだ」
ウォルターはセレナの目の前で、左手人差し指から指輪を取りました。
まるで、本当に今、奇跡が起きて治ったみたいですが、実際に奇跡が起きたのは三日前です。
「ほ、本当に? 本当に大丈夫なの? 無理してないの?」
セレナは鍋で魚を煮込んでいましたが、ウォルターに駆け寄って、身体を支えて心配しています。
ウォルターは全然無理していませんが、昨日までは数歩歩くだけでも、フラフラしてました。
心配されてしまうのは仕方ありません。
「うん、もう大丈夫だよ。母様には心配かけたけど、母様のお陰で元気になれたよ。ありがとう、母様」
ウォルターセレナの身体をギュッと抱き締めて、感謝しています。
自分が助かったのは、支えてくれたセレナのお陰だと分かっています。
これからは二人で支え合って生活するつもりです。
「うんっ、ううんっ、ぐっす、良かった、本当に良かった……」
セレナはウォルターが治って、嬉しくて泣いています。
胸元に顔を押し付けて激しく泣き続けます。
ウォルターはそんなセレナにドキドキしています。
「母様……」
「んっ……?」
身体を離すと、セレナの顔を両手で上に持ち上げて、自然にキスしようとしています。
残念ながら、そんな事が出来るはずがありません。
何をしようとしているか気づいたセレナが、ウォルターのオデコに手刀を落としました。
「えいっ! 駄目でしょう!」
「うぅっ、昨日はしてくれたのに……」
「昨日は昨日です。元気になったのなら、料理も自分で食べなさい!」
全然痛くはありませんが、ウォルターはオデコをさすっています。
セレナは死にそうな子には優しくしますが、元気な子には厳しくいくようです。
鍋から皿に、魚の切り身と細かく切り刻んだ野菜のスープを移すと、テーブルに置きました。
もう、フゥフゥも、あーんも無しです。一人で食べさせます。
♦︎
——ロムルス王国。
「予想通りに万能の指輪は、複数のスキルを取り込んでいます。今のところ問題なさそうです」
「それはよかった。使用者に異常が現れるようならば、すぐに報告するように」
テミスは三姉妹の長女イシスの報告を受けています。
テミスは無害なスキルを聖剣に移植させて指輪にしました。
その指輪を無害なスキルを持っている、死にかけている人達に填めさせています。
対象者は寿命で死にそうな老人、重傷で死にかけている冒険者と多いです。
その条件に合う人間は病院を回れば、簡単に見つかります。
「はい。あと信憑性は低いのですが、おかしな噂話を聞きまして……」
イシスは病院で聞いた、おかしな噂話を話すか迷っています。
いつもの報告ならば、万能の指輪が取り込んだスキルと、死にそうな人達のリストを渡すだけです。
あとはリストの人物達をディアナに見てもらって、死ぬまでの日数と本当に死ぬのか、教えてもらうだけです。
「噂話でも、話があるのは事実だ。情報があるのならば、どんな些細なものでも報告するように」
話しにくいそうにしているイシスに向かって、テミスは言いました。
その情報が必要か、必要じゃないのか、それを決めるのはテミスです。
「はい。何でも、どんな重傷者も治してしまう奇跡の人がフラッと現れるそうです。何でも、奇跡の水というものを飲めば、どんな病も治るそうです」
「奇跡の水……確かにおかしな話だ。だが、死にかけている重傷者を治されるのは困る。ディアナがいれば問題ないだろうが、一応は注意するように」
明らかに怪しい宗教の勧誘とインチキ商品の販売ですが、まったく効果が無ければ、噂話にもなりません。
多少の肉体的、精神的な効果があるのだろうとテミスは考えました。
それでも、未来が見えるディアナがいれば、計画に支障はないようです。
ディアナが怪しい宗教家か商売人を見た時に、捕まえれば問題ありません。
「分かりました。それでは、失礼します」
イシスは報告を終えると、テミスの部屋から出ていきました。
新しい職場では、研究者というよりも秘書のような感じです。
「どんな病も傷も治すですか……そろそろ本格的に母上を探すべきかもしれませんね」
テミスはイシスが居なくなった部屋で考えています。計画の鍵はセレナです。
大量のスキルを取り込んだ万能の指輪をセレナに填めてもらえば、弱小スキルも強力なものに覚醒します。
スカンドス王国に戻っているという報告はありませんが、時間の問題です。
万能の指輪も持ち主が死ぬまで外せないので、今のところは大至急探す必要はありません。
それでも、手元に置いておいた方が安心は出来ます。
(でも、探すのは兄上が剣になった後の方がいいですね。下手に城に連れて来ても、扱いに困るだけです。それにいざとなれば、プリシラに指輪を磨かせればいい。もうしばらくは自由にさせましょう)
エウロスの寿命は残り八日です。
そんな時にエウロスが助かる可能性を持つ人間を、城に連れて来るつもりはないようです。
テミスは今はエウロスに集中したいようです。
♦︎
——とある病院。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ウォルターは助けたばかりの子供の母親から感謝されています。
子供は呪われたスキルで死にそうになっていましたが、聖水と言われる怪しい水を飲んだ途端に治りました。
最初は明らかに怪しい人物だと警戒されていましたが、今は病院にいる人達全員に崇められています。
(ふぅ~、聖水スキルを上げる為とはいえ、神様対応は疲れるよ)
病院から出て来たウォルターは、両手一杯に果物の入ったカゴをぶら下げています。
病室に置いてあったお見舞いの品は、お供え物に変わりました。
金銭は一切受け取れないと断っていたら、お菓子や果物を持たされる結果になりました。
(とりあえず、一回帰らないと……)
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今は手足を使わずに、心で念じるだけで空を泳ぐ事が出来るので、かなり楽です。
しかも、飛行速度もかなり速くなりました。遠くまでスイスイ飛んで行けるぐらいです。
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ウォルターは今もミファリスが作った隠れ家に、セレナと住んでいます。
スカンドス王国の王城に引っ越す事も考えましたが、狙われている状態なのに帰れません。
それにディアナが、まだロムルス王国の王城に残っている事も分かっています。
今はディアナをテミスから取り返す為に、スキルの修業中です。
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