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第十章
第4話『遺跡の水中戦』
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「あうっ‼︎」
「おっと……」
ウォルターは隙だらけのドロシーの首の後ろを、バシィと手刀で強打しました。
一撃目よりも気持ち的に、二倍ぐらい威力強めに打ちました。
ドロシーの身体が倒れていくので、ウォルターは怪我させないように受け止めます。
「ふぅー、まずは一人確保と」
今度は上手く気絶させられて、ウォルターはちょっと安心しています。
そのまま気絶しているドロシーを床にそっーと寝かします。
そして、その真っ白な首から、紐の付いた危険な笛を奪い取りました。
「これで、もうただの女性だ」
そんなはずはないですが、戦力外になったのは確かです。
この笛を使って、人型ドラゴン『キメラ』を操る事が出来るそうです。
目を覚まして、笛を吹かれる訳にはいかないので、没収して、ウォルターはズボンのポケットに入れました。
(さて、このまま逃げたいけど、それは出来ないんだよね)
ウォルターはドロシーを連れて、このまま逃げたいですが、それは出来ません。
キメラを作れる人間は三姉妹だけです。
そのうちの一人を確保する事が出来れば、残り二人では、キメラを作る事は出来ません。
このままドロシーを外に連れて逃げれば、研究施設は閉鎖できそうです。
けれども、問題が残っています。完成品のキメラと材料にされる人達が残っています。
キメラは倒していいとしても、捕まっている人達は逃してあげないと、材料として殺されるだけです。
それにドロシーがいなくなった事が分かれば、怒った姉妹がキメラを使って、何をするか分かりません。
(キメラは4人で、改造前の人間は11人か。キメラさえ倒せれば、制圧できるとは思うんだけど)
ドロシーの説明を受けて、ウォルターは探査でキメラと人間の区別が出来るようになりました。
キメラを避けて、何人かの人達と一緒に安全に逃げる事は可能です。
あとは賢者に手紙を送って、応援に来てもらえば、研究施設は潰せます。
でも、数日後に賢者と一緒に研究施設にやって来ても、長女と三女、キメラは消えた後です。
(やっぱり逃げられないように、キメラは倒して、三姉妹全員を捕まえないと駄目だ)
ウォルターは色々と考えた結果、逃げるだけじゃ駄目だという結論を出しました。
ドロシーを連れ去っても、ドロシーの代わりが見つかれば意味がありません。
別の研究施設が作られて、また振り出しに戻ります。
そうならないように、今日決着をつけないと駄目だと決意しました。
(よし、笛でキメラを呼んで、部屋と通路を水と氷で塞げば閉じ込められる。まずは三姉妹の確保を優先しよう)
無計画で研究施設に潜入したウォルターでしたが、作戦が決まったようです。
ズボンのポケットに手に入れると、笛を手に取って、強く吹きました。
ピィー‼︎ と室内に甲高い音が鳴り響きます。
こんな笛の音で遺跡の隅々まで音が届くとは思えませんが、反応はあったようです。
「向かって来るのは、一人だけか」
ウォルターは探査を使用して、一人のキメラがこの部屋にやって来るのを待っています。
どうやら、専用のキメラだけを呼ぶ為の笛だったようです。
ウォルターはドロシーを肩に担ぐと、部屋の天井に大量の水を溜めていきます。
「まずは溺れ死ぬか確認しよう」
ウォルターの作戦は、やって来たキメラを巨大な水球の中に閉じ込めての溺死狙いです。
水球に閉じ込めたら、あとは脱出できないように、氷の壁でドンドン分厚く補強していきます。
そうやって、水中から逃げられないようにして、溺死させます。
上手くいけば、他のキメラも同じように始末します。
「えっ、あれがキメラなの?」
ウォルターの狙い通りにキメラがやって来ました。
予想した姿とは全然違いましたが、あれが完成品のキメラのようです。
手術台のキメラよりも明らかに成長しています。身長は250センチ、体重300キロはありそうです。
肥大した筋肉の表面を覆う青色の鱗に、ドラゴンのような頭には白い角が二本生えています。
背中には強靭な翼が生え、腕には鋭い五本の爪が生えています。
薄い氷の壁に閉じ込めても、粉砕されるのは時間の問題です。
完成品を見た後に呼んだ方がよかったと、ウォルターは後悔しています。
「……オマエ、ダレ? ドロシー、コロシタ?」
「⁉︎」
青キメラは部屋に入ると立ち止まって、ウォルターとドロシーを確認しています。
そして、いきなり襲いかからずに、無感情な片言の言葉で話しかけてきました。
ウォルターは青キメラが会話できるとは思っていなくて、少し驚いています。
知性がまったくない魔物だと殺しやすかったのですが、会話が出来るなら、戦わなくても済むかもしれません。
「あっ、大丈夫。気絶しているだけ」
「——ドロシー、コロシタ‼︎ オマエモ、コロス‼︎」
ウォルターは話しをしようとしましたが、ちょっと遅かったようです。
青キメラの口調が強くなったと思ったら、襲いかかって来ました。
「くっ!」
ウォルターはドロシーを担いだまま、天井に溜めた水の中に逃げ込みました。
予定とは違いますが、やる事は同じです。
追って来た青キメラが水中に入ったのを確認すると、床に向かって、水を一気に増やしていきます。
それでも、まだ足りません。床まで満たした後は、通路まで水で満たしていきます。
念には念を入れないと閉じ込められません。
「がぼっ⁉︎ ごぼっ、ごぼっ~~‼︎」
けれども、水が満ちる前にドロシーが水中で目を覚ました。
青キメラは水中でも平気なようですが、ドロシーは数十秒で溺死します。
ドロシーは苦しそうですが、まだ床まで水が届いていません。
(避けるのと、水を増やすのに集中しないと捕まる。他に手段はないから、我慢してもらわないと)
青キメラは器用に翼を魚のヒレのように使って、水中でも素早い動きを可能にしています。
ウォルターは青キメラの素早い攻撃を避けながらも、ドロシーの身体を抱き締め、人工呼吸の要領で口から口に酸素を渡します。
「んんっ~~⁉︎ んんっ~! んんっ……」
ドロシーは人工呼吸を嫌がっていますが、苦しいよりはいいようです。すぐに大人しくなりました。
そして、ウォルターは最低でも三分以上、この死体が漂う水中を逃げ回らないと、青キメラを閉じ込められるだけの水量は集められません。
(……このままだと死んじゃう。逃げられるかもしれないけど、通路に放り込もう)
水中呼吸が出来るウォルターと違って、ドロシーは死にそうになっています。
二分近くも応急の人工呼吸で粘りましたが、もう無理なのは顔を見れば分かります。
ウォルターは水没していない通路にドロシーを放り込むと、青キメラに槍を向けて、注意を引きつけます。
(全然溺れないから、多分、水中でも活動できるように改造されている。他のキメラも氷に閉じ込めるしか倒せないと思う)
ウォルターは水中を自由に動く青キメラを見て、溺死させる事は諦めました。
それでも、青キメラを倒す準備は出来たようです。ウォルターは室内に満ちた水の水温を下げていきます。
あとは出来るだけ部屋のド真ん中で、青キメラを氷に閉じ込めるだけです。
「ドコ? キエタ?」
青キメラが死体の中に紛れたウォルターを見失っています。
このまま通路に逃げて閉じ込めるのは無理ですが、もう青キメラの周囲を凍らせる事は出来ます。
(濁った水と死体で僕の位置が分からなくなったみたいだ。今がチャンスだと思う。氷塊‼︎)
ウォルターは両手を青キメラに向けると、青キメラの巨体を瞬時に縦四メートル、横幅三メートル程の氷の塊で閉じ込めました。周囲に大量の水があり、水温が低くという条件でやっと使えます。
同じように何度も氷塊を青キメラの周囲に作り続けて、分厚く強化すると、通路に向かって泳いで行きます。あとは部屋全体を氷漬けにするだけのようです。
(あれ? 逃げてない)
ウォルターは部屋全体を凍結させた後、通路を凍結させていました。
そして、水が途切れている通路の先に、立っているドロシーの姿が見えました。
探査を使っても、周囲にはドロシーしかいません。
警戒するべき状況ですが、進む道は一つしかありません。
(行くしかないか)
ウォルターは念の為に槍を構えると、ドロシーに向かって進みました。
「おっと……」
ウォルターは隙だらけのドロシーの首の後ろを、バシィと手刀で強打しました。
一撃目よりも気持ち的に、二倍ぐらい威力強めに打ちました。
ドロシーの身体が倒れていくので、ウォルターは怪我させないように受け止めます。
「ふぅー、まずは一人確保と」
今度は上手く気絶させられて、ウォルターはちょっと安心しています。
そのまま気絶しているドロシーを床にそっーと寝かします。
そして、その真っ白な首から、紐の付いた危険な笛を奪い取りました。
「これで、もうただの女性だ」
そんなはずはないですが、戦力外になったのは確かです。
この笛を使って、人型ドラゴン『キメラ』を操る事が出来るそうです。
目を覚まして、笛を吹かれる訳にはいかないので、没収して、ウォルターはズボンのポケットに入れました。
(さて、このまま逃げたいけど、それは出来ないんだよね)
ウォルターはドロシーを連れて、このまま逃げたいですが、それは出来ません。
キメラを作れる人間は三姉妹だけです。
そのうちの一人を確保する事が出来れば、残り二人では、キメラを作る事は出来ません。
このままドロシーを外に連れて逃げれば、研究施設は閉鎖できそうです。
けれども、問題が残っています。完成品のキメラと材料にされる人達が残っています。
キメラは倒していいとしても、捕まっている人達は逃してあげないと、材料として殺されるだけです。
それにドロシーがいなくなった事が分かれば、怒った姉妹がキメラを使って、何をするか分かりません。
(キメラは4人で、改造前の人間は11人か。キメラさえ倒せれば、制圧できるとは思うんだけど)
ドロシーの説明を受けて、ウォルターは探査でキメラと人間の区別が出来るようになりました。
キメラを避けて、何人かの人達と一緒に安全に逃げる事は可能です。
あとは賢者に手紙を送って、応援に来てもらえば、研究施設は潰せます。
でも、数日後に賢者と一緒に研究施設にやって来ても、長女と三女、キメラは消えた後です。
(やっぱり逃げられないように、キメラは倒して、三姉妹全員を捕まえないと駄目だ)
ウォルターは色々と考えた結果、逃げるだけじゃ駄目だという結論を出しました。
ドロシーを連れ去っても、ドロシーの代わりが見つかれば意味がありません。
別の研究施設が作られて、また振り出しに戻ります。
そうならないように、今日決着をつけないと駄目だと決意しました。
(よし、笛でキメラを呼んで、部屋と通路を水と氷で塞げば閉じ込められる。まずは三姉妹の確保を優先しよう)
無計画で研究施設に潜入したウォルターでしたが、作戦が決まったようです。
ズボンのポケットに手に入れると、笛を手に取って、強く吹きました。
ピィー‼︎ と室内に甲高い音が鳴り響きます。
こんな笛の音で遺跡の隅々まで音が届くとは思えませんが、反応はあったようです。
「向かって来るのは、一人だけか」
ウォルターは探査を使用して、一人のキメラがこの部屋にやって来るのを待っています。
どうやら、専用のキメラだけを呼ぶ為の笛だったようです。
ウォルターはドロシーを肩に担ぐと、部屋の天井に大量の水を溜めていきます。
「まずは溺れ死ぬか確認しよう」
ウォルターの作戦は、やって来たキメラを巨大な水球の中に閉じ込めての溺死狙いです。
水球に閉じ込めたら、あとは脱出できないように、氷の壁でドンドン分厚く補強していきます。
そうやって、水中から逃げられないようにして、溺死させます。
上手くいけば、他のキメラも同じように始末します。
「えっ、あれがキメラなの?」
ウォルターの狙い通りにキメラがやって来ました。
予想した姿とは全然違いましたが、あれが完成品のキメラのようです。
手術台のキメラよりも明らかに成長しています。身長は250センチ、体重300キロはありそうです。
肥大した筋肉の表面を覆う青色の鱗に、ドラゴンのような頭には白い角が二本生えています。
背中には強靭な翼が生え、腕には鋭い五本の爪が生えています。
薄い氷の壁に閉じ込めても、粉砕されるのは時間の問題です。
完成品を見た後に呼んだ方がよかったと、ウォルターは後悔しています。
「……オマエ、ダレ? ドロシー、コロシタ?」
「⁉︎」
青キメラは部屋に入ると立ち止まって、ウォルターとドロシーを確認しています。
そして、いきなり襲いかからずに、無感情な片言の言葉で話しかけてきました。
ウォルターは青キメラが会話できるとは思っていなくて、少し驚いています。
知性がまったくない魔物だと殺しやすかったのですが、会話が出来るなら、戦わなくても済むかもしれません。
「あっ、大丈夫。気絶しているだけ」
「——ドロシー、コロシタ‼︎ オマエモ、コロス‼︎」
ウォルターは話しをしようとしましたが、ちょっと遅かったようです。
青キメラの口調が強くなったと思ったら、襲いかかって来ました。
「くっ!」
ウォルターはドロシーを担いだまま、天井に溜めた水の中に逃げ込みました。
予定とは違いますが、やる事は同じです。
追って来た青キメラが水中に入ったのを確認すると、床に向かって、水を一気に増やしていきます。
それでも、まだ足りません。床まで満たした後は、通路まで水で満たしていきます。
念には念を入れないと閉じ込められません。
「がぼっ⁉︎ ごぼっ、ごぼっ~~‼︎」
けれども、水が満ちる前にドロシーが水中で目を覚ました。
青キメラは水中でも平気なようですが、ドロシーは数十秒で溺死します。
ドロシーは苦しそうですが、まだ床まで水が届いていません。
(避けるのと、水を増やすのに集中しないと捕まる。他に手段はないから、我慢してもらわないと)
青キメラは器用に翼を魚のヒレのように使って、水中でも素早い動きを可能にしています。
ウォルターは青キメラの素早い攻撃を避けながらも、ドロシーの身体を抱き締め、人工呼吸の要領で口から口に酸素を渡します。
「んんっ~~⁉︎ んんっ~! んんっ……」
ドロシーは人工呼吸を嫌がっていますが、苦しいよりはいいようです。すぐに大人しくなりました。
そして、ウォルターは最低でも三分以上、この死体が漂う水中を逃げ回らないと、青キメラを閉じ込められるだけの水量は集められません。
(……このままだと死んじゃう。逃げられるかもしれないけど、通路に放り込もう)
水中呼吸が出来るウォルターと違って、ドロシーは死にそうになっています。
二分近くも応急の人工呼吸で粘りましたが、もう無理なのは顔を見れば分かります。
ウォルターは水没していない通路にドロシーを放り込むと、青キメラに槍を向けて、注意を引きつけます。
(全然溺れないから、多分、水中でも活動できるように改造されている。他のキメラも氷に閉じ込めるしか倒せないと思う)
ウォルターは水中を自由に動く青キメラを見て、溺死させる事は諦めました。
それでも、青キメラを倒す準備は出来たようです。ウォルターは室内に満ちた水の水温を下げていきます。
あとは出来るだけ部屋のド真ん中で、青キメラを氷に閉じ込めるだけです。
「ドコ? キエタ?」
青キメラが死体の中に紛れたウォルターを見失っています。
このまま通路に逃げて閉じ込めるのは無理ですが、もう青キメラの周囲を凍らせる事は出来ます。
(濁った水と死体で僕の位置が分からなくなったみたいだ。今がチャンスだと思う。氷塊‼︎)
ウォルターは両手を青キメラに向けると、青キメラの巨体を瞬時に縦四メートル、横幅三メートル程の氷の塊で閉じ込めました。周囲に大量の水があり、水温が低くという条件でやっと使えます。
同じように何度も氷塊を青キメラの周囲に作り続けて、分厚く強化すると、通路に向かって泳いで行きます。あとは部屋全体を氷漬けにするだけのようです。
(あれ? 逃げてない)
ウォルターは部屋全体を凍結させた後、通路を凍結させていました。
そして、水が途切れている通路の先に、立っているドロシーの姿が見えました。
探査を使っても、周囲にはドロシーしかいません。
警戒するべき状況ですが、進む道は一つしかありません。
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