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第五章

第3話『パートナー選び』

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 魔物に家畜が襲われている村に到着したウォルター達は、早速村長の家に向かいました。

「こ、国王様⁉︎ どうして、このような場所に⁉︎」

 王様を見た瞬間に、七十歳前後の年老い村長が、慌てて椅子から立ち上がって、床に平伏しました。
 冒険者がやって来たと聞いたのに、やって来たのは国王様でした。

「構わん構わん。今のワシは冒険者のフィデルさんだ。普通に接してくれ」
「はっ、はぁ……では、そちらの三人のお方は護衛の方ですか?」
「いや、ワシの娘で第一王女のディアナ。他国の第三王子のウォルターさん。他一名じゃ」
「ハッ、ハハァッー! これは失礼いたしました!」

 護衛ではなく、王女と王子です。村長は深く深く頭を下げて、無礼を謝罪しました。
 他一名の素性が少し気になっていますが、勝手に偉い人だと勘違いしています。
 村長はもう、恐れ多くて床から立ち上がる事が出来ません。
 床に座ったまま話をする事にしました。

「あれは——」

 村の羊が襲われ始めたのは、一ヶ月程前からです。
 最初は一度に一頭だけだった被害も、今では一度に三頭になりました。
 味をめた魔物が村の近くに増えたのか、子供だった魔物が成長して胃袋が大きくなったのか。
 理由はまだハッキリとしてませんが、仕掛けた罠を回避して、羊を喰い殺され続けています。

「——という訳で、大事おおごとになる前に冒険者を数名雇って調査してもらったんですが、まったく魔物の影も形も見つからないのです」
「なるほどの。知能の高い魔物という訳か……ウォルター君、ちょっと村の周囲を調べてもらっていいかの?」

 国王はウォルターに魔物の探査をお願いしました。
 でも、そんなのは村に到着する前からやっていました。
 ウォルターは国王の質問に即答しました。

「もう終わっています。村の北東七キロ先に三匹います」
「そうかそうか。では、早速魔物退治に出掛けるとしようか」
「こ、国王様? 一体何を言っているんですか? 魔物の居場所が分かるんですか?」

 ウォルター達は村に到着したばかりで、調べる時間なんてなかったはずです。
 そんな事が出来るはずがないと村長は聞きました。けれども、それが出来るのです。

「当たり前じゃろう。遊びに来たんじゃないんだぞ。ワシに任せておきなさい」
「おおぅ! ありがとうございます、国王様! いえ、フィデル様!」
「構わん。王として民の暮らしを守るのは当然の義務じゃ」

 あんたは何もしないだろう、とウォルターは心の中で思っていますが、こういうのはチームプレイです。
 王様は威張るのが仕事です。村人達の信頼と協力を集めてくれれば、それで十分です。

「それじゃあ、村長。村人には今日からは、枕を高くして眠ってもいいと伝えておくんだぞ」
「はい、フィデル様。ありがとうございます」

 これ以上、冷たい床に村長を座らせるのは気の毒です。
 なので、さっさと村長の家から出ました。作戦会議が必要です。

「僕が一人でパパッと泳いで倒しに行きましょうか? その方が早いですから」
「そうですね。兄様が一人で行った方が早いですからね」
「うんうん。ウォルター君になら、安心して任せられる」

 まあ、当然、こういう流れになります。
 でも、この流れに賛成できない人もいます。

「ちょっと待ってください! ウォルターさんが魔物を一人で倒した時は、私の報酬はどうなるんですか?」
「その場合は約束通り、銀貨一枚です。だって何もしてないじゃないですか。違いますか?」

 ミファリスの疑問にディアナが予定通りに答えました。
 これで銀貨一枚の通常価格で荷物持ちが雇えます。

「なっ⁉︎ ズルイよ! そんなのズルだよ!」
「ズルじゃないです。約束を破るんですか?」
「うっ……」

 駄々を捏ねて抗議するミファリスですが、ディアナにはまったく通用しません。
 このまま銀貨一枚で決着がつきそうでした。
 でも、ウォルターは今後の二人の関係を考えて、チャンスを与える事にしました。

「それじゃあ、僕がミファリスを目的地まで運んで行くよ。人を運んで泳げるように練習したいし、魔物が強敵だったら、引き返す事になるんだから、その方がいいでしょう?」
「あっ! うんうん、そうだよ。一人じゃ危ないよ。ウォルターさんが怪我したら、誰も助けられないんだよ! 居場所だって分かんないし、近くに人がいないと危ないよ。私も絶対に付いて行くから!」

 頼もしい味方が現れて、ミファリスは元気を取り戻しました。
 でも、銀貨一枚は決定事項です。どんなに頑張っても未来は変わりません

「兄様の言っている事は正しいです。でも、運ぶ練習をするなら、重い人よりも軽い人から始めた方がいいです。ミファリスさんだと、ちょっと重いんじゃないでしょうか?」
「な、何……私が重いって言いたいの!」

 チラッとディアナは黒髪のハンマー使いを見ました。パッと見、46キロぐらいの印象です。
 出会った当初は金も無く、行き倒れ同然でしたが、最近は金に余裕があるのか少し太ったようです。

「多分、ハンマー込みだと60キロ、いえ、70キロはありそうです」
「70キロ⁉︎ 嘘です! ハンマー込みでも50キロ! 無かったら、45キロです!」
「フッ。45キロ……兄様、私は30キロちょうどです」
「ワシは84キロある。ウォルター君、誰を選ぶんだい?」
「えっ⁉︎」

 醜い女の戦いに王様も参戦して来ましたが、王様は考える必要もないぐらいに論外です。
 残るは30キロと50キロです。選ぶのは決まっています。

「それじゃあ、ミファリス……」
「はい、行きましょう!」
「ごめん。ここに貴重品が埋まっているから、王様と一緒に掘っておいて」
「えっ……」

 名前を呼ばれて喜んでいたのに、まさかの発掘作業です。
 しかも、王様を喜ばせる為の接待発掘を命じられました。

「ミファリス君、一緒に頑張ろうか」
「えっ……」

 小太り王様はやる気十分のようです。
 ミファリスの左肩をポンと叩くと、服の袖をまくり始めました。
 もう逃げられません
 お姫様抱っこされたディアナが、ウォルターと一緒に空の向こうに消えて行きました。

「さあ、お宝ゲットじゃぞ!」

 王様はそう言って気合いを入れると、村人から借りたスコップで、サクサクと柔らかい土を掘り始めました。
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