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第四章

第8話『剛腕vs游泳』

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 ——リランの屋敷前。

「何だ何だ! てめぇら! ここがどこだか分かってんのか! 怪我する前にさっさと消えろ!」

 門番の大男が、ゾロゾロとやって来た冒険者達に大声で怒鳴っていました。

「ピーピー、ピーピー、うるさいですよ」
「誰だ! 出て来い!」

 脇役の癖に、もう登場回数三回目です。流石に飽き飽きしていました。
 ハンマーを持った黒髪の女性が冒険者達を押し退けて、前に出て行きます。
 まるで、主役だと言いたいみたいです。

「……何だ、ミファリスじゃねぇか。さっさと飯食って寝ろ。明日もトンネル工事するんだぞ」
「……もう辞めます」
「はぁっ? てめぇ、そんなんだから仕事が長続きしねぇんだよ! 辛くてもやる気と根性見せろやぁ!」

 ミファリスは海岸に放置されて、もう10日以上も一人トンネル工事をさせられていました。
 しかもタダ働きです。

 ハンマーで岩を砕いては、スコップで袋に詰める。岩石が詰まった袋を運ぶの繰り返しです。
 体力の限界の前に、我慢の限界でした。

【スキル『混ぜるLV5』=かなり上手に混ぜる事が出来る。】

【スキル『破砕LV5』=かなり上手に砕く事が出来る。】

【スキル『掘削LV5』=かなり上手に掘る事が出来る。】

【スキル『運搬LV5』=かなり重い物が運べるようになれる。】

「だったら、てめぇがやれよ‼︎」

 大男の言葉にブチ切れたミファリスは、ハンマーの柄を両手でしっかりと握ると、門番の大男の左脇を狙って、右から左に振り抜きました。

「ごべっえっ⁉︎」

 バキバキ‼︎ 鉄ハンマーの平たい頭が門番の左肋骨、背骨、右肋骨を完全に砕きます。
 吹き飛ばされた門番は、屋敷の岩壁に打つかると、地面に倒れて二度と門番が出来ない身体になりました。

「てめぇ、ミファリス‼︎ 屋敷で雇ってやった恩を忘れたのか!」
「金貨三枚……だったら、給料払えよ」

 もう一人の門番の大男は激怒すると、ミファリスの華奢な身体に掴みかかりました。
 裏社会は礼儀と恩は何よりも大切です。けれども、ミファリスは給料無しです。
 恩ではなく、恨みしか貰っていません。だから、貰った恨みを恨みで返す事にしました。

 ついでに門番二人を倒して、退職金代わりに、ウォルターから一人金貨三枚の特別報酬を貰います。

手刀掘削しゅとうくっさく

 ミファリスは門番との距離が近過ぎるので、ハンマーが振れません。
 ハンマーから手を離すと、両手をスコップのような形にしました。
 海岸の砂利浜で鍛えた技です。
 両手を素早く門番の右胸と左胸に、ドスッ、ドスッと突き刺しました。

「ごほぉっ……ミ、ミ、ミファリス、てめぇ……」
「金貨六枚。退職金には十分ですね」
「ごはっ⁉︎」

 突き刺された瞬間に門番は口からドバァッと吐血しました。
 何が起こったのか信じられないといった顔をしています。
 ミファリスは血塗れの両手を門番の身体からズボッと引き抜くと、門番はゆっくりと倒れていきました。

「強えぇ……あの女、何者なんだ?」
「一度も見た事ねぇけど、ヤバイのは分かる。二人を躊躇なく瞬殺しやがった」

 一人の大柄な冒険者がミファリスを見て言いました。でも、それはウォルターの台詞です。
 二週間程、見ていなかっただけで、恐ろしい程のデストロイヤー=破壊者に成長していました。
 そんな破壊者にウォルターは恐る恐る話しかけました。話をするのは約二週間振りです。

「ミファリス、久し振りだね。見違えたよ。どうしたの?」
「ウォルターさん……言われた通りに頑張っていたら、こうなりました」
「そうなんだ。頑張ったんだね。はい、金貨六枚。もう危ないから帰ってもいいよ」

 普通は頑張っても、そうはなりません。躊躇なく二人殺しました。
 冒険者達が門番から奪った鍵で門を開けているので、もうミファリスにはこの辺で帰ってもらっていいです。
 ウォルターは小袋から金貨を六枚取り出すと、ミファリスに渡しました。
 これからは凄腕冒険者か、殺人鬼の仲間入りをしてもらって、活躍を応援するだけです。

「いえ、まだ駄目です。私はロデリックを倒す為に、ウォルターさんがいなくなった日から、日々鍛えていたんです。あいつを倒すまでは帰れません!」
「駄目だ! あいつは門番みたいに弱くないんだから、このお金を持って、さっさとここから離れるんだ!」
「嫌です! あの男をボコボコにして、トンネルの中に埋めるまで帰りません!」
「駄目だ! ミファリスは、ここにいたら駄目な人間なんだ。僕には二度と関わったら駄目だよ!」
「嫌です! ブッ殺して、ミファリス海底トンネルの人柱として埋めるんです!」

 ミファリスは土木作業のし過ぎで、かなり荒っぽい性格に変化しています。
 やる気よりも殺る気が漲っている感じです。放っておいたら、一人で向かって行ってやられそうです。
 ロデリックを倒すのは、ウォルターの役目ですが、こうなったら二人掛かりで戦った方が、勝てる見込みがありそうです。

「はぁ……分かったよ。帰らなくてもいいけど、僕と一緒に行動するように……ロデリックの位置はあっちだよ」
「えっ、分かるんですか?」
「まあ、僕もそれなりに鍛えていたから……」

 ウォルターはスキル『探査』を使って、リランとロデリックの二人の位置をチェックしています。
 この二人だけは屋敷から逃すつもりはありません。
 ウォルターとミファリスは、そこそこ強い屋敷の手下を倒しながら、ロデリックの元に急ぎました。

 ♦︎

「ぐあっ⁉︎」
「駄目だ! 逃げるぞ!」

 ウォルターとミファリスがロデリックの元に辿り着いた時には、既に戦闘が始まっていました。
 冒険者が三人掛かりで戦っていましたが、殴られた一人が六メートル程、殴り飛ばされました。
 どう見ても格上の相手に勝てないと判断すると、殴り飛ばされて気絶している仲間を引き摺りながら、二人は逃げて行きました。

「フッ。またお前達か……何がしたいのか分からんが、子供の悪戯にしてはやり過ぎだな。覚悟は出来ているんだろうな?」
「ミファリス、僕が先に行く。隙があったら攻撃して」
「分かった。トドメは任せて」

 笑みを浮かべるロデリックに対して、ウォルターは剣を抜いて答えました。
 今日はリヴァイアサンの剣だけじゃなく、服も着て来ました。完全武装で決着をつけます。

「行くぞ……」

 ウォルターは剣先を正面に向けた状態で、游泳のスキルを発動させます。
 宙を一気に泳いで、ロデリックに突っ込むと、打つかるギリギリで回避して右腕を切りつけました。

「ぐっ⁉︎ そのデタラメな動きは何だ?」

 鋭利な刃物で切られて、ロデリックの右腕から血が流れていきます。
 前は擦りもしなかった攻撃が当たりました。
 ロデリックは宙に浮いているウォルターを不思議に見ています。

「……ただ泳いでいるだけだ。もうお前の攻撃は僕には通用しない。決着をつけてやる!」
「小僧が……調子乗るなぁーー‼︎」

 ウォルターは宙を一蹴りして一気に加速します。
 うつ伏せの状態のまま泳いで、剣を水平に構えて、地面すれすれを泳ぎます。
 通常ではあり得ない角度と連続攻撃にロデリックは苦戦します。

「ぐっ、くっ、降りて来い!」

 空中で逆立ちした状態でウォルターは、真下にいるロデリックに剣を連続で振り回します。
 そんな上ばかり見ている、隙だらけのロデリックに、破壊者が向かって行きました。

「覚悟ぉ‼︎ オリャー‼︎」
「ぐっ、ぐっ、土木女か……」

 ミファリスは渾身のハンマーを振り下ろしました。
 ズガァン‼︎ と盛大な破砕音を轟かせて、屋敷の庭にヒビ割れが走っていきます。
 残念ながら躱されましたが、警戒させるには十分な威力です。

「隙だらけだぞ!」
「ぐわぁっ‼︎」

 ウォルターの剣が隙だらけのロデリックの左腕を切り裂きました。
 半分以上切られた左腕の二の腕からは、血が溢れて止まりません。
 ロデリックは苦痛に顔を歪めながらも、その顔から笑みが消えません。

「あがっ、ぐっ、くっくくく。俺の身体にここまでの傷を付けたのは、お前で三人目だ。ハァハァ、ハァハァ、やはりチマチマしたせこい計画は俺の性に合わねぇ。文句があるなら、拳を黙らせる……それが男のやり方だ! さあ、俺をもっと楽しませろ! 俺を殺してみろ! 第三王子‼︎」

 地上の怪物は重傷を負っても戦意を失いません。それどころが増すばかりです。

「……お前の復讐は僕が責任を持って終わらせてやる。ウォルターとしてじゃなく、死んだはずの第三王子として……行くぞ!」
「来い! 俺を殺してみろ!」
「ウオオォォォーーー‼︎」

 ウォルターはそんな怪物にトドメを刺す為に、剣をしっかりと握ると全力で泳いで行きます。

「ゼリリァァァーーー‼︎」

 ロデリックは使える右腕だけに全ての力を込めて、突撃して来るウォルターを、剣ごとへし折るつもりです。

「ハァッ‼︎」「ドリャッ‼︎」

 ウォルターの剣と、ロデリックの剛腕と金剛が込められた右拳が打つかり合いました。
 激しい衝突音も、僅かな力の拮抗も起こりません。

「ぐぅぎあぁあああ~~~‼︎」

 ウォルターの真横一文字に振られた剣が容赦なく、ロデリックの右腕の拳から肘までを、真っ二つに切り裂きました。
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