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第三章
第7話『新しいスキル2』
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——リラン邸。
「次に門番の報告ですが……二名の子供が雇って欲しいとやって来たそうです。使えないスキルだという事で追い返したそうです」
屋敷の主人に執事の男が、いつものように定期報告を続けていました。
「そうか。スキル持ちは珍しいのに追い返すとはな……そんなに使えないスキルだったのか?」
執事の報告に、暗い部屋の中から退屈と渇きが混ざったような声が返って来ます。
屋敷の主人はソファーに寝転んで、赤色の酒を飲みながら、退屈そうに興味のない定期報告を聞き続けています。雇ってくれとやって来る人間は、月に10人以上はやって来ます。珍しい事じゃありません。
「はい、泳ぐ事と混ぜる事しか出来ないスキルらしいです。そのような事はスキルがなくても出来る事だと、門番はスキル持ちを偽ったと判断したそうです」
「……泳ぐだと?」
屋敷の主人が酒を飲む手を止めて聞き返してきました。
いつもはまったく興味を示さない主人の反応に、執事の男は少しだけ驚くと、すぐに話を続けました。
「はい、泳ぐだけのスキルです。おかしなスキルを思いつくものです。それを言い出したら、私なんて常に歩くスキルを使っているようなものです。今は喋るスキルでしょうか? はっはは……」
執事の冗談に主人はピクリとも笑いません。それどころか眉間にシワを寄せています。
「いや、まさかな……その子供の年齢はどのぐらいだ? 髪は茶か、栗色……年齢は十五歳ぐらいじゃなかったか?」
「えっーと、お待ちを……」
微笑みを浮かべて笑っていた執事の男は、主人の質問に慌てて門番の報告書を隅々まで読みました。
けれども、年齢や髪の色はどこにも書いていません。ただ、男と女の子供がやって来たとしか書かれていませんでした。
明らかに手を抜いた報告書に執事の男は門番に代わって、慌てて主人に謝罪しました。
「申し訳ありません! 門番には二度とこのような事が起きないように、より詳細に報告するように厳重に注意しておきます!」
「いや、それはいい。その子供を見た門番を連れて来い。聞きたい事がある」
「は、はい。すぐに連れて参ります!」
執事の男が部屋を出て行くのを見送ると、屋敷の主人はまた赤色の酒を飲み始めました。
♦︎
ウォルターとミファリスは高級宿屋から早朝出発すると、一緒に港を目指しています。
ウォルターの手には、つるはしとスコップが握られています。
おそらく、ミファリスの新スキル『破砕』を強化するつもりのようです。
海岸ならば、壊しても怒られない岩がゴロゴロと転がっています。
「とりあえず、今日はスコップで砂浜を掘って、岩を壊していればいいから。それ以外は何もしないように」
「すみません。修理代は必ず返しますから」
「あっ、それはいいです。気にしないでください」
慌ててウォルターは断りました。
高級宿屋の修理代を返すまで付いて行きます、と言われたら、それこそ大変です。
「えっ、本当ですか? でも、こんなに良くしてもらって、恩返しもしないなんて、何だか悪いです」
「本当に気にしなくていいです。気持ちだけで十分です。スキルのレベルアップを頑張ってくれるだけで十分ですから」
「そうですか……じゃあ頑張ります!」
ミファリスは本当に申し訳なさそうにしていますが、悪いと思っているなら、早く働いて欲しいです。
ウォルターの予定では、スキル『破砕』をさっさとレベルアップさせて、ミファリスを何処かの工事現場に雇ってもらうつもりです。
この際、料理人やケーキ屋さんになる夢はスッパリと諦めてもらって、硬い岩盤や邪魔な岩石を壊してもらいます。その方が皆んなの為です。
「それじゃあ頑張ってください。夜には戻りますから」
「はい! 期待してください! いってらっしゃい~~~」
海岸にミファリスを残すと、ウォルターは昨日と同じように海に潜って、海底のお宝拾いに行きました。
わざわざミファリスが問題を起こさないか、見張りなんてしません。
ミファリスはウォルターが見えなくなるまで、元気に手を振り続けました。
「ふぅ……よし、まずはスコップで穴を掘ろう」
気合いを入れると、ザク、ザクとミファリスは砂利が多い砂利浜を鉄のスコップで掘って行きます。
ウォルターの予想通りならば、ミファリスの天職は土木作業員です。
スコップで延々と砂利浜を掘っていれば、新しいスキルを習得できるかもしれません。
「エイッ、ヤァッ! エイッ、ヤァッ!」
暑い日差しの下で、麦わら帽子も被らずにミファリスは穴を掘り続けています。
そして、二時間を経過した頃に、求めていたものがやって来ました。
【NEWスキル『掘削』がLV1になりました。
掘削の才能があるを習得しました。】
「はぁはぁ、はぁはぁ、ちょっとだけ一休みしないと……」
ミファリスは大汗をかいて、疲れ切っています。新しいスキルを習得したので木陰で休む事にしました。
若いから体力には自信がありましたが、生クリームを作る作業に比べて、土木作業は何倍も疲れる重労働です。
「もしかすると私、これからずっーと土を掘って、岩を壊すだけの人生が待っているのかも」
ミファリスは新しいスキルを習得できた事に喜んでいました。
でも、ある事に気がついて、落ち込んでいます。
スキルが増えれば可能性の道が広がると思っていたのに、増えれば増えるほどに可能性の道が狭くなっていきます。今は土木作業員になる道しか見えなくなってしまいました。
「このままでいいのかな……」
スキルが『混ぜる』だったから、ミファリスは調理人になる事を決めました。
カレーに、シチューに、小麦粉を使った生地作りに、とにかく混ぜて混ぜて頑張りました。
その結果の失業でした。
天職が土木作業員だからという理由で、安易にその道を選んでいいのか迷っています。
そして、その結果、見当違いの答えを出してしまいました。
「よし、私もウォルターさんを見習って、陸のトレジャーハンターを目指しましょう! お宝見つけて大金持ちです!」
ミファリスは自分が目指すべき道を見つけたと思って、やる気を漲らせています。
つるはしを手に持つと、巨大な岩壁に挑みに行きました。
「次に門番の報告ですが……二名の子供が雇って欲しいとやって来たそうです。使えないスキルだという事で追い返したそうです」
屋敷の主人に執事の男が、いつものように定期報告を続けていました。
「そうか。スキル持ちは珍しいのに追い返すとはな……そんなに使えないスキルだったのか?」
執事の報告に、暗い部屋の中から退屈と渇きが混ざったような声が返って来ます。
屋敷の主人はソファーに寝転んで、赤色の酒を飲みながら、退屈そうに興味のない定期報告を聞き続けています。雇ってくれとやって来る人間は、月に10人以上はやって来ます。珍しい事じゃありません。
「はい、泳ぐ事と混ぜる事しか出来ないスキルらしいです。そのような事はスキルがなくても出来る事だと、門番はスキル持ちを偽ったと判断したそうです」
「……泳ぐだと?」
屋敷の主人が酒を飲む手を止めて聞き返してきました。
いつもはまったく興味を示さない主人の反応に、執事の男は少しだけ驚くと、すぐに話を続けました。
「はい、泳ぐだけのスキルです。おかしなスキルを思いつくものです。それを言い出したら、私なんて常に歩くスキルを使っているようなものです。今は喋るスキルでしょうか? はっはは……」
執事の冗談に主人はピクリとも笑いません。それどころか眉間にシワを寄せています。
「いや、まさかな……その子供の年齢はどのぐらいだ? 髪は茶か、栗色……年齢は十五歳ぐらいじゃなかったか?」
「えっーと、お待ちを……」
微笑みを浮かべて笑っていた執事の男は、主人の質問に慌てて門番の報告書を隅々まで読みました。
けれども、年齢や髪の色はどこにも書いていません。ただ、男と女の子供がやって来たとしか書かれていませんでした。
明らかに手を抜いた報告書に執事の男は門番に代わって、慌てて主人に謝罪しました。
「申し訳ありません! 門番には二度とこのような事が起きないように、より詳細に報告するように厳重に注意しておきます!」
「いや、それはいい。その子供を見た門番を連れて来い。聞きたい事がある」
「は、はい。すぐに連れて参ります!」
執事の男が部屋を出て行くのを見送ると、屋敷の主人はまた赤色の酒を飲み始めました。
♦︎
ウォルターとミファリスは高級宿屋から早朝出発すると、一緒に港を目指しています。
ウォルターの手には、つるはしとスコップが握られています。
おそらく、ミファリスの新スキル『破砕』を強化するつもりのようです。
海岸ならば、壊しても怒られない岩がゴロゴロと転がっています。
「とりあえず、今日はスコップで砂浜を掘って、岩を壊していればいいから。それ以外は何もしないように」
「すみません。修理代は必ず返しますから」
「あっ、それはいいです。気にしないでください」
慌ててウォルターは断りました。
高級宿屋の修理代を返すまで付いて行きます、と言われたら、それこそ大変です。
「えっ、本当ですか? でも、こんなに良くしてもらって、恩返しもしないなんて、何だか悪いです」
「本当に気にしなくていいです。気持ちだけで十分です。スキルのレベルアップを頑張ってくれるだけで十分ですから」
「そうですか……じゃあ頑張ります!」
ミファリスは本当に申し訳なさそうにしていますが、悪いと思っているなら、早く働いて欲しいです。
ウォルターの予定では、スキル『破砕』をさっさとレベルアップさせて、ミファリスを何処かの工事現場に雇ってもらうつもりです。
この際、料理人やケーキ屋さんになる夢はスッパリと諦めてもらって、硬い岩盤や邪魔な岩石を壊してもらいます。その方が皆んなの為です。
「それじゃあ頑張ってください。夜には戻りますから」
「はい! 期待してください! いってらっしゃい~~~」
海岸にミファリスを残すと、ウォルターは昨日と同じように海に潜って、海底のお宝拾いに行きました。
わざわざミファリスが問題を起こさないか、見張りなんてしません。
ミファリスはウォルターが見えなくなるまで、元気に手を振り続けました。
「ふぅ……よし、まずはスコップで穴を掘ろう」
気合いを入れると、ザク、ザクとミファリスは砂利が多い砂利浜を鉄のスコップで掘って行きます。
ウォルターの予想通りならば、ミファリスの天職は土木作業員です。
スコップで延々と砂利浜を掘っていれば、新しいスキルを習得できるかもしれません。
「エイッ、ヤァッ! エイッ、ヤァッ!」
暑い日差しの下で、麦わら帽子も被らずにミファリスは穴を掘り続けています。
そして、二時間を経過した頃に、求めていたものがやって来ました。
【NEWスキル『掘削』がLV1になりました。
掘削の才能があるを習得しました。】
「はぁはぁ、はぁはぁ、ちょっとだけ一休みしないと……」
ミファリスは大汗をかいて、疲れ切っています。新しいスキルを習得したので木陰で休む事にしました。
若いから体力には自信がありましたが、生クリームを作る作業に比べて、土木作業は何倍も疲れる重労働です。
「もしかすると私、これからずっーと土を掘って、岩を壊すだけの人生が待っているのかも」
ミファリスは新しいスキルを習得できた事に喜んでいました。
でも、ある事に気がついて、落ち込んでいます。
スキルが増えれば可能性の道が広がると思っていたのに、増えれば増えるほどに可能性の道が狭くなっていきます。今は土木作業員になる道しか見えなくなってしまいました。
「このままでいいのかな……」
スキルが『混ぜる』だったから、ミファリスは調理人になる事を決めました。
カレーに、シチューに、小麦粉を使った生地作りに、とにかく混ぜて混ぜて頑張りました。
その結果の失業でした。
天職が土木作業員だからという理由で、安易にその道を選んでいいのか迷っています。
そして、その結果、見当違いの答えを出してしまいました。
「よし、私もウォルターさんを見習って、陸のトレジャーハンターを目指しましょう! お宝見つけて大金持ちです!」
ミファリスは自分が目指すべき道を見つけたと思って、やる気を漲らせています。
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