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異世界旅行編

DV兄貴の刺客

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『世界の裂け目』と呼ばれる荒野地帯から、広大な国王の私有地に建てられた城に戻って一日……ようやく準備が整った。『光帝=ライム・レベングルス』の承認を得て、四天王を別世界の調査に送り出す事になった。

「あなた達に探してもらいたいのは、この男です」

 多種多様な実験機器が並んだ研究室に四人に集まってもらうと、調査内容の説明を始めた。
 まずは遭遇した男の全身の姿を描いた絵を見せた。

「髪は茶色、身長は百七十七センチ、体重は六十一キロ前後、見た目は若く、会った時は裸でしたが、今は服を着ている可能性があります。魔力はほとんど感じませんでしたが、魔力とは違う力があるかもしれません。油断はしないよう——」
「博士、一つ質問していいか?」

 炎の四天王『ヘルズ』が面倒そうに片手を上げると、話を遮り訊いてきた。
 男の身体的な説明は他にないので、「どうぞ」と質問を承諾した。

「変態を捕まえるのに四人も必要か? 一人で十分だろ。それかあんた一人で探してもいいはずだ。情報を出し惜しみしてないで、その魔力とは違う力を話せ。こっちもあんたの暇潰しに仕方なく付き合うつもりはない」

 戦闘集団の四天王よりも、城での地位は私の方が一つ上になる。
 それなのにヘルズの口の利き方は、同等か下の者を相手にしているようだ。
 やはり戦闘職という事で研究職の私を上に見たくないようだ。
 
「そうですね。では、これを見てください。これは昨日、世界の裂け目で遭遇した神獣が落とした物です。神獣を倒すと神器を落とします。この男も神獣の可能性があります」

 まあ、態度をいちいち気にするのは時間の無駄です。
 実験機器の中に隠すように置いてあった青い鏡を手に取った。
 まだ調査中ですが、この鏡自体にも特殊な力が二つ備わっている。

【鏡に映した人間の姿に『変身』できる力】
【鏡を自分の『分身』に変えられる力】

 つまり分身と変身を使用する事が出来るようになる。
 明らかに超常の力に分類される未知の力だ。

「神獣は私と互角の力がありました。確かに過剰な戦力とは思いますが、不足するよりは良いはずです。是非ともあなた達の力をお貸しください……」
「私は一人でも構わない。やるなら早くしてくれ」
「勝手に決めるな。俺は行かないとは言ってない」
「では、二人だ。シオンと早神サガミはどうする?」

 軽く頭を下げて頼むと、水の四天王『オフィリス』が覇気のない顔で参加を表明した。
 それにヘルズが続くと、オフィリスが他の四天王に訊いた。

「僕も行くよ。こことは違う世界に行けるんでしょ? 面白そうじゃん♪」
「俺はどちらでもいいが、一つ訊きたい。ここに帰れる保証はあるのか?」

 子供のような容姿のシオンが明るく答えると、腰に二本の刀を交差させたサガミが質問してきた。

「それはもちろん。帰還の魔法陣も人数分用意しています。魔法陣の中に立って、魔力を必要量流せば発動します。食糧と回復薬も用意しているので二週間は平気です」

 やはり四天王全員という事で、サガミは警戒しているようだ。
 安心させる為に用意していたボール状の収納器を四つ見せた。
 だが、それが逆効果になった。

「準備万端か。では、俺達が失敗した時の準備も万端か?」

 流石は異世界発祥の最強剣術集団『神風』に所属しているだけはある。
 勘が鋭いのか、疑り深いのか、危険な可能性の一つに気付いている。
 ですが、そういう指摘をされる事も想定済みです。
 軽く挑発するだけで、面白いように反応する四天王がいる。

「そちらはまだです。必要なら用意——」
「必要ねえよ。二週間もいらねえ。すぐに終わらせてくる」
「そうですね。私もそうなると思っています。では、こちらの魔法陣に入ってください。送られる先は木造船の一室です。すでに移動魔法陣の安全性は確かめています」

 狙い通りに炎の四天王が協力してくれた。
 確認したのは私ではないですが、無事に戻ってきたのは確かです。
 直径三メートルの魔法陣に四人に入ってもらうと、私の魔力で魔法陣を発動させた。

「では、良い報告を楽しみに待っています」

 そう言って四人を見送った。
 魔法陣の上から四人が消えると、静かになった部屋で鏡の調査を再開した。

「さて、次はこちらですね」

 移動の魔法陣はもう一つある。
 蒼女と男が立っていた地面に不可視の魔法陣が隠されていた。
 四天王に使った魔法陣とは、明らかに図柄が違う別物の魔法陣だ。
 私の魔力でも反応せず、誰の魔力でも反応しない。反応したのは蒼女の魔力だけだった。

 ★

「ふぅー、着いたみたいだな。ここからは俺が指揮する」

 ラストが言ってた木造船の部屋に到着した。
 四天王で一番の古株で実力者の俺が指揮するのが妥当だ。
 それなのに、

「言うのは勝手だが、一体何を指揮するんだ? この男を探せ……これ以外にあるのか?」

 水の四天王オフィリスが探している男の姿絵を見せて訊いてきた。
 コイツとは魔法属性の相性も、性格の相性も最悪だ。しかも、俺と同じ遠距離型の魔術師だ。
 気に入らないところしかない奴だ。

「だよねぇ~♪ やる事分かってんだから、わざわざ指揮する必要ないじゃん。それとも何するか忘れたから、僕達に確認してんの?」
「はあ? ブチ殺すぞ、『西』の役立たずが」

 どいつもこいつも無駄口叩くだけの馬鹿ばかりだ。
 雷使いのチビガキが馬鹿みたいに笑いながら、つまらない冗談を言ってきた。
 西王国の名門の長男だが知らないが、落ちこぼれの分際でエリートの俺を舐めるな。

「ハハハッ♪ 喧嘩売るのは勝手だけど、君程度が四天王を名乗れるのは、『北』が弱小国家だからだよ。西だと両手足の指を合わせても足りないぐらいの、下の下の強さなんだからね。分かってる? 自分が雑魚だって」
「雑魚はテメェだ。同じ四天王でも天と地程の実力差があるんだよ。それを教えてほしいなら、表出ろ。消し炭にしてやる」
「いいよぉ~♪ 神獣倒す前の準備運動にちょうどいいや。最低でも三分は持ってよね」

 親のコネで入ったクソガキが調子に乗りやがって。No.2の片方も西側の出身だ。
 親が凄いから自分も凄いと思っているなら、大間違いだ。
 テメェら全員倒して、俺が北の国王になったら、本当の実力者以外は全員クビにしてやる。

「静かにしろ、馬鹿二人組……」
「はあ?」
「えっ、僕に言ったの?」

 チビガキと激突間近だったが、サガミが片方の刀を抜いて言った。
 コイツも参加したいらしい。だが違うようだ。俺達ではなく、扉の方に刀を構えた。

「魔力は無いが、気配が近づいてくる。人間の形をしているが女だ。殺さずに話を聞いてみよう」
「リュウイチ、私が援護する。拘束するのは私の方が得意だ」
「ああ、頼む」

 くっ、俺が指揮すると言ったのに、どいつもこいつも好き勝手やりたがる。
 失敗したら全部お前らの所為だからな。

「うるさいですねぇー。忘れ物でもしたんですか?」

 待っていると扉を開けながら、黒髪の子供女が入ってきた。
 ラストと同じ珍しい黒髪だが、闇魔法が使えるとは思えない。
 俺達を見て反応する前に、オフィリスの水蔓に手足と口を拘束された。

「——っっっ⁉︎」
「君に危害を加えるつもりはない。この男を探している。知っているなら教えてほしい」
「たっぅ⁉︎」

 サガミが男の姿絵を見せて、冷静に聞いている。子供女はその絵に目を見開き驚いた。
 どうやら知っているようだ。右手から炎を出すと今度は俺が訊いた。

「おい、女。殺されたくないなら正直に話せよ。コイツはここにいるのか?」
「うわぁぷ! あぁぁた、か、神様は街に出掛けました! そ、外にいます!」
「神様? 何言ってんだ、この女?」

 口の拘束を外された女が慌てて喋り出したが、意味不明な部分もある。
 神様なんて居る訳ねえだろ。

「ヘルズ、ラストの話を聞いてなかったのか? 神獣だと言ってただろ。神だと崇められているか、崇めさせているのか、そのどちらかだ」
「チッ。そんな事はいちいち言わなくても分かってんだよ。さっさと見つけて倒すぞ!」

 オフィリスの野朗め、ムカツク野朗だ。女は任せて、部屋の外に飛び出した。
 俺が最初に見つけて瞬殺してやる。廊下を走り、階段を駆け上がると船の外に出た。

「ほぉー……」

 甲板の上に黒髪や金髪の珍しい髪の男と女が多数いた。
 しかも、若いだけじゃなく、見た目が老いている奴が何人もいる。
 若い姿しかいない俺達とは完全に違う人種だ。

「おい、この男の居場所を教えろ。知ってるんだろう。素直に教えれば、お前達は殺さないでやるよ」

 収納器から姿絵を取り出して、甲板の連中に強い口調で訊いた。
 船の外にはデカイ街が見える。あそこから一人ずつ探すのは面倒だ。
 行き先に心当たりがある奴が一人ぐらいはいるはずだ。

「し、知りません! そんな男は一度も見た事がありません!」
「はあ? 下で聞いた女とは言っている事が違うな。お前、知っているな♪」
「ひぃぃ‼︎」

 ここにも無駄口叩く馬鹿がいた。この爺さんが知っているそうだ。
 だったら、丁寧に教えてもらわないといけねえな。

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