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魔王誕生編

限界殺戮

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(おお~痛てい! 痛ていなぁ~!)

 勇者の『危険察知』が反応したお陰で、何とか『限界突破』を発動できた。
 全身体能力を激増させてなかったら、前髪ロン毛の攻撃を耐え切れなかった。
 あの自殺願望の自称悪魔野朗め。自分ごと部屋を隕石で破壊しやがった。
 まあ、それでも今の俺を殺すのは不可能だ。
 だって、俺——最強だから♪

【ジョブ:魔王】=《魔力量極増加》《常時魔力防壁》《魔眼》《超再生能力》《限界殺戮》……

「……? わ、私は生きているのか?」
「ああ、そのようだな」
「お前は⁉︎」

 眠り王子が起きたみたいだ♡
 ——じゃねえよ‼︎
 腕立て状態の俺の下で寝ていた王子が起きた。重要人物だったから助けておいた。
 俺の身体を盾にして、王子に覆い被さり、地の底まで叩き付けられた。
 これで美しい姉君と妹君がいれば、俺の物だ。ついでに王妃様も頂いちゃおうかな♪

「どうやら生き埋め状態らしい。ここから出るのは苦労しそうだな」

 腕立て状態のまま、周囲の状況を確認した。
 限界突破の赤く光る紋様のお陰でバッチリ見える。
 周囲は瓦礫、瓦礫、瓦礫の山だ。いや、正確には瓦礫の中だな。

「くっ、こんな所で遊んでいる場合ではない‼︎ この瞬間も民が苦しんでいる‼︎ 早く何とかしなくては‼︎」
「おいおい、無理すんな。人間の力じゃ無理だ。俺に任せておけ」

 王子の熱い息が顔にかかってくる。マジでやめてほしい。
 王子が狭い瓦礫の中で無理矢理動こうとしている。
 発泡スチロールじゃないんだ。人間の力じゃ無理だ。

「無理ならいくらでもする‼︎ 大切なんだ‼︎ 大切だからこそ、今動かなければ後悔する‼︎ 悪魔よ、私と『契約』してくれ‼︎ その力を私に貸してくれ‼︎」
「~~~~‼︎」

(だから熱いって‼︎ 色々熱いって‼︎)

 興奮した王子の熱い息が俺の唇にかかってくる。
 契約でも何でもしてやる。いや、もう脱出だ。脱出してやる。

「黙って見ておけ。契約ならしてやる。ここを出た後でな」

 脱出方法は簡単だ。瓦礫をブッ壊しながら上に向かって進んでいく。
 馬鹿でも分かる方法だ。でも、馬鹿では出来ない。
 出来るのは最強の男である俺だけだ。

(出し惜しみはしねえ。『限界殺戮オーバーキル』‼︎)

 限界の限界を超えてやる。
 魔王の青く光る紋様が加わり、勇者の赤と混ざり合った。
 紫光至高の紋様の輝きが俺と世界を明るく照らしている。
 さあ、破滅の始まりだ。『地獄の地獄インフェルノ・インフェルノ』——

「うおおおおおお‼︎」

 王子を避けて、灼熱の紫炎を全方位に放出した。
 神だろうと何だろうと全てを焼き尽くす魔王の炎だ。
 この俺を何度も何度も酷い目に遭わせやがって。
 二度とざまぁなんてさせねえ。

「ぐぅぁぁぁ‼︎」

 周囲の瓦礫がドロドロに溶けていく。
 王子が強烈な炎の光に目を閉じて呻いている。
 悪いがもう少し辛抱してもらうぞ。

 立ち上がれる空間を作り出すと右手を上げた。
 重力でどっちが下か上か分かる。あとは撃つだけだ。
 超究極進化した俺の『ファイヤボール』を喰らわせてやる。

 右手の掌に火球を作り出すと、溶かした瓦礫を火球に吸収させていく。
 周囲の瓦礫を溶かして、更に強力に巨大に成長させていく。
 王子の首根っこを掴むと、直径五メートル超えの紫炎の火球を解き放った。

「『魔王様の破滅の魔炎レーヴァテイン』‼︎」

 紫の閃光が瓦礫を押し退け、溶かし、吹き飛ばしていく。
 天井に開いた大穴に希望の光は見えない。暗い空から生温い雨が降ってくるだけだ。

「さあ、脱出するぞ」
「うぐっっ……‼︎」

 王子を掴んだまま真上に跳んだ。
 瓦礫の壁を足場に跳躍を繰り返し、穴の出口から外に飛び出した。

「ん? 何だ、このデカイのは?」

 瓦礫の外に出ると、身長二百メートル以上の灰色の岩石巨人がいた。
 東京タワーよりも小さいが、タワーの半分以上もある馬鹿デカイ人間だ。

「あれがお前の国の人間か?」

 掴んでいる王子に岩石巨人を指差して訊いてみた。
 岩石姉君と妹君なら頼まれたって抱きたくない。

「あれは『七大悪魔・ジルフォード』の真の姿だ。憑依していた人間の身体を捨て、悪魔本来の力を解放したんだ。力は人間の時の比じゃない。姿も力も正真正銘の化け物だ」
「へぇー、なるほどね」

 確かに言われてみたら、岩石巨人が踏み潰している街の建物は人間サイズだ。
『魔眼・超視力』——

「きゃああああ‼︎」
「誰かぁー‼︎ 誰か助けてぇー‼︎」

 俺の女になるかもしれない女を馬鹿みたいに殺しやがって。
 殺すなら男とババアだけにしろや。
 ——って、男もババアも駄目に決まってるだろうがぁー‼︎

「『火炎蜂射』‼︎ この腐れ外道共が‼︎」

 瓦礫の山から眼下の街に右手を向けた。
 魔獣に革鎧の兵士、翼の生えた悪魔と殺す奴は分かっている。
 冷たい雨が降るんだ。炎の雨が降っても問題ないだろうよ。

「ぐぅぎゃあ‼︎」
「るばああっ‼︎」
『ニュキイイ‼︎』

 直線、曲線、変幻自在の動きを見せる高速の紫火球が悪党共を貫いていく。
 俺の中の正義の心が悪を絶対許すなと言っている。
 お前達はやり過ぎた。死して後悔するがよい。

「嫌ああああ‼︎」

(ハッ‼︎ 危なぁーい‼︎)

 若い女の悲鳴が聞こえて、直撃寸前の紫火球を急いで進路変更させた。
 ギリギリセーフだ。敵は敵でも、女兵士は駄目だ。女悪魔も駄目だ。
 生きて、イキまくって、しっかりと犯した罪を、身体を犯されて償わないといけない。
『罪を憎んで人は憎まず』と歴史のお偉いさんも言っている。
 俺もキチンと見習わないとイケない。いや、見習ってイカないといけない。
 
『正直驚きました。まだ生きているとは呆れた生命力ですね。まさか不死身とか言わないでしょうね?』
「それはこっちの台詞だ。十七発だ。増やしてんじゃねえよ、このデカ岩野朗が」

 しゃがみ込んで俺を見下ろす岩石巨人の顔に口が開くと、馬鹿デカイ声で話しかけてきた。
 耳元で叫ぶ、部長の怒鳴り声よりも煩い奴だ。さっさと倒して、女兵士をベッドで『くっころ』だ。

 右手を上げると掌に、高速回転する紫炎の円盤を作り出した。
 その円盤を薄く大きく伸ばして、あとは岩石巨人の頭に投げ付けるだけだ。

「『気炎斬きえんざん』‼︎」
『があ……』

 岩石巨人の顔に気炎斬を縦にブチ込んだ。はい、これでお仕舞い……じゃねえよな。

『グゥフフフフ♪ 残念、私は不死身です。倒すのは不可能です』
「へぇー、不死身ね。それは余計に面白くなって来たなぁー‼︎」

 普通の奴なら頭潰せば終わりだ。
 それなのに岩石野朗は頭パッカーンされて笑っている。つまり頭以外が弱点だ。
 だが、そんなものをわざわざ見つけるつもりはない。DV兄貴対青女と同じ戦法だ。
 肉片、石ころ片一つ残さずにこの世から消滅させてやる。
 それでお前は今度こそ終わりだ。

 ♦︎
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