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魔王誕生編

和香梅

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「……助かったのか?」

 視界を覆う光が晴れていく。神様と鉄格子は見えない。
 どこまでも続く大地が見えるだけだ。そう俺は助かったのだ。

「へぶう‼︎」

 違ったみたいだ。何かに思いっきり後頭部を踏みつけられた。
 岩の地面とグリグリと熱烈な強制キスだ。

「お兄ちゃんってば、本当に手が掛かるわね。これで助けたのは四度目よ。しっかりしてほしいわね」
「ふげぇ、ふぅぎゆ⁉︎」

 聞き覚えのある女の声だ。この声は間違いない。アイツだ。
 だが、ここにアイツがいる訳がない。
 混乱する頭を物理的に動かして、俺を踏みつける女を確認してみた。

「‼︎」

 左頬を踏まれている状態だが確認できた。『黒色セクシーパンティ』だ。
 欲求不満の女が好んで穿く、あのレース模様の黒パンティだ。
 いやいや、違う違う。もっと上だ。上を見ないと駄目だ。

 黄緑色のロングスカートの中身から視線をずらして、身体の輪郭を上に辿っていく。
 色白の細い太モモ、形のいい臀部、長過ぎず短過ぎない両脚……よし見えた。
 黒パンティだ♡

 ——って馬鹿野郎‼︎
 頭踏まれている状態でスカートの中以外見える訳ねえだろが‼︎

「ていい! ヤァッ!」

 女の細い右足首を両手で掴んで持ち上げ、その隙に地面を転がって脱出した。
 そして、素早く片膝立ちで女の顔を見た。

和香梅わかめ⁉︎」

 身長百六十六センチ。肩先まで伸びた全体的にはねている黒髪。
 黄緑色の肩紐ロングワンピースと、白い半袖シャツに隠されたFカップ巨乳。
 信じられないが間違いない。俺の妹『和香梅』だ。
 
「残念、和香梅じゃないわ。これは仮の姿よ。私は神、あなたを何度も異世界召喚したのは私よ。でも、さっきの世界に召喚したのは別の神よ。お兄ちゃんみたいな『脳筋』『全身珍宝』をあんな世界に送る訳ないでしょ」
「た、確かに……」

 脳筋含めて二つの意味で確かにだ。
 犯人探せは俺向きの世界じゃなかった。
 武闘派の俺には『魔王を倒せ』が一番分かりやすい。

「お兄ちゃんには残り二回、別の異世界に行ってもらうわ」

 この偽和香梅が俺を召喚していた犯人か。
 あと二回だって? コイツの所為で三回も死にかけた。
 その責任を取ってもらう必要がある。

「……分かった。だけど、その前にやって欲しい事がある」
「何?」

 パイズリだ。間違いなくパイズリだな。
 パイズリとパンパンで三回イカしてくれれば許してやる。
 フッ、俺も大人になったな。この程度で許してやるんだから。

「俺のココをその身体で六回イカせてもらおうか。そっちも六回、こっちも六回と行こうじゃないか♪」
「……」

 立ち上がると俺の股間を笑顔で指差した。すでに準備万端で脱いでいる。
 和香梅はFカップのそこそこ可愛い女子大生妹だ。女子高生の時はマジでヤバかった。
 鋼の自制心で抑えていたが、何度鍵のかかった部屋に侵入して、夜這いしたくなったか覚えていない。
 
「いいわよ。でも、条件があるわ」
「……俺に出来る事なら何でも言ってください」

(えっ⁉︎ いいの⁉︎)

 偽妹だが、女神の返事に一気にテンションが上がった。
 妹との近親相姦は男の武勇伝に是非とも載せたい項目だ。
 だが、母親との武勇伝は謹んでお断りさせてもらう。

「『世界創造』よ」
「世界想像? それは一体何をすればいいんですか?」
「簡単に言えば、何もしなくていいわ。お兄ちゃんの意識をこの世界と繋ぐだけで、あとは勝手に創造されていくわ。お兄ちゃんが良いと思ったものは増えて、嫌だと思ったものは増えないわ」
「……」

 何を言っているのか全然分からない。
 分かったのは何もしなくていいという事だけだ。
 ああ、でもエッチな想像は大得意かもしれない。
 俺の頭の中では、女神の黒パンティはとっくに脱がせ終わっている。

「難しい話はここまでにしましょう。まずはあと二回、別の異世界に行ってもらうわ。それで死ななかったら、世界を変えられる『創造主』の力が使えるようになるわ。エッチはそれからにしましょう。じゃあ送るわね」
「……へぇ? ええっ⁉︎」

 エッチな妄想してたら急展開だ。
 本番どころか、パイフェラも無しに別の世界に行かせられる。
 強気に『行かせねえよ!』と行きたいが、ああ、駄目だ。身体が動かない。
 視界が光に包まれていく。和香梅の姿が見えない。意識が消えていく……
 
 ♢

「殺せ殺せ‼︎ 一人も生きて逃すな‼︎」
「ぎゃああああ‼︎」

 雨が降る漆黒の空の下、今まさに一つの王国が滅びようとしている。
 小高い丘に築かれた、王都の石造りの街並みは破壊され、至る所で悲鳴が上がっている。
 兵士、市民関係なく、悲しみの雨音が鳴り止まない。

 黒の革鎧に身を包んだ兵士が、銀の鉄鎧の王国兵士を斬殺していく。
 狼や熊の姿をした魔獣が、家に隠れる市民を噛み殺していく。
 黒革鎧の集団には翼を生やした悪魔もいる。
 革鎧の一団が目指すのはこの国の王城だ。
 その城に一人の男が立て篭っている。

「滅びの道からは誰も逃げられぬか。ならば、全てを滅ぼそう。この国最後の王子として!」

 城門が破壊され、革鎧の集団が城内に雪崩れ込んできた。
 褐色肌の赤髪の王子は時間がないと、召喚の儀式を始めた。

「我が国民達よ、最後の大仕事だ。不甲斐ない私を手伝ってくれ。私もすぐにそちらに向かう。『魔界の強者よ。代価は私の魂とこの国の民の魂全てだ。その代価によって、我が国を滅ぼす者達に滅びを与えよ』」

 血で描かれた巨大な魔法陣に王子は両手をつき、召喚の祈りを捧げ始めた。
 魔法陣の周りにはホタル大の蒼い人魂が無数に浮かび、王子に力を貸している。

 けれども、この召喚の儀式で魔界の強者は現れない。
 魔界の強者が現れる前に、私の力で別の者を召喚する。
 王子の魔法陣を別の魔法陣に書き換えた。

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