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第3章

第93話⑧プロットポイント②

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 いや、今は考えてる暇はない。

『グゥガア!』

 右側の黒狼霊が飛びかかってきた。
 回復術をかけた右拳の底を横っ面に素早く振り回した。

「邪魔だ」
『ギャン……‼︎』

 黒狼霊が壁に向かって飛んでいき、壁にぶつかり、水のように飛び散って消えた。
 さらにもう一匹も飛びかかってきて、半透明な剣を持つ死霊剣士も突き刺してきた。

「もう一度死にたいようだな」

 顎下に下から上に一発、顔に左から右に一発、左右の拳を振り回した。

『ギャン!』『グゴォー!』
「雑魚どもが」

 今は魅了されている超戦士だ。カッコよく倒させてもらった。
 天井に打ち上げられた黒狼霊、壁に飛ばされた死霊剣士がバラバラになって消えていった。
 予想よりも遥かに弱い。これなら何百体でてきても楽勝だ。

「まとめてかかって来なさいよ! 私が全員成仏させてあげるわ!」
「ほぉー、なかなかやるじゃないか」

 階段の手摺りに右腕を乗せて騒がしい階段下を見ると、リラが拳と蹴りを死霊達に振り回していた。
 俺と同じで調子に乗っている。死霊達が次々に殴り蹴り飛ばされている。

『ガァギユユ!』
「ちっ。しぶといわね」

 でも、俺と違って一撃で倒せていない。
 ワーウルフ狼亜人のような獣耳をした死霊を殴り飛ばした。
 けれども、普通に床に着地して素早く再突撃している。

「やれやれ、まだまだだな」

 妹が与えた聖属性の効果が低いのか、リラの攻撃力が低いのか。
 まあ、どっちが原因なのかすぐ分かる。
 リラの攻撃のタイミングに合わせて、ジャストヒールをかけた。

「とりゃ!」
『プガァ……‼︎』
「おおっ! 凄ぉ!」

 殴られた瞬間、獣耳死霊の頭が砕け散った。
 殴った本人が驚くほどの高威力に急成長だ。

「ほら、見てないで行くわよ」
「いや、ちょっと待ってくれ。少し遊んでくる」
「えっ? ちょっと待ちなさい!」

 エルシアが先に進もうと急かしてきたが、断ると階段を下りていく。
 玄関入ってすぐの広間だけでも、死霊達が200体近くいる。
 これだけの数を倒せばかなりのLVアップ間違いなしだ。

 でも、楽に倒したらレベルは上がらない。
 やるとしたら難しい倒し方だ。ここは拳を使うのが一番だ。
 旦那の俺が拳の使い方を教えてやる。

「フンッ!」

 階段の途中だが、手摺りを飛び越え、十五メートル下の床に飛び降りた。
 両足が床に着く瞬間、ウルトラヒールを使い、さらに腰を落として右拳を床につけた。
 痛みと衝撃を和らげて、見事に着地成功させた。

「見てらんねえな」

 そして、キメ顔で言ってみた。

「この野朗ぉー‼︎ 覚悟しなさい‼︎」

 すると、リラが死霊じゃないのに、俺のキメ顔に右拳を振り回してきた。
 これは完全に調子に乗っている。昔の俺じゃないんだ。女のパンチが当たるわけがない。
 左手の手の平で右拳を軽々受け止めると、リラを床に倒した。

「きゃっ!」
「”バインド〟いい覚悟だ。このまま共同作業と行こうか」

 俺一人で充分だが、どうせなら夫婦でLVアップだ。
 手足をピーンと伸ばして、両手首を掴んで水平に持ち上げた。

「”リラソード〟——死にたい奴からかかって来い」
『グガァアアア!』

 夫婦だからこそ許される禁じられたプレイだ。
 人間武器となったリラに回復術をかけて、向かって来る死霊達をバッサバッサと足蹴りで倒していく。
 鍛え上げられた武闘家の切れ味をとくと味わえ。

「きゃああああ‼︎」

 力一杯振り回される武器が悲鳴を上げているが、回復しているから問題ない。
 それにLVも上がれば、身体の強度も上がる。回復術の威力も上がる。
 倒せば倒すほどにリラソードは、その切れ味と輝きを増していく……はずだ。

「うぷっ、もう無理、は、吐きそう……」
「もう充分だな」

 流石にこれ以上は倒す必要はない。両手から武器を床に投げ出した。

「あふっ‼︎ ううううっっ‼︎」

 投げ出した武器が頭を押さえて、床を転げ回っている。
 しばらく使い物にならないが、妻は残り二人もいる。
 でも、LV上げはもう充分だ。さっさとエルシアの元に戻ろう。
 妻を助けたと疑われたら、魅了が解けていると気づかれる。

「あなた、一体何がしたいの?」

 階段を上ると、階段に座って待っていたエルシアが聞いてきた。

「ボスを確実に倒す為のLV上げです。もう充分です。さあ、行きましょう」
「……」

 なんか怪しまれている気がする。それでも構わない。
 エルシアの横を通り抜けて、階段を上っていく。
 案内がなくても、ボスを倒せるのは俺しかいない。
 
 ゴキブリのような平べったい大ナメクジ。
 六本腕の骸骨剣士。壁と床に現れる大量の目。二つの頭を持つ黒狼霊。
 上に向かうほどに現れるモンスターが多少は強くなる。

「なるほど」

 もう案内は必要なさそうだ。エルシアが目指している場所は城の上層階だ。
 階段を見つけては上へ上へと進んでいく。

 とりあえず、追って来る三人が迷子にならないように目印だけは残しておく。
 ちょっと強めに床を踏んだり、壁を殴って壊しておく。
 破壊された道の先に俺がいる。

「ここよ」

 だろうな。予想通りの大扉だ。まさに絵に描いたようなボス部屋だ。
 エルシアに案内されて、銅色の金属扉の前までやって来た。
 この扉を開けたら、もう引き返せない。引き返すつもりもない。
 三人の到着を待たずに扉を開けると、中に入って扉を閉めた。
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