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第3章

第86話⑥ミッドポイント

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「エルシア様……」

 宝石を誰かに拾われる前に拾おうとしたら、エルシア様に拾われてしまった。

「ああ、これは【超魔石】です。大切な物なので私が持っていますね」
「はい、それは構いませんが……」
「では、次の場所に行きましょうか」
「はい、喜んでお供させていただきます」

 俺が倒して手に入れた物だけど、エルシア様が欲しいというのなら仕方ない。
 どこかのお店で売られていたとしても、見て見ぬ振りするしかない。

「超戦士様、お待ちください!」
「どうか、お待ちください!」

 隠しボスを倒したので、エルシア様と一緒に帰ろうとした。
 すると、制服女性三人が走って来て呼び止められた。

「ありがとうございます! お陰で助かりました!」
「別に大した事はしていない。怪我しているなら言ってくれ。俺は僧侶だ。治療できる」

 魔人の一番近くにいたトン爺さんが一番瓦礫をたくさん被っただろうけど、あれはいい。
 治療するなら20代の若くて可愛い制服女性が良いに決まっている。

「あん、私、そういえば逃げる時に足首を捻ったみたいなんですぅ~」
「あっ! 私は何だかこの辺が痛いんですぅ~。テントの中でじっくり診てくれませんか?」
「何が診てくださいよ。そんなの生理痛でしょ」
「ち、違うわよ⁉︎ 変な魔法で動けなくされたからよ⁉︎」
「色仕掛けで玉の輿狙うなんて、相変わらず卑怯な手を使うわね」
「卑怯なのはあんたでしょ! 他人の評価下げないと自分を上げられないクズ女のくせに!」
「はあ⁉︎ クズ女はあんたでしょうか! 男寝とるのが趣味の枕女のくせに!」
「言ったわね! このアバズレ!」

 何だか知らないけど、掴み合いの喧嘩が始まってしまった。
 最初は色っぽい猫撫で声だったのに、今ではオーク豚亜人みたいな声で叫んでいる。
 治療は必要だろうけど、それは喧嘩が終わった後だ。
 それまで待つつもりはないから、治療は回復薬に頼むとしよう。

「流石は重聖騎士様です! 魔人なんて伝説のモンスターですよ! それを簡単に倒すなんて!」

 早く馬車に戻ってご褒美を貰いたいのに、次から次へとやって来る。
 今度は若い冒険者三人組がやって来た。やっぱり魔法剣士がキラキラ瞳で見ている。

「そんな伝説聞いた事がないな。くだらない噂話程度の相手だった」
「あー、やっぱりな。トン爺さんが魔人だって言ってただけだしな」
「もぉー、動けなくなったくせに調子に乗って。本当にありがとうございます。良かったらなんですけど、魔法とか色々教えてくれませんか?」
「おいおい、シズクぅ~。赤い顔で何教えてもらうつもりなんだよ?」
「な、な、なっ、赤くなってないもん!」
「悪いな、次の伝説が俺を待っている。生きて帰れたら、その時に教えてやろう。俺程度に教えられる事があるのならな」
「ありがとうございます! その時の為に頑張ります!」

 ふぅ。終わった。何か知らないけど、モテモテだ。
 初対面の制服女性だけじゃなくて、数回会っただけの魔法使いの少女にも惚れられた気がする。

 もしかすると、これが伝説の【モテ期】というやつなのだろうか。
 どんな男にも人生で一度はモテる時期が訪れるらしい。
 密かに信じていたけど、本当にやって来るとは思ってもみなかった。

 でも、今の俺は真実の愛に目覚めてしまった。どんな女の子の誘いも通り雨だ。
 俺を愛という土砂降りの雨に溺れさせたのはエルシア様だけだ。
 
「次で最後よ。【死霊廃城】——ここのボス【リッチロード死神王】を倒せば終わりよ」
「それはよかったですね。それで、エルシア様……」

 石像モンスターが現れなくなった洞窟を出口を目指して進んでいると、エルシア様が言ってきた。
 何かヤバそうな場所とボスだけど、今はそれよりも大事な事がある。

「何かしら?」
「隠しボスを倒したので、ご褒美を……」

 頑張ったので、頑張ったご褒美が欲しい。
 女を絶って数日、そろそろ聖剣を使わないと別の意味で壊れてしまう。

「ご褒美? もしかして、あの程度の雑魚を倒しただけで、私を抱けると思っているの? 私はそんな安い女だったかしら?」
「と、とんでもない⁉︎ エルシア様はその辺にいる安い女とは違います‼︎ 言ってみただけです‼︎」

 でも、まだ駄目みたいだ。「調子に乗るなよ」という駄犬を見る目で聞き返してきた。

「そう、分かっているならいいわ。さっさと馬車に戻りましょう。死霊廃城は手強い場所だから、一旦家に帰って、あなたの仲間も連れて行きましょう」
「かしこまりました」

 何かがおかしい。大人しく同意してしまったけど、俺はこんな男じゃなかった。
 嫌がられようと泣かれようとエッチしたい男だった。

 それにおかしいと言えば、さっきもだ。
 明らかに制服女性にエッチに誘われていたのに、普通に断ってしまった。
 好きな女の子がいても、デザート感覚で別の女の子も食べちゃう男だった。
 もしかすると、これが恋の病なのだろうか。

「よし、あった」

 馬車に戻ると御者台に座って、家に向かって馬を走らせながら探してみた。
 アイテム鞄の中から取り出したのは【状態異常試験紙】だ。
 これが病なら、これで調べて治せるかもしれない。
 右手に握るとしばらく待ってみた。開いて見ると、黒色とピンク色になっていた。

「やっぱりか。どれどれ……」

 やっぱり病気だった。黒色が【呪い】なのは知っている。
 ピンク色は知らないので、説明書で調べてみた。

【魅了=精神を操る危険な違法魔法です。お近くの教会や薬屋で急いで治療してください】

「…………」
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