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第2章

第30話②インサイティング・イベント

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「これはこれは……」

 ズカズカと人の家の中を歩き回った執事が、寝室にたどり着いてしまった。
 一つのベッドに寝る三人には、寒くないように掛け布団を掛けている。
 だけど、布団の下は裸だ。見られたらマズイ。
 でも、家に入られた時点でもう見られるのは決まっている。
 つまりもうマズイ。

「お嬢様、お迎えに参りました。執事のエドワードです。【ライオネル様】が心配しております。パジャマパーティはお開きにして、すぐにお屋敷にお帰りください」
「へぇっ? パジャマパーティ?」

 執事の口から予想外の言葉が出てきた。もしかすると助かるかもしれない。
 てっきり、誘拐監禁睡眠レイプしか出来ないチキン性犯罪者から、ヨハネを取り返しに来たと思っていた。
 パジャマパーティだと思っているのなら、遠慮なく連れて帰ってくれて構わない。
 ヨハネがいなくなっても、まだ妹と幼馴染がいる。少し布団が寂しくなる程度だ。

「スー……スー……」
「はぁぁ……お嬢様、いつまで寝たふりを続けるつもりですか? クロウリア、メルシー、来なさい!」

 ヨハネが起きないので、執事がため息を吐くと、玄関に向かって二人の名前を呼んだ。
 20秒もせずにメイド服を着た若い女性二人がやってきた。

「お待たせしました。執事長、何かご用でしょうか?」
「ええ、お嬢様が起きないので、起きるお手伝いをしてください」
「かしこまりました」

 うん、終わったね。
 執事に頼まれて、メイド二人がベッドに向かっていく。
 金髪をキリッと左に分けたメイドと、黒髪を肩上で切り揃えているメイドだ。

「ご、ごくり……」

 超ピンチだけど今なら三人しかいない。睡眠魔法で眠らせられるかもしれない。
 でも、パジャマパーティで疲れている事にギリできるかもしれない。
 今は奇跡を信じて見守るしかない。

「失礼します。まあ! これは……」

 掛け布団をちょっとめくった金髪メイドが、布団の中を覗いて驚いている。
 理由は分かっている。三人のダンジョンから聖剣汁が出ているからだ。

「クロウリア、どうしました?」
「それがお嬢様がスッポンポンなのです。それも一緒に寝ている二人もです」
「っ‼︎ 何と破廉恥な! お嬢様、この事は旦那様にしっかりとご報告させていただきます!」

 よし。理由は分からないけど、ヨハネに向かって執事が怒っている。

「連絡も寄越さずに何をしていたかと心配しておりましたが、女遊びとは……淑女がする事ではありません。女性冒険者を仲間したと安心していましたが、まさかこんな事になるとは……」
「執事長、少しお待ちを。お嬢様、いえ、この三人の様子が少し変です」
「変? 変とはどういう風に変なんですか?」

 せっかく良い方向に執事長が勘違いしてくれていたのに、金髪メイドのクロウリアが止めてしまった。
 目蓋を開いたり、脈を測ったりしている。

「これは……魔法の気配がします。何者かに眠らされているのではないですか?」
「何者か……貴様かぁ!」

 やっぱり駄目だった。奇跡は起こらなかった。
 クロウリアを見ていた執事長が、何かに気付いたのか鬼の形相で睨んできた。

「違います! 俺じゃないです! 俺は看病していただけです!」
「あっ、これやってますね」
「ちょっ‼︎」
「最低。スッポンポンでやる看病って何ですか? 教えてくださいよ」

 執事長に向かって誤解を解こうとしているのに、黒髪メイドのメルシーが指で輪を作って、それに指を出し入れしながら報告してきた。
 それはやったけど、眠らせたのは俺じゃない。今は誰が眠らせたのかを話している。
 つまり俺じゃないって事だ。

「本当なんです! 本当に看病していただけなんです! 俺の所為で三人がモンスターの呪いで寝てしまったから、責任を取って、起きるまで看病しようと決めたんです!」
「ほぉーそれはそれは。それが本当の話ならば素晴らしい話ですね。で? そのついでにやっちゃったんですか?」
「だから、やってないですって!」

 絶対に誰も信じてない。クロウリアは軽蔑の視線をハッキリ向けている。
 執事長の方も指で輪を作って、やっている仕草でやっちゃっているのか聞いてくる。
 もちろんやっちゃったけど、それを認めたら死刑だ。
 もちろんやっちゃってないに決まっている。

「はぁぁ……これではラチが明かないですね。いいでしょう。お嬢様を発見したら、屋敷に連れ帰るつもりでした。あなたも連れて行きます。あなたの処置はライオネル様に決めてもらいましょう。クロウリア、メルシー、そこに寝ている二人にも服を着せてください。連れて行きます」
「かしこまりました」「かしこまりました」
「では、行きましょうか」
「は、はい……」

 行くとは言ってないけど、行かないと言える雰囲気じゃない。
 執事長が勝手に脇の下に右腕を通して、腕を組んできた。
 付き合ってもないのに、これはまだ早いと思います。
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