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第1章

第15話⑥ミッドポイント

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「チッ。やっぱり嘘吐いてやがったか。で? 本当は何処にいる。次はその手に隠してる汚いもん潰すぞ」

 駄目だ。本当の事言わないと潰される。
 でも、本当の事言ったら殺される。
 どっちにしても終わる。だったら本当と嘘を混ぜるしかない。
 とにかく時間稼ぎして助かる道を探すしかない。

「A級ダンジョンに置いてきました! だって、一週間経っても出てこないなら、死んだって——」

 問答無用で聖剣がグシャと踏み潰された。

「ゔぎゃあああ!」
「黙れ。それ以上喋ると殺すぞ」
「ぅぅぅ……!」

 痛みでのたうち回りたいのに叫んだら殺される。静かに我慢するしかない。

「どうする、ヨハネ? フィリアの奴、帰ったら重大発表があるとか言ってたよな。それと関係あると思うか」
「さあ。それはそこのゴミに聞いた方が早いんじゃないですか」
「チッ。おい、知ってるなら喋れ。何も知らないなら死ね」

 相変わらず酷い扱いだ。人間扱いじゃなくて、人間の姿をした物扱いだ。
 妹ダンジョンで大人の男になったから、立ち上がって殴りかかりたいけど……
 殴りかかっても一発も当てられずに、本当にゴミ屑みたいに殺されるだけだ。
 何としても半殺し放置ぐらいで許してもらうしかない。

「ぅぅぅ……一人でボス倒して、【特別職】になると言ってました。だから、『付いて来るな』と言われて外で待っていたんです。でも、一週間経っても出てこ——」
「それは聞いた。もう黙れ」

 人が痛みを堪えて喋っているのに、喋れとか黙れとか何様だよ。脳筋武闘家のくせに。
 21歳の大人なんだから、その辺にいる男捕まえてさっさと結婚しろよ。
 その無駄なデカ乳、旦那と赤ん坊に与えてろよ。

 ……とか言いたい。言いたいけど、言ったら死ぬ。
 二人が帰るまで、無様な姿で痛みを我慢し続けるしかない。
 リラに与えられた聖剣の痛みは、妹ダンジョンでたっぷり回復しよう。

「仕方ねえな。迎えに行ってやるか。おい、ゴミ。さっさと服着てダンジョンまで案内しろ。まさか場所忘れたとか言わねえよな?」
「もちろん覚えています!」

 駄目だ。家から帰ってくれるのに、俺まで連れて帰ろうとしている。
 もう俺の人生終わりだ。でも、今逆らったら今終わってしまう。
 ここは大人しく従って、ダンジョンに着く前に逃げるしかない。

「だったら2分やる。それまでに馬車の運転席に座ってろ。遅れたら馬車で引き摺って行くからな。ほら、あと1分40秒しかないぞ」
「くぁぁぁ! ”ヒール〟!」

 両足首と聖剣折られた状態で出来るか。
 1分で何とか足だけでも治療する。
 だけど、

「ぐべぇっ……!」
「なに回復してんだよ! ゴミ!」
「ごめぴぃ……!」

 駄目だったみたいだ。脇腹に蹴りを速攻でブチ込まれた。
 脇腹と背中がつって、もうこれ絶対に間に合わない。
 それなのに追加の一蹴りが腹にブチ込まれた。

「ぐぅぅぅ……!」

 ほらね。やっぱり間に合わなかった。
 輪を作ったロープで首を縛られて、二人が乗ってきた馬車に引き摺られている。
 何とか服を着る事だけは許してもらった。

『ブヒヒン! ブヒヒン!』

 俺が世話している愛馬ならば、ゆっくり走ってくれる。
 それなのに馬鹿馬が俺を絞め殺すつもりで走っている。
 ダンジョンの場所を教えたから、もう俺は用済みだ。
 いつ殺されても不思議じゃない。
 遅かれ早かれこうなる日が来るのは分かっていた。

 僧侶が重宝されるのは初心者パーティだけだ。
 初心者は金が無いから回復薬が買えない。
 だけど、中級パーティぐらいになると金に余裕が出てくる。
 金だけじゃなくて、戦いにも余裕が出てくる。

 戦闘で傷を負う回数が減ると、僧侶の出番はかなり少なくなる。
 それなのに仲間というだけで分け前だけは平等に貰える。
 ただ後ろに付いて来るだけの男……
 それに自分達が命懸けで戦って得た金を渡すべきか……

「ぐぅぅぅ……!」

 それがその答えだ。明らかに首を絞めるロープに殺意しか感じない。
 きっとダンジョンに連れていって、妹がいない時は事故死に見せかけて俺を殺す。
 
 いや、多分妹も俺を殺すつもりだったのだろう。【特別職】になったら俺は完全に用済みになる。
 あのままダンジョンボスを倒していたら、きっと俺は妹に殺されていた。
 重大発表とは、つまり俺の死だ。

「くっ、何としても生きてやる!」

 殺されると分かっているなら、逃げるに決まっている。
 首絞められながらも回復は出来る。
 両足首と聖剣を回復したら、ロープを首から外して逃げてやる。

 そして、妹の事は忘れて、何処かの小さな村でひっそりと暮らそう。
 隠れて暮らす俺を探し出して殺すほど、奴らも暇じゃないと祈りつつ。

「ぐべぇっ……!」

 何か知らんけど、回復しようとした途端にロープが凄い力で締め付けてきた。
 理由は簡単だ。

「テメェー、回復すんなって言ったよな! 次やったら壁に吊るすぞ!」
「ご、ごめぴぃ……!」

 馬車後方の小窓を乱暴に開けて、メスゴリラが死刑宣告してきた。
 
「はぁはぁ、はぁはぁ……!」

 息が出来るって素晴らしい。首が折れる前にロープを緩めてくれた。
 だけど、次やったら息の根止められる。

 そして、脳筋メスゴリラに馬車の中から魔力を探知できるわけがない。
 大魔導師ヨハネの仕業だ。あの女がメスゴリラに密告した。
 氷のような無表情で俺に興味ないフリして、めちゃくちゃある。
 回復するなら、あの氷女が寝ている時にやるしかない。
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