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第2部 第1章 新世界のF級冒険者

第11話 ウィルとバレた浮気

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 MPを消費して羽根が回るように改良した風力発電機を設置した事で、村の畦道に街灯が灯る事になった。これで転落事故は多少は減ってくれるはずだ。村の整備はほとんど終わったと言ってもいい。

 さて、次は何をすればいいんだ?

 机の上に真っ白なノートを広げて僕は考え込んでいた。各地の村や町の食料品が跡形も無く消えていた点を除けば、特に警戒する事案は何もない。収納袋にしまっていた食料品以外の資財のほとんどが、村の周囲を囲むように建てられた城型倉庫の中への移動は終わっている。やる事は子作りしかない事は明白だった。

「くっ…」

 だが、この村に僕に抱かれたい女の子はいないようだ。僕が毎晩のように一人でベッドに寝ていても、誰も気にならないようだ。

『コンコン…コンコン…』

「はい、どうぞ」

 部屋の扉をノックする音が聞こえたので軽く返事をする。今は朝だ。これが夜中だったらテンションマックスで返事しただろう。

「ウィル様、失礼します。お勉強中ですか?」

 真っ白なノートを閉じると回転椅子を回して、扉を開けて入って来たエミリアの方を見る。書類の束しか持っていないから、私的な用事ではないようだ。

「いや、全然違うよ。これからやる事を考えていただけだよ」

「それはちょうど良かったです。私もこれからの村に必要な事を相談したかったんです。座ってもいいですか?」

「もちろん。お菓子も好きなだけ食べていいよ」

 この部屋はマンチェスターのギルド長の部屋をそのまま持って来たような部屋だ。広い部屋に執務机一つに、四人が座れる大きなソファーを三つ置いてある。棚には高級クッキーの箱が山積みになっている。

「ああっ、それは結構です。それはそうとウィル様は、これからどのようにサークス村を発展させて行くつもりですか?」

 そろそろ、この話題からは避けてはいられないか。それにエミリアの好感度は最悪だと言ってもいい。これ以上は嫌われる心配はない。当たって砕けろ! で行くしかない。回転椅子から立ち上がると、エミリアが座っているソファーの対面側に座った。

「やる事は一つしかないよ。僕は人口を増やしたいと思う。エミリアとアシュリーは僕とユンをくっ付けたかったみたいだけど、僕が愛しているのは一人しかいない。それはユンじゃない」

 ジッとエミリアを見る。これで分からない程、彼女が鈍感な女の子なら、思い切って人類の為に僕と結婚してくれとお願いするしかない。

「そうですね。村の食料事情はウィル様が連れて来た猿によって、ある程度は解決しました。子作りも良いと思います。ウィル様からは聞き辛い話題なので、私が皆んなに聞いてみます。それでいいですね?」

「えっ! うううん、良いと思います」

 あれ? 反対されると思ったのに……あっ、なるほど。聞いているフリをして、実際には聞かないのか。はっは、だったら、直接聞くしかないじゃないか。ちょうど本人が目の前にいるんだ。聞くしかない。

「では、これを…」

 エミリアが書類の束を開こうとしている。やっぱり仕事の話をしに来ただけなんだ。

「まだ話は終わっていないよ。エミリアが僕と子作りしてもいいのか知りたい。ずっと前から僕はエミリアに恋愛感情を持っている。どんなに嫌われてもそれは変わらないと思う」

 うん、思った通りの反応だ。まったくの無表情、無感動、僕の好感度は存在しないと言ってもいい。

「それが真実ならば私も嬉しかったと思います」

「嘘じゃないよ! 愛しているのはエミリアだけなんだ!」

 ああ、これだと別れる寸前のカップルの片方が、未練がましく復縁を迫っているようなもんだ。見っともないけど、僕への信頼は地に落ちている。この好きだという気持ちだけで勝負しないといけないんだ。この気持ちが少しでもエミリアに届けば希望はあるはずなんだ。

「では、何故、高級売春宿でお勤めしていたナナリーさんが生き残っているのか説明してほしいものです。ウィル様は大変女遊びがお好きなようで、各町の売春宿にお気に入りの娘がいるようですね」

「そのカードは! 捨てたはずだよ⁉︎」

 エミリアは左腰のポーチから手帳を取り出すと、見覚えのあるスタンプカードをテーブルの上にばら撒いた。これが浮気がバレた時の男の心境なのかもしれない。消えた世界に捨てた物が何故、目の前にあるのかは分からないが、これは非常にマズい。

「ある知り合いの女性が宿屋のゴミ箱に落としていた物を拾ったようで、親切に私に届けてくださいました。ついでにウィル様が留守の間に、ナナリーの行使力の暗示は解除済みです。ナナリー様と大変楽しい夜を過ごしたようですね。もう一度聞かせてくれませんか? ずっと前から誰の事が好きなんですか?」

 ゴクリ。どうする? 土下座は前に一回やったばかりだ。二度も同じ手は通用しない。彼女達とは身体だけの関係で遊びだったと言っても、怒らせるだけだぞ。

「えっ…と、そのぉ~、これはですね…」

 駄目だ、何も言えない。下手な言い訳を言っても殺されるだけだ。

「別に責めている訳じゃありませんよ。それにナナリーさんがウィル様の子作りに喜んで協力してくれるそうです。ユンも普段から良いと言ってくれているので、少なくとはウィル様の夜の仕事はありますよ。頑張ってくださいね」

「うん、嬉しいよ。僕、頑張るよ」

「ええ、頑張ってください。それと私の前で二度と愛とか好きとか言わないでくださいね。吐き気がしますから」

「はい、もう誰も愛しません」

 好きな女性に別の女性を用意されるなんて最悪の気分だ。エッチな本を渡されて、『これで楽しんでください』と言われているようなもんだぞ。ああ、二人に手を出したら本当にエミリアとは終わりになってしまう。それでも、僕の生殖本能が現実を早く受け入れて、仕事をさせろと訴えている。

「では、子作りの話は終わりです。ウィル様にはこれからは古代遺跡の調査をお願いしたいと思います」

「これは侯爵様が遺した依頼票だよね? 前の世界のものだから、もう達成する事は不可能だよ」

 エミリアは書類の束を一枚一枚捲っていく。書類の束は侯爵様が遺した高難度の依頼票だった。今の僕なら余裕で達成する事が出来そうだけど、あの世界はもう消えている。もう絶対に達成不可能な依頼になってしまった。

「ええ、その通りです。依頼の達成報酬は貰えませんし、討伐する魔物も消えているでしょう。だからこそ、やるべきなんです。今なら魔物が居ないダンジョンの隅々まで調べる事が出来ます。賢者の壺や透明マントは遺跡から発見された物です。強力な魔法具を安全に入手できるのなら、やるべき仕事ではありませんか?」

 確かに面白そうな仕事だけど、今聞いても、『目障りだから村から消えて』と言われているようにしか聞こえない。子作りの話なんかしなければよかった。

 
 

 

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