9 / 175
第1章 解雇されたF級冒険者
第9話 ウィルと名探偵
しおりを挟む
「遅かったな? 何かあったのか?」
山道の北側出入り口でのんびりと御者二人と冒険者四人が休憩して待っていた。先頭馬車の赤毛の若い御者が遅かった理由を聞いてきた。
「何言ってんだよ! お前、魔物を見逃しただろう! こっちはまた襲われたんだぞ!」
若い御者が馬車から飛び下りると、先頭馬車に乗っていた同年代の若い御者二人に掴み掛かって行った。そういえば、昨日はこの若い御者が先頭の馬車を操縦していたので、二日連続で魔物に襲われている事になる。この若い御者が魔物に襲われた原因かもしれない。
「俺達の所為じゃねぇよ! それに交代しようって言ったのはお前だろう! 先頭は俺達だったんだ。普通、最初に襲われるなら俺達だろう。お前が弱そうだから襲われたんだよ!」
「何だよ! 俺が弱いって言うのかよ! だったら掛かって来いよ! ブッ飛ばしてやる!」
二人の御者の殴り合いが始まったが、残りの御者二人は止めようとしない。チラッと冒険者四人を見たが、止めるつもりはないようだ。見た所、二人は互角の勝負を繰り広げている。だとしたら、御者を見て、襲う馬車を決めた訳じゃないようだ。
御者が言う通り、確かに魔物も弱い方を襲いたいと思う。四人の御者の強さが同じならば、荷台に乗っていた冒険者を比べたのだろうか?
幌で中は見えないものの、魔物の第六感が働いて危険を察知した可能性もある。でも、相手は魔物の中で知能が低い方のマンキーである。その可能性は薄い。
「おいおい、そろそろ止めようぜ。どっちも同じぐらいの強さだよ」
「ひぃぃ‼︎」
黒い口髭を生やした冒険者が、二人の間に割り込んで、首根っこを掴んで無理やり喧嘩を止めてしまった。成人している二人の大の男を片手でぶら下げてしまうのだ。少なくともレベル20は超えないと出来ない芸当である。
このまま原因をハッキリさせないままだと、御者達の雰囲気が悪い。それにこの四人の冒険者は原因を御者に教えるつもりはないようだ。とりあえず納得出来そうな答えを自分が言う事にした。
「すみません。多分なんですけど、おそらくは先頭の馬車を見て襲おうと思ったマンキーが仲間を呼びに行ったのではないでしょうか?」
「おっ、なんだ? 兄さんは分かるのか?」
御者と冒険者の間に話しながら入っていく。歳上の冒険者相手に若造が得意げに話すのは少々気が引けるものの、彼らが黙っているのは、その若造達に自分で考える力を身につけさせたいからかもしれない。
「ええっ。ご存知の通り、マンキーは足が遅いです。仲間を集めている間に先頭の馬車はどんどん進んで行きます。十分な数を集めて、いざ襲おうとした時には、もう襲おうとしていた馬車は何処にもいません。そこにもう一台の後続の馬車が遅れて来たという事です」
「ほら! だったら、やっぱりお前が悪いんじゃねぇか! 欲かいて、空いた荷台に荷物を沢山積もうとするからだよ!」
「くっ!」
後続の若い御者は反論できずに悔しそうに顔をしかめた。確かに先頭の馬車と距離が開いていたのが問題である。キチンと隊列を組んで進んでいれば、襲われる事もなかったし、万が一、襲って来ても五人の冒険者で楽に追い払う事も出来ただろう。
「なるほど、なるほど。そういう答えもあるな。他には無いのか?」
口髭の男は少しは納得しているものの、他の答えを御者を含めた若造四人に聞いてきた。考えられる全ての答えを出させたいようだ。
「えっ~と、荷物の中身とかじゃないのか? そっちには酒瓶を積んでいただろう」
「魔物に酒の味が分かるのかよ?」
「じゃあ、ネロさんだ! この四人の中で一番老けてるだろう!」
「おいおい、俺はまだ三十二だ。テメェーらとは一回りしか歳は違わねぇよ」
「絶対それですよ。あっはは、おっさんだから弱いと思われたんですよ」
少し歳上の御者が仲間の若い御者三人に揶揄われている。確かにこの帽子の御者は若いというよりも、ベテランという印象が強い。だが、魔物が年齢や見た目で襲う相手を判断するとは思えない。現に、こっちの冒険者四人は少なくとも40代ぐらいに見える。
「もしかして、最初から一番最後尾の馬車を狙うつもりだったとか?」
フッと、そんなあり得なさそうな答えが出てしまった。でも、そう考えるとある程度の辻褄が合ってしまう。
「ほぉ~、どうしてそう思う?」
口髭の男が聞いてきた。呟く程度の声量だったのに聞こえてしまったようだ。とりあえず、御者達はまた喧嘩を始めたので、落ち着くまで時間がかかるはずだ。例え間違った答えでも、先輩冒険者の貴重な指摘を聞く事は出来る。
山道の北側出入り口でのんびりと御者二人と冒険者四人が休憩して待っていた。先頭馬車の赤毛の若い御者が遅かった理由を聞いてきた。
「何言ってんだよ! お前、魔物を見逃しただろう! こっちはまた襲われたんだぞ!」
若い御者が馬車から飛び下りると、先頭馬車に乗っていた同年代の若い御者二人に掴み掛かって行った。そういえば、昨日はこの若い御者が先頭の馬車を操縦していたので、二日連続で魔物に襲われている事になる。この若い御者が魔物に襲われた原因かもしれない。
「俺達の所為じゃねぇよ! それに交代しようって言ったのはお前だろう! 先頭は俺達だったんだ。普通、最初に襲われるなら俺達だろう。お前が弱そうだから襲われたんだよ!」
「何だよ! 俺が弱いって言うのかよ! だったら掛かって来いよ! ブッ飛ばしてやる!」
二人の御者の殴り合いが始まったが、残りの御者二人は止めようとしない。チラッと冒険者四人を見たが、止めるつもりはないようだ。見た所、二人は互角の勝負を繰り広げている。だとしたら、御者を見て、襲う馬車を決めた訳じゃないようだ。
御者が言う通り、確かに魔物も弱い方を襲いたいと思う。四人の御者の強さが同じならば、荷台に乗っていた冒険者を比べたのだろうか?
幌で中は見えないものの、魔物の第六感が働いて危険を察知した可能性もある。でも、相手は魔物の中で知能が低い方のマンキーである。その可能性は薄い。
「おいおい、そろそろ止めようぜ。どっちも同じぐらいの強さだよ」
「ひぃぃ‼︎」
黒い口髭を生やした冒険者が、二人の間に割り込んで、首根っこを掴んで無理やり喧嘩を止めてしまった。成人している二人の大の男を片手でぶら下げてしまうのだ。少なくともレベル20は超えないと出来ない芸当である。
このまま原因をハッキリさせないままだと、御者達の雰囲気が悪い。それにこの四人の冒険者は原因を御者に教えるつもりはないようだ。とりあえず納得出来そうな答えを自分が言う事にした。
「すみません。多分なんですけど、おそらくは先頭の馬車を見て襲おうと思ったマンキーが仲間を呼びに行ったのではないでしょうか?」
「おっ、なんだ? 兄さんは分かるのか?」
御者と冒険者の間に話しながら入っていく。歳上の冒険者相手に若造が得意げに話すのは少々気が引けるものの、彼らが黙っているのは、その若造達に自分で考える力を身につけさせたいからかもしれない。
「ええっ。ご存知の通り、マンキーは足が遅いです。仲間を集めている間に先頭の馬車はどんどん進んで行きます。十分な数を集めて、いざ襲おうとした時には、もう襲おうとしていた馬車は何処にもいません。そこにもう一台の後続の馬車が遅れて来たという事です」
「ほら! だったら、やっぱりお前が悪いんじゃねぇか! 欲かいて、空いた荷台に荷物を沢山積もうとするからだよ!」
「くっ!」
後続の若い御者は反論できずに悔しそうに顔をしかめた。確かに先頭の馬車と距離が開いていたのが問題である。キチンと隊列を組んで進んでいれば、襲われる事もなかったし、万が一、襲って来ても五人の冒険者で楽に追い払う事も出来ただろう。
「なるほど、なるほど。そういう答えもあるな。他には無いのか?」
口髭の男は少しは納得しているものの、他の答えを御者を含めた若造四人に聞いてきた。考えられる全ての答えを出させたいようだ。
「えっ~と、荷物の中身とかじゃないのか? そっちには酒瓶を積んでいただろう」
「魔物に酒の味が分かるのかよ?」
「じゃあ、ネロさんだ! この四人の中で一番老けてるだろう!」
「おいおい、俺はまだ三十二だ。テメェーらとは一回りしか歳は違わねぇよ」
「絶対それですよ。あっはは、おっさんだから弱いと思われたんですよ」
少し歳上の御者が仲間の若い御者三人に揶揄われている。確かにこの帽子の御者は若いというよりも、ベテランという印象が強い。だが、魔物が年齢や見た目で襲う相手を判断するとは思えない。現に、こっちの冒険者四人は少なくとも40代ぐらいに見える。
「もしかして、最初から一番最後尾の馬車を狙うつもりだったとか?」
フッと、そんなあり得なさそうな答えが出てしまった。でも、そう考えるとある程度の辻褄が合ってしまう。
「ほぉ~、どうしてそう思う?」
口髭の男が聞いてきた。呟く程度の声量だったのに聞こえてしまったようだ。とりあえず、御者達はまた喧嘩を始めたので、落ち着くまで時間がかかるはずだ。例え間違った答えでも、先輩冒険者の貴重な指摘を聞く事は出来る。
0
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説
とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~
こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。
召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。
美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。
そして美少女を懐柔しようとするが……
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです
かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。
そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。
とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする?
パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。
そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。
目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。
とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。
他人の人生押し付けられたけど自由に生きます
鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』
開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。
よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。
※注意事項※
幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる