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第1章 解雇されたF級冒険者

第9話 ウィルと名探偵

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「遅かったな? 何かあったのか?」

 山道の北側出入り口でのんびりと御者二人と冒険者四人が休憩して待っていた。先頭馬車の赤毛の若い御者が遅かった理由を聞いてきた。

「何言ってんだよ! お前、魔物を見逃しただろう! こっちはまた襲われたんだぞ!」

 若い御者が馬車から飛び下りると、先頭馬車に乗っていた同年代の若い御者二人に掴み掛かって行った。そういえば、昨日はこの若い御者が先頭の馬車を操縦していたので、二日連続で魔物に襲われている事になる。この若い御者が魔物に襲われた原因かもしれない。

「俺達の所為じゃねぇよ! それに交代しようって言ったのはお前だろう! 先頭は俺達だったんだ。普通、最初に襲われるなら俺達だろう。お前が弱そうだから襲われたんだよ!」
「何だよ! 俺が弱いって言うのかよ! だったら掛かって来いよ! ブッ飛ばしてやる!」

 二人の御者の殴り合いが始まったが、残りの御者二人は止めようとしない。チラッと冒険者四人を見たが、止めるつもりはないようだ。見た所、二人は互角の勝負を繰り広げている。だとしたら、御者を見て、襲う馬車を決めた訳じゃないようだ。

 御者が言う通り、確かに魔物も弱い方を襲いたいと思う。四人の御者の強さが同じならば、荷台に乗っていた冒険者を比べたのだろうか?

 幌で中は見えないものの、魔物の第六感が働いて危険を察知した可能性もある。でも、相手は魔物の中で知能が低い方のマンキーである。その可能性は薄い。

「おいおい、そろそろ止めようぜ。どっちも同じぐらいの強さだよ」
「ひぃぃ‼︎」

 黒い口髭を生やした冒険者が、二人の間に割り込んで、首根っこを掴んで無理やり喧嘩を止めてしまった。成人している二人の大の男を片手でぶら下げてしまうのだ。少なくともレベル20は超えないと出来ない芸当である。

 このまま原因をハッキリさせないままだと、御者達の雰囲気が悪い。それにこの四人の冒険者は原因を御者に教えるつもりはないようだ。とりあえず納得出来そうな答えを自分が言う事にした。

「すみません。多分なんですけど、おそらくは先頭の馬車を見て襲おうと思ったマンキーが仲間を呼びに行ったのではないでしょうか?」
「おっ、なんだ? 兄さんは分かるのか?」

 御者と冒険者の間に話しながら入っていく。歳上の冒険者相手に若造が得意げに話すのは少々気が引けるものの、彼らが黙っているのは、その若造達に自分で考える力を身につけさせたいからかもしれない。

「ええっ。ご存知の通り、マンキーは足が遅いです。仲間を集めている間に先頭の馬車はどんどん進んで行きます。十分な数を集めて、いざ襲おうとした時には、もう襲おうとしていた馬車は何処にもいません。そこにもう一台の後続の馬車が遅れて来たという事です」
「ほら! だったら、やっぱりお前が悪いんじゃねぇか! 欲かいて、空いた荷台に荷物を沢山積もうとするからだよ!」
「くっ!」

 後続の若い御者は反論できずに悔しそうに顔をしかめた。確かに先頭の馬車と距離が開いていたのが問題である。キチンと隊列を組んで進んでいれば、襲われる事もなかったし、万が一、襲って来ても五人の冒険者で楽に追い払う事も出来ただろう。

「なるほど、なるほど。そういう答えもあるな。他には無いのか?」

 口髭の男は少しは納得しているものの、他の答えを御者を含めた若造四人に聞いてきた。考えられる全ての答えを出させたいようだ。

「えっ~と、荷物の中身とかじゃないのか? そっちには酒瓶を積んでいただろう」
「魔物に酒の味が分かるのかよ?」
「じゃあ、ネロさんだ! この四人の中で一番老けてるだろう!」
「おいおい、俺はまだ三十二だ。テメェーらとは一回りしか歳は違わねぇよ」
「絶対それですよ。あっはは、おっさんだから弱いと思われたんですよ」

 少し歳上の御者が仲間の若い御者三人に揶揄われている。確かにこの帽子の御者は若いというよりも、ベテランという印象が強い。だが、魔物が年齢や見た目で襲う相手を判断するとは思えない。現に、こっちの冒険者四人は少なくとも40代ぐらいに見える。

「もしかして、最初から一番最後尾の馬車を狙うつもりだったとか?」

 フッと、そんなあり得なさそうな答えが出てしまった。でも、そう考えるとある程度の辻褄が合ってしまう。

「ほぉ~、どうしてそう思う?」

 口髭の男が聞いてきた。呟く程度の声量だったのに聞こえてしまったようだ。とりあえず、御者達はまた喧嘩を始めたので、落ち着くまで時間がかかるはずだ。例え間違った答えでも、先輩冒険者の貴重な指摘を聞く事は出来る。
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