上 下
4 / 9

第4話

しおりを挟む
「路地裏に逃げ込んだぞ! 追え追え!」
「絶対に逃すな! 逃すんじゃないぞ!」

 四次元鞄に詰め込んだ荷物を持って、路地裏を騎士団員から歩いて逃げ回る。
 こうなるとは思っていたけど、予想よりも手配が早くて驚いた。
 借りていた家は見事に荒らされていた。
 犬にベッドの匂いを嗅がせて、男の騎士団員達が下品な笑みでタンスの下着を嗅いでいた。
 絶対に覚えなくていい匂いだと思う。

 今は犬も含めて全員、床に笑えない状態で倒れている。
 服も下着もキチンと全部回収したし、変態達には罰を与えておいた。
 こうなると分かっていたら、近所の婆さんの下着を盗んでタンスに放り込んでおくんだった。

「こっちにいたぞ! 女のくせになんて逃げ足が速いんだ!」
「ガウッ! ガウッ!」

 騎士団員と犬が必死に走って追いかけてくるけど、私は歩いて逃げているだけだ。
 両足には青緑色の革靴『歩王の靴』を履いている。
 これは昔『歩く』という呪われたスキルを授かって、歩くしか出来なくなった男が必死にスキルを鍛えて、目に見える直線距離を一歩で瞬間移動できるようになったという……まあ、その男が履いていた靴で呪われた靴だ。履くだけで同じ事が出来るようになる。
 でも、壁は通り抜けられないので、建物の中や建物の多い町中で使うのはちょっと難しいぞ。

「オエエエエエッッ……も、もう無理だ!」

 全力疾走で早くも騎士団員が倒れてしまった。私はまだまだ余裕だ。
 さて、なぜ私がこんなに国宝に詳しいかというと宝物庫に説明書があったからだ。
 王子に誘われて宝物庫の国宝を見に行ったんだけど、その後に肉体関係を迫られて、第35聖女だという噂話も聞いてしまった。もう見るだけでは終われない。
 路地裏で調教したばかりの白黒猫とたっぷり調教した猫達を使って、国宝を盗ませてもらった。
 今まで傷つけた偽聖女達と私の分まで、私がたっぷり慰謝料を貰ってやることにした。

「そこまでだ、偽聖女! もう逃げ場はないぞ!」

 前方の道を騎士団員が両手を広げて通せんぼしてきた。
 これが兵士達の勝利宣言か決め台詞なのか知らないけど、私にとっては敗北宣言だ。

「なっ、消えた⁉︎」
 
 歩王の靴で騎士団員の後方に瞬間移動すると、右手に持った『妖精王の魔法針』を兵士の首にプスッと刺した。

「はううううん!」

 騎士団員が尻を浣腸されたみたいにピーンと背筋と両腕を伸ばすと、その体勢のまま地面に倒れた。
 安心してください。あなたは下着の匂いを嗅いでないので、睡眠針にして刺してあげました。

「グゥグゥ……グゥグゥ……」

 日頃の疲れを癒す為にゆっくりお休みください。倒れた騎士団員に聖女の祈りを捧げた。
 妖精王の魔法針は先の尖った木の棒だ。その効果は生物に対して有効で——今みたいに安らかに眠らせることも、全身麻痺状態にして動けなくしてから、さらに全身に痒みを与える地獄を与えることも出来る、天使にも悪魔にもなる針だ。

 説明書に書かれた主な使用方法は『睡眠』『麻痺』『毒』『肉体強化・弱化』『自然治癒力強化・弱化』と……戦闘のサポート重視の国宝だ。
 国の危機を救うという重圧に睡眠不足になった聖女とその仲間の為に強制睡眠を与える快眠グッズなのだが、夜中に私の部屋に王子が忍び込んだ時に持っていた針もこれだ。
 聖女と寝るという欲望で睡眠不足になっているのなら、王子は自分を一刺しすればいいと思ったのもこれだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて

青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。 両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。 妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して…… ゆるふわ設定ご都合主義です。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...