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第三十七話★ 無実の証明

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「早く見つけて帰ってね」

 警戒しながらも麻未は家の中に入れてくれた。財布を落としたみたいだから探させて欲しいとお願いした。
 もちろん、そんな馬鹿な手で警戒している女性が家に入れてくれないのは分かっている。当然のように、「自分で探すから玄関の前で待っていて」と言って、家の中に入れるのを断った。
 けれども、「美聡に盗まれたみたいなんだ」と言えば、状況は大きく変わった。この時、『盗まれたかもしれない』と曖昧な表現を使うと心理的なプレッシャーが軽減されてしまう。インターホンの画面越しにスマホを取り出して、警察を呼ぼうとする前に、麻未は家の中に慌てて入れてくれた。

「おかしいな? いや、でも……」

 トイレやリビング、洗濯機の中、風呂場や美聡のベッドの中を探した。けれども、どこにも財布は見つからなかった。見つからなくても当然だ。私は財布を持っていない。麻未の監視付きで必死に探しているフリをすればいいだけだ。

「本当にここで無くしたの? エレベーターとか道に落ちてなかったか探して見たの?」
「そこはもちろん探したよ。しばらく探して見つからなかったから、ここに来たんだから。この部屋にも無いなら、探していないのは……麻未さんの部屋と、会社に行った美聡さんぐらいなんだけど……」
「嫌よ! 私は盗んでいないのに部屋を見せるつもりはないから……本当は自分でどこかに落としたんじゃないの? 私達を疑う前に、もう一度、キチンと探して来た方がいいんじゃないの!」

 チラッと麻未を見ながら、僅かな疑いの視線を向けると過敏な反応を見せた。麻未は自分が犯人じゃないと分かっている。犯人じゃないのに犯人呼ばわりされたら、誰だって怒るのは当然だ。
 それに部屋の中を私に好き勝手に探させるのは相当に嫌な事だと思う。追い詰められた麻未が取る行動は単純明快なものだ。美聡に電話で連絡して、財布を盗んでいないか確認しようとするはずだ。そして、実際に電話しようとしたので、携帯電話を取り上げた。

「ちょ、ちょっと⁉︎ 返してよ! 大声出して人を呼ぶわよ! なんで美聡に連絡させないのよ!」

 これで第三者との連絡手段は奪えた。私が持っている二台のスマホはツールとしての機能しか残っていない。なので、奪われても誰かに連絡する事は出来ない。警察と美聡の二人には絶対に連絡させるつもりはない。主導権は私か麻未の二人のうち、どちらかでないといけない。第三者の介入は絶対にNGだ。
 
「少し落ち着いて、美聡さんに連絡させないのは当たり前だよ。犯人かもしれない人に、金を盗んだか聞くなんて、盗んだのがバレたから、上手く隠すように伝えているようなものじゃないか。もしかして、美聡さんに連絡しようとするなんて、麻未さんもグルなんですか?」
「んんっ……だから、私は財布なんて本当に知らないの……本当に美聡が盗んでいたとしたら、悪いとは思うけど、私は財布なんて知らないの」

 今にも麻未は泣き出しそうだ。自分が犯人ではない事は知っている。でも、金を貰って、その日に男とセックスする美聡が財布を盗んでいないとは信じ切れないようだ。あとはその信じられない気持ちを膨らませて、自分の無実を証明させればいいだけになる。

「美聡さんと私が朝一緒にお風呂に入っている時に、麻未さんが財布を盗んだんじゃないんですか? だから、部屋を見せられないんじゃないんですか?」
「本当に私は知らないの。私の部屋には絶対にないの。美聡の会社を教えるから美聡に直接聞いてください」

 その会社に辿り着く前に、麻未によって美聡に連絡されるだけだ。一人で行くつもりはない。一緒に付いて行くと言ってくれるならば好都合だ。けれども、それだと部屋を調べられない。まあ、それでも部屋を調べられたくない理由があるのかと、問い詰めれば問題はない。結局は部屋の中を見せないと疑いを晴らす事は出来ないのだ。

「違うと言うなら見せてください。見せられないなら警察に連絡して、麻未さんの部屋と会社にいる美聡さんの持ち物を調べてもらいます。私もあまり大事おおごとにはしたくないんです。麻未さんの部屋を調べて何も見つからなかったら、もう諦めますから」
「……分かりました。何もないですけど、好きに探してください。それで気が済むなら……」

 見せたくないという必死の抵抗も終わったようだ。まるで、どうでもいいというような投げやりな態度で、私が部屋を調べる事に同意してくれた。麻未が部屋の扉を開けると、私は麻未と一緒に部屋の中に入った。

 
 
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