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後編・前

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「ちょっと母さん! アイツに風呂を覗いた! しかも、一緒に入るとか言い出すんだぜ! どうにかしてくれよ!」

 急いで風呂から出ると、リビングのソファーに寝転んで、テレビを見ていた母親に苦情を言った。アイツには羞恥心というものが欠けている。

「別にいいでしょう。減るもんじゃないんだから」

「何だよ、それ! じゃあ、俺が母さんや胡桃の風呂を覗いてもいいのかよ!」

 母親なのに息子の苦情にキチンと対応しない。俺を一切見ずにテレビ画面に集中している。俺はこんなに怒っているのに。

「私は別にいいわよ。あんたにそんな度胸があるならね。でも、胡桃の風呂を覗いたら変態病院に入院してもらうわよ」

「うぐっ……」

 ……頼まれたって、四十ピィー歳の母親の裸なんて覗くか!
 こんなの絶対におかしい。俺がルイーズの風呂を覗いたら、絶対にボコボコの袋叩きにされる。

「樹、さっきも言ったでしょう。仲良くしないならお小遣い無しよ。ちょっと裸を見られたからって、あんたはオーバー過ぎるのよ」

 母さんは被害者の俺に対して、さらに罰を与えると脅してきた。ルイーズが男で胡桃の裸を覗いたら絶対に家から追い出している。俺は普通に男女平等を望んでいるだけだ。

「母さんがそういう態度なら、俺はこれから家では全裸で生活するからな。チンチン見せて歩き回るからな! それでもいいんだよな!」

「駄目に決まっているでしょう! 見つけたら蹴り潰すわよ!」

「ひぃぃ!」
 
 さっきまで母さんはヘラヘラと笑って聞いていたのに、急にテレビから目を離して、本気で怒鳴ってきた。裸の俺を見つけたら、本気でゴキブリのように息子の息子を蹴り潰すつもりだ。

「はいはい、話は終わりよ。次に馬鹿な事を言ってきたら、本当にお小遣い無しにして、携帯電話も取り上げるわよ。風呂を覗かれたくないなら、あんたがルーちゃんにキチンと説明しなさい」

 ……くそぉ、なんて母親だ。親の顔が見たいぜ。
 パンパンと手を叩くと、母さんは息子の相談を強制終了させて、手で邪魔だと追い払った。頼まれたって、もう相談なんてしない。

「あっ……」

 リビングから出ると、廊下に風呂上りのルイーズが立っていた。立ち聞きしていたようだ。
 髪が濡れていて、服も寝巻きなのか生地が薄い服に変わっている。半袖半ズボンから張りのある健康的な白い肌が見えて、思春期の男子高校生には目に毒だ。

「イツキ、ごめんなさいでぇす」

「……別にいいよ。次からは気を付けろよ」

 ちょっと落ち込んだ表情をしている。少しは反省しているみたいだから、母さんの言う通りに今回は許してやるしかない。

「ちょっと待って欲しいでぇす。ちょっとだけ話したいでぇす。私の部屋に来て欲しいでぇす」

「……分かったよ。ちょうど俺も話したい事があるからな」

 二階に上がろとする俺の服を軽く指で摘んで、ルイーズが引き止めた。面倒くさいけど、お互い言いたい事は早く言った方がいい。ルイーズの部屋は一階にあるので、そのまま付いていった。
 部屋に入ると布団と段ボールの山しかなかった。学校から早めに帰って来れたら、少しは片付けられたはずだ。畳の床に座るとルイーズが話し始めた。

「さっきは本当にごめんなさいでぇす。許婚なら良いと思ったでぇす」

「別にいいよ。それよりも何だよ、許婚って? 何を言い間違えたら、そうなるんだよ」

 ふつつかものを二日酔い者と言ってしまうぐらいだ。許婚も何かの言い間違いだと思った。だけど、そうじゃないみたいだ。

「ノー。許婚で合っていまぁす。責任を持って、イツキのお嫁さんになりまぁす」

「はぁ? まさか、俺の裸を見たから許婚になるつもりならいいからな。むしろ、迷惑だ」

 日本の変な漫画かアニメの知識で、勝手に許婚になられるのは迷惑だ。

「ノー! 違いまぁす! 子供の時にイツキに迷惑をかけたので、その責任に許婚になったんでぇす。煮るなりやるなり好きにしてくださぁい!」

「お、おい……」

 意味不明な事を言って、ルイーズはポフッと畳んでいる布団の上に大の字に寝っ転がった。この場合の煮るなりやるなり、いや、焼くなりは、あれを意味していると思う。
 だが、母親がすぐ近くのリビングにいるのに、馬鹿な事をする馬鹿はいない。特に外人女とは絶対にノーセンキューだ。俺が襲った事にされて家から変態病院に追放される。

「子供の頃の責任て何だよ? 俺はお前に迷惑かけられた記憶なんてないぞ。むしろ、今現在、迷惑をかけられている方だ」

「んんっ? イツキは覚えてないんですかぁ? イツキが小学生二年生の時に、フランスで迷子になった時に、私と会ったじゃないですかぁ。私の家にも三日も泊まったはずですよぉ」

 ルイーズが起き上がると俺を真っ直ぐに見て、子供の時に会ったと主張する。前世じゃないだけマシだけど……。

「フランス、小学生二年生、三日……あ、あ、あっ、まさか⁉︎ お前、あ、あの時の……!」

 目の前の金髪と青色の瞳をじっと見て、封印した記憶を思い出そうとしてみた。ズキズキと痛む頭の先にある記憶の扉を無理矢理に開けると、あの封印した忌々しい悪夢のような三日間が蘇った。
 ブルブルと身体の震えが止まらない。髪は短くなっているけど、この女は確かにあの時の女だ!

 ♢

 注意! 作者はフランス語が得意じゃないです。『』はフランス語の日本語訳だと思ってください。

 九年前のフランス旅行。

「ここ何処? パパ、ママ、どこ?」

 旅行先の大きな街で迷子になってしまった。金色の髪の大きな身体の人達が話している言葉が分からない。誰に助けを求めればいいのか分からない。

『どうしたんですか? もしかして迷子ですか?』

「わわわっ! ノーノー大丈夫デス!」

 金色の長い髪の女の子が話しかけてきた。何を言っているのか分からない。怖いから急いで断った。

『んんっ? 言葉が分かりません。きっと外国の迷子ですね! パパの所に案内してあげます!』

「やめて離して! 助けてぇ! パパ、ママ、助けてぇ!」

『あっははは。怖がらなくても大丈夫です! 私に付いて来てください!』

 女の子に強引に腕を掴まれると、僕を何処かに連れて行こうとする。周りの大人達に助けを求めているのに、誰も助けてくれない。女の子と一緒に笑っている。
 ……怖い、怖い、怖い! パパ、ママ、助けてぇ!
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