上 下
4 / 6

中編・後

しおりを挟む
「おい、本当にこの場所がホームステイ先なのか?」

 奪い取った携帯電話のマップを指差して聞いた。この住所の場所は俺の家だ。

「イツキはエッチでぇす! 私のことが好きでも、私にはもう心に決めている人がいるんですねぇ! 家が分かっても、心までは奪えないんですよぉ!」

 ……何を言っているのかさっぱり分からん。奪うつもりはこれっぽっちもない。
 このままじゃ話が進まないので、鞄で胸を守っているルイーズに携帯電話を返した。確かに胸は大きい方が好きだけど、誰でもいいわけじゃない。

「とりあえず付いて来いよ。その家ならよく知っているから」

「本当ですかぁ? 変な所に連れ込もうとしたら大声出しますよぉ?」

「あぁ、それでいいから付いて来いよ」

 異常に面倒くさい。俺が外人なんて好きになるわけない。どんなに似ていても、中国人も韓国人も外人だ。外人なんて宇宙人と一緒だ。

「日本の家は個性がないから皆んな一緒に見えまぁす。学校の皆んなも同じ制服を着ているから、誰が誰なのかチンプンカンプンでぇす」

 ……外人だって、わざわざ金髪に染めている奴がいる癖に文句言うなよ。
 俺の後ろをルイーズは付いて来るけど、口から出るのは日本の悪口ばかりだ。

「ほら、ここだ。本当にここで間違いないのか?」

「ふぅー、やれやれでぇす。それが分かっていたら道に迷いませんよぉ」

「このぉ……!」

 ルイーズに二階建ての俺の家を指差して聞いた。そしたら、首を左右に振って呆れられた。あのまま道の真ん中に放置するのが正解だった。

「チッ。母さんに聞いてくるから、お前は外で待ってろよ」

「はぁーい。頑張ってくださぁい」

 ルイーズを玄関前に待たせる事にした。変な所に連れ込まれたくない、と本人が言ってたから文句はないだろう。そもそも俺はホームステイなんて一言も聞いてない。

 ガチャ……

「あっ……はぁぁ、なんだ、お兄ちゃんか」

「お兄ちゃんで悪かったな」

 玄関扉を開けると妹の胡桃くるみが緑色の制服姿で目の前に立っていた。俺の顔を見た瞬間にガッカリしている。中学一年生で今日が入学式だったから、母さんは胡桃の学校に付いて行った。
 まぁ、可愛い妹と可愛くない兄のどちらの学校に行くか。それは選ぶ必要もないだろう。お陰で放置された俺が遅刻しそうになった。
 
「それよりも母さんにホームステイの話とか聞いてないか? この家がホームステイ先だと言う奴が外にいるんだよ」

 黒色のセミロングヘアを耳の位置で結んで、ツインテールヘアにしている生意気な顔の妹に聞いた。今日、母さんと一緒にいたなら何か聞いているはずだ。

「えっ! もぉー、それを早く言ってよ! お兄ちゃん、邪魔!」

 ドガァ……

「あぐっ、このぉ……!」

 俺の予想は当たっていたようだ。俺を突き飛ばすと胡桃は外に出て行った。すぐに「きゃあ、きゃあ」と外から胡桃のはしゃぐ声が聞こえてきた。

「私、ずっとお姉ちゃんが欲しかったんです! 狭い家ですけど、自分の家だと思って遠慮なく使ってくださいねぇ!」

「はぁーい! よよしくでぇす! 私も一人っ子だから可愛い妹が欲しかったでぇす!」

 靴を脱いで待っていると、今まで見た事がない満面の笑みで、胡桃がルイーズの手を握って戻ってきた。二人は俺を無視して一階のリビングに入っていった。

「靴ぐらい、キチンと揃えろよ……」

 二人に文句を言いながらも、脱ぎ散らかされた二人の靴を綺麗に揃えておいた。そして、洗面所でうがいと手洗いをして、二階の自分の部屋に鞄を置いて、制服から私服に着替えた。
 今日はお祝いという事で夕食は豪華だと思う。外人と一緒に食えるか、とは流石に言えない。一階に降りてリビングに向かった。

「樹、今日からホームステイで一年間一緒に暮らす事になったルイーズさんよ。仲良くするのよ」

「私もビックリでぇす。学校でも家でもイツキと一緒ですねぇ」

 リビングに入るとキッチンで手料理を作っている母さんが俺に言ってきた。どうやら、豪華な夕食ではなく、家庭料理でおもてなしするようだ。

「俺は一言も聞いてないぞ」

「当たり前でしょう。あんたは反対するんだから言うわけないでしょう。いつまでも外国の人が苦手なままじゃ苦労するんだから、キチンと仲良くするのよ。出来なければお小遣い無しよ」

「なっ⁉︎」

 ムスッとした態度で無駄だと思いながらも一応は反抗した。俺が外人嫌いなのは家族なら知っているはずだ。その結果がお小遣い無しの厳罰だとは思わなかった。
 ……くっ、テレビと車が盗まれても知らないからな。

 ♢

「はぁぁ、疲れた。風呂入ってもう寝るか」

 部屋から出ると風呂場に向かった。夕食は女三人がペチャクチャ喋りまくるから煩かった。父さんは単身赴任中だから家にいない。男の俺が一人で肩身が狭い思いをしている。

 ……誰も入ってないな。
 風呂場のある脱衣室の扉には「空室」の札がぶら下がっている。札の表と裏面に「使用中」と「空室」と書かれている。胡桃がお兄ちゃんに裸を覗かれたくないと提案した。
 提案する妹もおかしいけど、採用する母親もおかしい。

「あぁ、疲れた……」

 足を伸ばして、入浴剤が入った白い湯船に肩まで浸かる。この家に残された憩いの場所は、自分の部屋と風呂場しかない。他は女達に占領されてしまった。

 ガチャ……

「んっ?」

 脱衣室の扉が開く音が聞こえた。母さんが洗濯でもするのかもしれない。

 俺が出た後でもいいだろうに……

「ひぃぃ!」

 そう思っていたら、突然、ガラガラガラと浴室のガラス扉まで開いた。驚く俺の目の前には、服を着たルイーズが平然と立っている。

「おお! これは失礼しましたぁ。でも、許婚なら裸の付き合いは当たり前ですねぇ。私も見せまぁす!」

「なっ、なっ、お、お前……」

 恥ずかしさと怒りで口をパクパクさせて上手く喋れない。そんな俺にルイーズはニコニコと笑って、いきなり上着を脱ぎ始めようとする。

「待て待て待て待て待て待て! さっさとここから出て行けぇー‼︎」

「ノー! 由美かおるでぇす!」

 黒と白のスポーツブラっぽいのが見えた瞬間、俺は慌ててお湯をすくって、バシャバシャとぶっかけて追い出した。冗談でも全然笑えない!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

I've always liked you ~ずっと君が好きだった~

伊織愁
恋愛
※別サイトで投稿していた短編集の作品を抜粋して、少し、修正をしたものです。 タイトル通り、『ずっと君が好きだった』をテーマにして書いています。 自己満足な小説ですが、気に入って頂ければ幸いです。 イラストは、作者が描いたものを使用しています。

ストーカー達から逃げる場所がない!私は普通の生活が送りたいのに!!

ててて
恋愛
小さいころから付きまとわれている幼馴染、響也から逃げるため父の転勤を機に全寮制の高校へ逃げた! やっとこれから普通の高校生活が送れると思った矢先。 「はい、編入生を2人紹介します。」 「野口響也です。隣は川本詩春。しーちゃんは俺のなんで、手を出さないでください。」 「…なんでいるのよ!?」 自覚なし美人女子高生が、ストーカー型イケメン幼馴染から逃げられないお話。 その後、ストーカーがもう1人増えて、囲まれる話。 思いつたので書きました。 更新未定

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭
恋愛
「お父様、このように丸々と太った酒樽のような方とは暮らせませんわ。隣に立てば暑苦しいったらないでしょう」 「この方も背がひょろりと高過ぎてまるで棒切れのよう。私が扇で仰げば倒れてしまうのではなくて?」 「あらあら、この方はまるで悪党のように悪いお顔をなさっておいでです。隣に立てば、私の命まで奪い取られそうですわ」  そう言って父親であるメノーシェ伯爵を困らせているのは娘であるジュリエット・ド・メノーシェである。  彼女は随分と前から多くの婚約者候補の姿絵を渡されては『自分の好みではない』と一蹴しているのだ。  箱入り娘に育てられたジュリエットには人魚の呪いがかけられていた。  十八になった時に真実の愛を見つけて婚姻を結んでいなければ、『人魚病』になってしまうという。  『人魚病』とは、徐々に身体が人魚のような鱗に包まれて人魚のような尻尾がない代わりに両脚は固まり、涙を流せば目の鋭い痛みと共に真珠が零れ落ちるという奇病で、伝説の種族である人魚を怒らせた者にかけられる呪いによって発病すると言われている。  そんな箱入り娘の令嬢が出逢ったのは、見目が好みの平民キリアンだった。  世間知らずな令嬢に平民との結婚生活は送れるのか?    愛するキリアンの為に華やかな令嬢生活を捨てて平民の生活を送ることになったジュリエットのドタバタラブコメです。 『小説家になろう』『ノベプラ』でも掲載中です。

鉛の矢を持ったキューピッド~なぜか婚約破棄に巻き込まれる留学生たち~

尾形モモ
恋愛
 我が国、ジェドはそれぞれ五人の留学生を輩出した。しかしその全員が留学先で婚約破棄に巻き込まれている。  ハナ・ムラサキは自分に優しくしてくれた公爵令嬢が濡れ衣を着せられ、婚約破棄される場面に居合わせた。  ソラ・アオイロが寄り添う醜い王子は、自分とは不釣り合いな美しい令嬢に婚約破棄を言い渡した。  リン・フウカは聖女へ婚約破棄を言い渡す王子に疑問を呈す。  シズク・アマノはヘタレ王子の婚約破棄の茶番に付き合わされることとなった。  そして、カグヤ・ツクヨミは?  『鉛の矢を持ったキューピッド』という不名誉な称号を得た彼女たちに、一体何があったのか――? ※オムニバス形式作品です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...