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第25話 ヴェロニカの要求
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♦︎道重・視点♦︎
撫子が戻る前に薬師寺の青緑色の制服を脱がして、身体検査をした。
服の中、髪の中、足を開いて、身体の中も調べてみた。
「身体には隠してないようだ。鞄の中かもしれないな」
「ああ、そうかもしれない」
剛田と二人で調べたが、アメ玉はどこにもなかった。軽く胸を揉んだ後に服を着せた。
喋るとは思えないが、森に連れていって、自白させた方が早そうだ。
「……やっぱり無いな。調べられて困る物は残してないか」
小さな旅行鞄の中には、パスポートと着替え、本が二冊しかなかった。
日用品は島が用意するから持ち込む必要がない。必要最小限の持ち物で済む。
「おい、こんな物があったぞ」
「カメラか……」
ベッドを調べていた剛田が板状カメラを見つけた。装甲車にあった物だろう。
島での出来事を記録していたのかもしれない。録画された映像が大量にある。
適当に再生して、早送りして、関係ありそうな映像がないか探していく。
走る車の窓から森を映したもの、夕日が見える海で釣りをしている姿……。
「駄目だな。何もない」と剛田が言った。証拠無しだ。
少しは期待したが、そんなミスをするとは思えない。
このまま予定通りに森で処分するしかない。
「お迎えが来たみたいだな」
ビーと部屋のチャイムが鳴った。撫子の声がスピーカーから聞こえてきた。
剛田が軽々と薬師寺を抱き抱えると、俺が扉を開けて、部屋の外を確認した。
廊下には撫子以外いなかった。軍人には密告しなかったようだ。
「車はどこに止めたんだ?」
「駐車場に止めたけど……駄目だった?」
駐車場はホテルの出入り口にある。受付にいる従業員の前を通らないといけない。
だけど、ホテルには防犯カメラがある。誰にも気づかれずに外に出るのは不可能だ。
「それなら問題ない。お前も雪村を抱き抱えれば目立たなくなる」
「……そうだな」
剛田の真似をして、撫子を抱き抱えると、カウンターの前を平常心で通っていく。
酔っ払った若者が、悪ふざけに出かけるように見えれば好都合だ。
「ふぅー、助かったな。呼び止められなかった」
「馬鹿な客とは問題を起こしたくないだけだろう。さっさと行こう」
後部座席に剛田と薬師寺、助手席に撫子を乗せると車を走らせた。
剛田が車内のタオルで、薬師寺の手足を縛っている。
「ありがとう。これのお陰で助かった」
「ううん、いいの。歩の力になれたのなら選んで良かった。ごめんね、私がよく見てなかったから」
「お前の所為じゃないと言ったはずだ。もう謝るな」
「うん……」
車を走らせながら、ハンドガンを撫子に返した。これはもう必要ない。
撫子の方が必要そうだ。精神的に弱そうだから、このまま心が病みそうな気がする。
でも、これが良心というものだろう。薬師寺を殺そうとしているんだ。
心が動揺しない方がおかしい。俺の方がおかしいんだ。
「ヴェロニカの所まで行ってくれ。殺すか殺さないか、選ぶ権利はアイツにある」
扉を抜けると剛田が言ってきた。分かったと返事して車を走らせた。
ヴェロニカの車の横に停車させると、周囲を警戒しながら車の中を確認した。
逃げずに車内に寝ていた。剛田が車を降りて起こした。
「XXXXX。XXXXXX」
「XXXxXXX?」
「子供はあの女に殺された。どうするか決めてほしい」と多分言っている。
だけど、剛田が指差す薬師寺に、ヴェロニカは興味がないようだ。
何を言っているのか分からないが、剛田が困った顔をしている。
「どうしたんだ?」
「いや、それがな……薬師寺を殺しても意味がないそうだ。子供が死んだ責任を自分が取らされるから、守ってほしいと言っている」
「そういえば子供殺しは重罪だと言っていたな。それで逃げないのか。どうするんだ?」
おそらく人質になった責任、住民が殺された責任の両方を取ることになる。
子供を殺した場合は、子供を作るのが責任の取り方だ。住民の男達が何をするのか分かっている。
ついでに子供が産まれるまで、生きていられるとは思えない。
「島から逃すのは無理だ。だったら守るしかないだろ。ちょうどいいから俺が島に残る」
「本気か?」
「ああ。ちょうどいいと言っただろ。ここなら対戦相手には困らない。住民と旅行者の両方とやり放題だ」
「死ななければな。とても正気とは思えない考えだ」
剛田が馬鹿なことを言い出した。やはり自殺願望があるとしか思えない。
たくさんの住民と銃で武装した旅行者だ。
その両方と戦うつもりなら、一週間もせずに死ぬに決まっている。
素手で銃には勝てない。
「正気じゃないが、ここ以上に分かりやすい世界はない。悪いが説得するだけ無駄だ」
「説得するつもりはないよ。残り二日ある。飛行機が出発するまで、よく考えるんだな」
「そうだな。まずは二日生き残ってやるか」
戦闘狂に何を言っても無駄らしい。
剛田がニヤリと笑みを浮かべた。残り二日を森の中で楽しむようだ。
飛行機の出発時間に現れなかったら、馬鹿は死んだことにするしかない。
「……残る問題は薬師寺だな。殺すのが面倒なら、その辺に放置するか。住民が処分してくれる」
後部座席に倒れている薬師寺を見て言った。多分もう気絶していない。
一思いに頭をハンドガンで撃ってあげるのが優しさだ。
「とりあえず保留だ。殺すのはいつでも出来るからな」
「別に殺さなくてもいいけど、絶対に逃さないでくれよ。とりあえずこれを渡しておく。必要なら使ってくれ」
もう森に入るつもりはない。剛田に刀を渡した。ついでにサバイバルナイフも渡す。
武器の一つぐらい持たないと格好が付かない。
「いいのか?」
「ああ、もう必要ないから邪魔なだけだ。日本にも持ち帰れないしな」
「ふーん。まあいいだろう。お前の気持ちは受け取った。ありがたく使わせてもらう」
刀を受け取ると剛田が聞いてきた。
このままニッキー大尉に返すぐらいなら、剛田に渡した方が良いに決まっている。
薬師寺をヴェロニカの車に乗せると、空港に引き返した。
あとのことは剛田に任せるしかない。
撫子が戻る前に薬師寺の青緑色の制服を脱がして、身体検査をした。
服の中、髪の中、足を開いて、身体の中も調べてみた。
「身体には隠してないようだ。鞄の中かもしれないな」
「ああ、そうかもしれない」
剛田と二人で調べたが、アメ玉はどこにもなかった。軽く胸を揉んだ後に服を着せた。
喋るとは思えないが、森に連れていって、自白させた方が早そうだ。
「……やっぱり無いな。調べられて困る物は残してないか」
小さな旅行鞄の中には、パスポートと着替え、本が二冊しかなかった。
日用品は島が用意するから持ち込む必要がない。必要最小限の持ち物で済む。
「おい、こんな物があったぞ」
「カメラか……」
ベッドを調べていた剛田が板状カメラを見つけた。装甲車にあった物だろう。
島での出来事を記録していたのかもしれない。録画された映像が大量にある。
適当に再生して、早送りして、関係ありそうな映像がないか探していく。
走る車の窓から森を映したもの、夕日が見える海で釣りをしている姿……。
「駄目だな。何もない」と剛田が言った。証拠無しだ。
少しは期待したが、そんなミスをするとは思えない。
このまま予定通りに森で処分するしかない。
「お迎えが来たみたいだな」
ビーと部屋のチャイムが鳴った。撫子の声がスピーカーから聞こえてきた。
剛田が軽々と薬師寺を抱き抱えると、俺が扉を開けて、部屋の外を確認した。
廊下には撫子以外いなかった。軍人には密告しなかったようだ。
「車はどこに止めたんだ?」
「駐車場に止めたけど……駄目だった?」
駐車場はホテルの出入り口にある。受付にいる従業員の前を通らないといけない。
だけど、ホテルには防犯カメラがある。誰にも気づかれずに外に出るのは不可能だ。
「それなら問題ない。お前も雪村を抱き抱えれば目立たなくなる」
「……そうだな」
剛田の真似をして、撫子を抱き抱えると、カウンターの前を平常心で通っていく。
酔っ払った若者が、悪ふざけに出かけるように見えれば好都合だ。
「ふぅー、助かったな。呼び止められなかった」
「馬鹿な客とは問題を起こしたくないだけだろう。さっさと行こう」
後部座席に剛田と薬師寺、助手席に撫子を乗せると車を走らせた。
剛田が車内のタオルで、薬師寺の手足を縛っている。
「ありがとう。これのお陰で助かった」
「ううん、いいの。歩の力になれたのなら選んで良かった。ごめんね、私がよく見てなかったから」
「お前の所為じゃないと言ったはずだ。もう謝るな」
「うん……」
車を走らせながら、ハンドガンを撫子に返した。これはもう必要ない。
撫子の方が必要そうだ。精神的に弱そうだから、このまま心が病みそうな気がする。
でも、これが良心というものだろう。薬師寺を殺そうとしているんだ。
心が動揺しない方がおかしい。俺の方がおかしいんだ。
「ヴェロニカの所まで行ってくれ。殺すか殺さないか、選ぶ権利はアイツにある」
扉を抜けると剛田が言ってきた。分かったと返事して車を走らせた。
ヴェロニカの車の横に停車させると、周囲を警戒しながら車の中を確認した。
逃げずに車内に寝ていた。剛田が車を降りて起こした。
「XXXXX。XXXXXX」
「XXXxXXX?」
「子供はあの女に殺された。どうするか決めてほしい」と多分言っている。
だけど、剛田が指差す薬師寺に、ヴェロニカは興味がないようだ。
何を言っているのか分からないが、剛田が困った顔をしている。
「どうしたんだ?」
「いや、それがな……薬師寺を殺しても意味がないそうだ。子供が死んだ責任を自分が取らされるから、守ってほしいと言っている」
「そういえば子供殺しは重罪だと言っていたな。それで逃げないのか。どうするんだ?」
おそらく人質になった責任、住民が殺された責任の両方を取ることになる。
子供を殺した場合は、子供を作るのが責任の取り方だ。住民の男達が何をするのか分かっている。
ついでに子供が産まれるまで、生きていられるとは思えない。
「島から逃すのは無理だ。だったら守るしかないだろ。ちょうどいいから俺が島に残る」
「本気か?」
「ああ。ちょうどいいと言っただろ。ここなら対戦相手には困らない。住民と旅行者の両方とやり放題だ」
「死ななければな。とても正気とは思えない考えだ」
剛田が馬鹿なことを言い出した。やはり自殺願望があるとしか思えない。
たくさんの住民と銃で武装した旅行者だ。
その両方と戦うつもりなら、一週間もせずに死ぬに決まっている。
素手で銃には勝てない。
「正気じゃないが、ここ以上に分かりやすい世界はない。悪いが説得するだけ無駄だ」
「説得するつもりはないよ。残り二日ある。飛行機が出発するまで、よく考えるんだな」
「そうだな。まずは二日生き残ってやるか」
戦闘狂に何を言っても無駄らしい。
剛田がニヤリと笑みを浮かべた。残り二日を森の中で楽しむようだ。
飛行機の出発時間に現れなかったら、馬鹿は死んだことにするしかない。
「……残る問題は薬師寺だな。殺すのが面倒なら、その辺に放置するか。住民が処分してくれる」
後部座席に倒れている薬師寺を見て言った。多分もう気絶していない。
一思いに頭をハンドガンで撃ってあげるのが優しさだ。
「とりあえず保留だ。殺すのはいつでも出来るからな」
「別に殺さなくてもいいけど、絶対に逃さないでくれよ。とりあえずこれを渡しておく。必要なら使ってくれ」
もう森に入るつもりはない。剛田に刀を渡した。ついでにサバイバルナイフも渡す。
武器の一つぐらい持たないと格好が付かない。
「いいのか?」
「ああ、もう必要ないから邪魔なだけだ。日本にも持ち帰れないしな」
「ふーん。まあいいだろう。お前の気持ちは受け取った。ありがたく使わせてもらう」
刀を受け取ると剛田が聞いてきた。
このままニッキー大尉に返すぐらいなら、剛田に渡した方が良いに決まっている。
薬師寺をヴェロニカの車に乗せると、空港に引き返した。
あとのことは剛田に任せるしかない。
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