23 / 26
第23話 状況証拠
しおりを挟む
♦︎道重・視点♦︎
「剛田さんは大丈夫ですが、道重さんは何か変わった物を食べませんでしたか?」
検査結果を聞く為に部屋に案内された。五十代の白人の医者が聞いてきた。
剛田は問題ないのに、俺の方に問題があるそうだ。
心当たりはないが、食べた物を思い出して答えてみた。
「変わったものですか? 車内に置いてあった水とチョコレートぐらいですけど」
「そうですか……いえね、お連れの女性二人の唾液から、ある成分が多く検出されていましてね。これ自体は無害なんですが、三人とも違う成分なのが少し気になるんですよ。持病の薬は持ってきていますか?」
「いえ、そんな物は持ってきてません」
医者は気になることがあるみたいだが、身体に問題ないなら、撫子達を探しに行きたい。
「その毒の解毒薬は作れるのか?」
「それは無理です。島の毒ではなく、おそらく外部から持ち込まれた毒です。自然毒ではないですからね」
「なるほど。外部犯というわけか……」
帰っていいかと聞こうとしたら、剛田が医者に質問した。
外部から持ち込まれた毒の可能性が高いらしい。
剛田だけが問題ないなら、島に来る前ではなく、島に来た後だ。
水とチョコレートは剛田も食べていた。
あれが原因じゃないなら、俺と撫子と薬師寺だけが口にした物になる。
もしくは子供達だ。俺達三人だけが子供達と接触していた。
「容疑者は三人だな」
病院から出ると剛田が言ってきた。子供を毒殺した容疑者なら五人だ。
撫子と薬師寺とヴェロニカと子供二人だ。期待はしていないが、名探偵に犯人を聞いてみた。
「その三人は誰なんだ?」
「医者の話を聞いていれば分かる。外部犯で子供二人と接触した人間だ。それはお前と雪村と薬師寺だけだ」
「俺は違うからな」
「犯人は皆んなそう言う」
聞くだけ無駄だった。このまま冤罪で犯人にされるつもりはない。
安全上の問題で、毒を島に持ち込む行為は重罪に認定されている。
フェンスの中に住民として入れられる。
剛田の言う通りなら、俺を除外すれば、容疑者は二人になる。
どちらが犯人かというと薬師寺だ。撫子なら首を絞めるか、サバイバルナイフを借りて突き殺す。
だけど、撫子が毒を持っていた可能性がある。失敗した時に俺と心中する場合だ。
でも、そんな物を準備するとは思えない。心中するつもりなら、ハンドガンで頭を撃てばいい。
それにそんなことをする利点がない。別の婚約者でも探せばいいだけだ。
それに変な物ではないが、車内にいる時に薬師寺にアメ玉を貰った。
ヴェロニカも貰っていたが、食べても平気そうだった。
時限式の毒ならば、俺とヴェロニカは死んでいる。毒とは無関係だと思っていい。
ある成分と関係があるぐらいだろう。
「そういえば薬師寺からアメ玉を貰ったな。剛田は一緒にいた時に貰わなかったのか?」
「いや、そんな物は貰わなかった。それが原因だと思うのか?」
「まあな。お前がアメ玉を食べてないなら、異常が出た原因の一つにはなる」
アメ玉は無関係だと思うが、念の為に剛田に聞いてみた。
原因が分かったかもしれない。剛田は貰ってないそうだ。
味は普通だったから、変な店で変なアメ玉でも買ったのだろう。
薬師寺にアメ玉を一つ貰って、それを調べれば結果は分かる。
「なるほどな。だが、空港の検査で問題なかったのなら、調べるだけ無駄になりそうだな」
「無駄でもいいさ。変な物を食べるよりはいい。大量に食べると悪影響が出そうだしな」
剛田は問題ないと言うが、アレルギー反応とか出そうな気がする。
早めに薬師寺を探して、アメ玉を食べないように注意した方がいい。
「お二人なら、こちらのお部屋を使っています」
ホテルに到着すると、従業員に撫子達が帰っているのか聞いてみた。
教えられた部屋に向かうと、壁に取り付けられているボタンを押した。
「撫子、俺だ。開けてくれ」
マイクに向かって呼びかけた。
撫子達は頑丈な鉄扉に守られた部屋の中にいる。
このまま飛行機の出発時間まで籠城することも出来る。
「歩、ごめんなさい。子供達が毒を持っていたのに気づかなくて……」
無駄な心配はすぐに終わった。白い私服姿の撫子が扉を開けて出てきた。
俺が何か言う前に謝ると、子供達が自殺したと言ってきた。
「お前の責任じゃない。俺が捕まえた所為だ」
自然に出た言葉だったが、謝るのは俺の方だ。
くだらない手を考えて、それに子供を利用した俺が悪い。
「その通りだ。だが、持っていない毒で自殺は出来ない。薬師寺、お前が持っているアメ玉を調べさせてもらう。それが一番怪しいからな」
俺と撫子を押し退けて、剛田が部屋に入ると、読書中の薬師寺に言った。
いきなり犯人扱いはやめろと注意したいが、薬師寺が読んでいた本をテーブルに置いた。
「すみません。そのアメ玉なら海に落としてしまいました」
「なるほど。証拠隠滅した後か」
「落としただけです。アメ玉なら私も食べましたよ。ご覧の通り生きてます」
確かに都合がいいとは思うが、不自然とは言えない。捨てるなら森の中でも出来る。
薬師寺が椅子から立ち上がると、軽く一回転した後に元気だと笑っている。
「やっぱりな。俺は違うと言ったんだが、道重がお前が怪しいと言うから」
「道重君、そうなんですか?」
「犯人呼ばわりしたのは剛田の独断だ。俺はアメ玉を食べたと言っただけだ」
剛田が俺の所為にして、薬師寺が微笑んで聞いてきた。
キチンと否定させてもらった。
「アメ玉なら私も食べたよ。子供達も食べていたけど、毒入りのアメ玉でも入っていたの?」
撫子もアメ玉を食べたそうだ。これで異常がある三人がアメ玉を食べたことになる。
だけど、同じようにアメ玉を食べた子供だけが死んでいる。
撫子の言う通り、毒入りのアメ玉が混ざっていたのだろうか。
子供だけが反応するアレルギーが入っていたんじゃないだろうか。
「なるほど。そういうことか。アメ玉は一種類だけか? 色や形も全部一緒か」
「形は同じです。色は赤、緑、黄色、オレンジ、紫色とあります。まさか、紫色が毒とか言うんですか?」
「違うのか?」
剛田がまた分かったみたいだが、空港の検査は厳しい。
一種類ではなく、全種類調べられる。簡単には持ち込めない。
「さあ、分かりません。もしかするとそうかもしれませんね。取り調べはもういいですか?」
「駄目だ、夜は長い。消去法で考えたら、お前が怪しい。俺はヴェロニカに子供を返すと約束した。生きた子供が返せないなら、犯人を渡すしかない。一緒に来てもらおうか」
薬師寺は肯定も否定もしない。剛田の遊びに付き合っているみたいだ。
でも、剛田は遊ぶつもりがない。ヴェロニカの所に薬師寺を連れて行こうとした。
流石に黙って見ていられない。剛田の前に立ち塞がると刀で止めた。
「それはちょっと強引すぎる。証拠がないなら、全部お前の思い込みだ」
「殺す動機のない雪村と殺す動機が分からない薬師寺だ。どちらが犯人か考える必要もない。追い込まれた時の目を見れば犯人か分かる。間違いない、犯人は薬師寺だ」
「それが思い込みなんだよ」
それっぽいことを言っているが、言っていることがさっきから同じだ。
怪しいという理由で犯人には出来ない。犯人だと言うなら、証拠を見つけてからだ。
「まあまあ、喧嘩はやめましょう。私が犯人だとします。でも、島の子供を殺しただけですよ。罪になりますか? むしろ、空港で暴力を振るおうとする剛田君の方が犯罪です。違いますか?」
喧嘩を止めたいのか、剛田を煽りたいのか、薬師寺が笑顔で言ってきた。
言っていることは正しいが、火に油を注ぐ行為だ。殴れと言っているようなものだ。
「剛田さんは大丈夫ですが、道重さんは何か変わった物を食べませんでしたか?」
検査結果を聞く為に部屋に案内された。五十代の白人の医者が聞いてきた。
剛田は問題ないのに、俺の方に問題があるそうだ。
心当たりはないが、食べた物を思い出して答えてみた。
「変わったものですか? 車内に置いてあった水とチョコレートぐらいですけど」
「そうですか……いえね、お連れの女性二人の唾液から、ある成分が多く検出されていましてね。これ自体は無害なんですが、三人とも違う成分なのが少し気になるんですよ。持病の薬は持ってきていますか?」
「いえ、そんな物は持ってきてません」
医者は気になることがあるみたいだが、身体に問題ないなら、撫子達を探しに行きたい。
「その毒の解毒薬は作れるのか?」
「それは無理です。島の毒ではなく、おそらく外部から持ち込まれた毒です。自然毒ではないですからね」
「なるほど。外部犯というわけか……」
帰っていいかと聞こうとしたら、剛田が医者に質問した。
外部から持ち込まれた毒の可能性が高いらしい。
剛田だけが問題ないなら、島に来る前ではなく、島に来た後だ。
水とチョコレートは剛田も食べていた。
あれが原因じゃないなら、俺と撫子と薬師寺だけが口にした物になる。
もしくは子供達だ。俺達三人だけが子供達と接触していた。
「容疑者は三人だな」
病院から出ると剛田が言ってきた。子供を毒殺した容疑者なら五人だ。
撫子と薬師寺とヴェロニカと子供二人だ。期待はしていないが、名探偵に犯人を聞いてみた。
「その三人は誰なんだ?」
「医者の話を聞いていれば分かる。外部犯で子供二人と接触した人間だ。それはお前と雪村と薬師寺だけだ」
「俺は違うからな」
「犯人は皆んなそう言う」
聞くだけ無駄だった。このまま冤罪で犯人にされるつもりはない。
安全上の問題で、毒を島に持ち込む行為は重罪に認定されている。
フェンスの中に住民として入れられる。
剛田の言う通りなら、俺を除外すれば、容疑者は二人になる。
どちらが犯人かというと薬師寺だ。撫子なら首を絞めるか、サバイバルナイフを借りて突き殺す。
だけど、撫子が毒を持っていた可能性がある。失敗した時に俺と心中する場合だ。
でも、そんな物を準備するとは思えない。心中するつもりなら、ハンドガンで頭を撃てばいい。
それにそんなことをする利点がない。別の婚約者でも探せばいいだけだ。
それに変な物ではないが、車内にいる時に薬師寺にアメ玉を貰った。
ヴェロニカも貰っていたが、食べても平気そうだった。
時限式の毒ならば、俺とヴェロニカは死んでいる。毒とは無関係だと思っていい。
ある成分と関係があるぐらいだろう。
「そういえば薬師寺からアメ玉を貰ったな。剛田は一緒にいた時に貰わなかったのか?」
「いや、そんな物は貰わなかった。それが原因だと思うのか?」
「まあな。お前がアメ玉を食べてないなら、異常が出た原因の一つにはなる」
アメ玉は無関係だと思うが、念の為に剛田に聞いてみた。
原因が分かったかもしれない。剛田は貰ってないそうだ。
味は普通だったから、変な店で変なアメ玉でも買ったのだろう。
薬師寺にアメ玉を一つ貰って、それを調べれば結果は分かる。
「なるほどな。だが、空港の検査で問題なかったのなら、調べるだけ無駄になりそうだな」
「無駄でもいいさ。変な物を食べるよりはいい。大量に食べると悪影響が出そうだしな」
剛田は問題ないと言うが、アレルギー反応とか出そうな気がする。
早めに薬師寺を探して、アメ玉を食べないように注意した方がいい。
「お二人なら、こちらのお部屋を使っています」
ホテルに到着すると、従業員に撫子達が帰っているのか聞いてみた。
教えられた部屋に向かうと、壁に取り付けられているボタンを押した。
「撫子、俺だ。開けてくれ」
マイクに向かって呼びかけた。
撫子達は頑丈な鉄扉に守られた部屋の中にいる。
このまま飛行機の出発時間まで籠城することも出来る。
「歩、ごめんなさい。子供達が毒を持っていたのに気づかなくて……」
無駄な心配はすぐに終わった。白い私服姿の撫子が扉を開けて出てきた。
俺が何か言う前に謝ると、子供達が自殺したと言ってきた。
「お前の責任じゃない。俺が捕まえた所為だ」
自然に出た言葉だったが、謝るのは俺の方だ。
くだらない手を考えて、それに子供を利用した俺が悪い。
「その通りだ。だが、持っていない毒で自殺は出来ない。薬師寺、お前が持っているアメ玉を調べさせてもらう。それが一番怪しいからな」
俺と撫子を押し退けて、剛田が部屋に入ると、読書中の薬師寺に言った。
いきなり犯人扱いはやめろと注意したいが、薬師寺が読んでいた本をテーブルに置いた。
「すみません。そのアメ玉なら海に落としてしまいました」
「なるほど。証拠隠滅した後か」
「落としただけです。アメ玉なら私も食べましたよ。ご覧の通り生きてます」
確かに都合がいいとは思うが、不自然とは言えない。捨てるなら森の中でも出来る。
薬師寺が椅子から立ち上がると、軽く一回転した後に元気だと笑っている。
「やっぱりな。俺は違うと言ったんだが、道重がお前が怪しいと言うから」
「道重君、そうなんですか?」
「犯人呼ばわりしたのは剛田の独断だ。俺はアメ玉を食べたと言っただけだ」
剛田が俺の所為にして、薬師寺が微笑んで聞いてきた。
キチンと否定させてもらった。
「アメ玉なら私も食べたよ。子供達も食べていたけど、毒入りのアメ玉でも入っていたの?」
撫子もアメ玉を食べたそうだ。これで異常がある三人がアメ玉を食べたことになる。
だけど、同じようにアメ玉を食べた子供だけが死んでいる。
撫子の言う通り、毒入りのアメ玉が混ざっていたのだろうか。
子供だけが反応するアレルギーが入っていたんじゃないだろうか。
「なるほど。そういうことか。アメ玉は一種類だけか? 色や形も全部一緒か」
「形は同じです。色は赤、緑、黄色、オレンジ、紫色とあります。まさか、紫色が毒とか言うんですか?」
「違うのか?」
剛田がまた分かったみたいだが、空港の検査は厳しい。
一種類ではなく、全種類調べられる。簡単には持ち込めない。
「さあ、分かりません。もしかするとそうかもしれませんね。取り調べはもういいですか?」
「駄目だ、夜は長い。消去法で考えたら、お前が怪しい。俺はヴェロニカに子供を返すと約束した。生きた子供が返せないなら、犯人を渡すしかない。一緒に来てもらおうか」
薬師寺は肯定も否定もしない。剛田の遊びに付き合っているみたいだ。
でも、剛田は遊ぶつもりがない。ヴェロニカの所に薬師寺を連れて行こうとした。
流石に黙って見ていられない。剛田の前に立ち塞がると刀で止めた。
「それはちょっと強引すぎる。証拠がないなら、全部お前の思い込みだ」
「殺す動機のない雪村と殺す動機が分からない薬師寺だ。どちらが犯人か考える必要もない。追い込まれた時の目を見れば犯人か分かる。間違いない、犯人は薬師寺だ」
「それが思い込みなんだよ」
それっぽいことを言っているが、言っていることがさっきから同じだ。
怪しいという理由で犯人には出来ない。犯人だと言うなら、証拠を見つけてからだ。
「まあまあ、喧嘩はやめましょう。私が犯人だとします。でも、島の子供を殺しただけですよ。罪になりますか? むしろ、空港で暴力を振るおうとする剛田君の方が犯罪です。違いますか?」
喧嘩を止めたいのか、剛田を煽りたいのか、薬師寺が笑顔で言ってきた。
言っていることは正しいが、火に油を注ぐ行為だ。殴れと言っているようなものだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる