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第23話 状況証拠

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 ♦︎道重・視点♦︎

「剛田さんは大丈夫ですが、道重さんは何か変わった物を食べませんでしたか?」

 検査結果を聞く為に部屋に案内された。五十代の白人の医者が聞いてきた。
 剛田は問題ないのに、俺の方に問題があるそうだ。
 心当たりはないが、食べた物を思い出して答えてみた。

「変わったものですか? 車内に置いてあった水とチョコレートぐらいですけど」
「そうですか……いえね、お連れの女性二人の唾液から、ある成分が多く検出されていましてね。これ自体は無害なんですが、三人とも違う成分なのが少し気になるんですよ。持病の薬は持ってきていますか?」
「いえ、そんな物は持ってきてません」

 医者は気になることがあるみたいだが、身体に問題ないなら、撫子達を探しに行きたい。

「その毒の解毒薬は作れるのか?」
「それは無理です。島の毒ではなく、おそらく外部から持ち込まれた毒です。自然毒ではないですからね」
「なるほど。外部犯というわけか……」

 帰っていいかと聞こうとしたら、剛田が医者に質問した。
 外部から持ち込まれた毒の可能性が高いらしい。
 剛田だけが問題ないなら、島に来る前ではなく、島に来た後だ。

 水とチョコレートは剛田も食べていた。
 あれが原因じゃないなら、俺と撫子と薬師寺だけが口にした物になる。
 もしくは子供達だ。俺達三人だけが子供達と接触していた。

「容疑者は三人だな」

 病院から出ると剛田が言ってきた。子供を毒殺した容疑者なら五人だ。
 撫子と薬師寺とヴェロニカと子供二人だ。期待はしていないが、名探偵に犯人を聞いてみた。

「その三人は誰なんだ?」
「医者の話を聞いていれば分かる。外部犯で子供二人と接触した人間だ。それはお前と雪村と薬師寺だけだ」
「俺は違うからな」
「犯人は皆んなそう言う」

 聞くだけ無駄だった。このまま冤罪で犯人にされるつもりはない。
 安全上の問題で、毒を島に持ち込む行為は重罪に認定されている。
 フェンスの中に住民として入れられる。

 剛田の言う通りなら、俺を除外すれば、容疑者は二人になる。
 どちらが犯人かというと薬師寺だ。撫子なら首を絞めるか、サバイバルナイフを借りて突き殺す。
 だけど、撫子が毒を持っていた可能性がある。失敗した時に俺と心中する場合だ。

 でも、そんな物を準備するとは思えない。心中するつもりなら、ハンドガンで頭を撃てばいい。
 それにそんなことをする利点がない。別の婚約者でも探せばいいだけだ。
 それに変な物ではないが、車内にいる時に薬師寺にアメ玉を貰った。

 ヴェロニカも貰っていたが、食べても平気そうだった。
 時限式の毒ならば、俺とヴェロニカは死んでいる。毒とは無関係だと思っていい。
 ある成分と関係があるぐらいだろう。

「そういえば薬師寺からアメ玉を貰ったな。剛田は一緒にいた時に貰わなかったのか?」
「いや、そんな物は貰わなかった。それが原因だと思うのか?」
「まあな。お前がアメ玉を食べてないなら、異常が出た原因の一つにはなる」

 アメ玉は無関係だと思うが、念の為に剛田に聞いてみた。
 原因が分かったかもしれない。剛田は貰ってないそうだ。
 味は普通だったから、変な店で変なアメ玉でも買ったのだろう。
 薬師寺にアメ玉を一つ貰って、それを調べれば結果は分かる。

「なるほどな。だが、空港の検査で問題なかったのなら、調べるだけ無駄になりそうだな」
「無駄でもいいさ。変な物を食べるよりはいい。大量に食べると悪影響が出そうだしな」
 
 剛田は問題ないと言うが、アレルギー反応とか出そうな気がする。
 早めに薬師寺を探して、アメ玉を食べないように注意した方がいい。

「お二人なら、こちらのお部屋を使っています」

 ホテルに到着すると、従業員に撫子達が帰っているのか聞いてみた。
 教えられた部屋に向かうと、壁に取り付けられているボタンを押した。

「撫子、俺だ。開けてくれ」

 マイクに向かって呼びかけた。
 撫子達は頑丈な鉄扉に守られた部屋の中にいる。
 このまま飛行機の出発時間まで籠城することも出来る。

「歩、ごめんなさい。子供達が毒を持っていたのに気づかなくて……」

 無駄な心配はすぐに終わった。白い私服姿の撫子が扉を開けて出てきた。
 俺が何か言う前に謝ると、子供達が自殺したと言ってきた。

「お前の責任じゃない。俺が捕まえた所為だ」

 自然に出た言葉だったが、謝るのは俺の方だ。
 くだらない手を考えて、それに子供を利用した俺が悪い。

「その通りだ。だが、持っていない毒で自殺は出来ない。薬師寺、お前が持っているアメ玉を調べさせてもらう。それが一番怪しいからな」

 俺と撫子を押し退けて、剛田が部屋に入ると、読書中の薬師寺に言った。
 いきなり犯人扱いはやめろと注意したいが、薬師寺が読んでいた本をテーブルに置いた。

「すみません。そのアメ玉なら海に落としてしまいました」
「なるほど。証拠隠滅した後か」
「落としただけです。アメ玉なら私も食べましたよ。ご覧の通り生きてます」

 確かに都合がいいとは思うが、不自然とは言えない。捨てるなら森の中でも出来る。
 薬師寺が椅子から立ち上がると、軽く一回転した後に元気だと笑っている。

「やっぱりな。俺は違うと言ったんだが、道重がお前が怪しいと言うから」
「道重君、そうなんですか?」
「犯人呼ばわりしたのは剛田の独断だ。俺はアメ玉を食べたと言っただけだ」

 剛田が俺の所為にして、薬師寺が微笑んで聞いてきた。
 キチンと否定させてもらった。

「アメ玉なら私も食べたよ。子供達も食べていたけど、毒入りのアメ玉でも入っていたの?」

 撫子もアメ玉を食べたそうだ。これで異常がある三人がアメ玉を食べたことになる。
 だけど、同じようにアメ玉を食べた子供だけが死んでいる。
 撫子の言う通り、毒入りのアメ玉が混ざっていたのだろうか。
 子供だけが反応するアレルギーが入っていたんじゃないだろうか。

「なるほど。そういうことか。アメ玉は一種類だけか? 色や形も全部一緒か」
「形は同じです。色は赤、緑、黄色、オレンジ、紫色とあります。まさか、紫色が毒とか言うんですか?」
「違うのか?」

 剛田がまた分かったみたいだが、空港の検査は厳しい。
 一種類ではなく、全種類調べられる。簡単には持ち込めない。

「さあ、分かりません。もしかするとそうかもしれませんね。取り調べはもういいですか?」
「駄目だ、夜は長い。消去法で考えたら、お前が怪しい。俺はヴェロニカに子供を返すと約束した。生きた子供が返せないなら、犯人を渡すしかない。一緒に来てもらおうか」

 薬師寺は肯定も否定もしない。剛田の遊びに付き合っているみたいだ。
 でも、剛田は遊ぶつもりがない。ヴェロニカの所に薬師寺を連れて行こうとした。
 流石に黙って見ていられない。剛田の前に立ち塞がると刀で止めた。

「それはちょっと強引すぎる。証拠がないなら、全部お前の思い込みだ」
「殺す動機のない雪村と殺す動機が分からない薬師寺だ。どちらが犯人か考える必要もない。追い込まれた時の目を見れば犯人か分かる。間違いない、犯人は薬師寺だ」
「それが思い込みなんだよ」

 それっぽいことを言っているが、言っていることがさっきから同じだ。
 怪しいという理由で犯人には出来ない。犯人だと言うなら、証拠を見つけてからだ。

「まあまあ、喧嘩はやめましょう。私が犯人だとします。でも、島の子供を殺しただけですよ。罪になりますか? むしろ、空港で暴力を振るおうとする剛田君の方が犯罪です。違いますか?」

 喧嘩を止めたいのか、剛田を煽りたいのか、薬師寺が笑顔で言ってきた。
 言っていることは正しいが、火に油を注ぐ行為だ。殴れと言っているようなものだ。
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