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第22話 道重対住民二人

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 ♦︎道重・視点♦︎

「はぁ、はぁ……」

 気分が最悪なのは、きっと上手くいかないからだ。
 車の外に出ると、走ってくる住民二人が見えた。

 ハンドガンは撃てない。
 出番がなかった刀の出番だが、永遠に出番は来なくても良かった。
 左手で鞘を握り締めると、右手で柄を掴んで、鞘から刀を抜いた。
 邪魔な鞘を地面に捨てると、両手で刀を握った。
 実戦的な戦闘訓練なら親父に受けさせられた。

「くたばれ!」

 金髪の白人が左手に持った手斧を振り下ろしてきた。
 後ろに躱して、振り回された手斧も続けて躱すと刀を振り上げた。
 心を落ち着かせると、男の左肩に刀を力強く振り下ろした。

「ずがああ!」

 左肩から右腹に刃が通り抜けた。続けて胴体を横一文字に斬り裂いた。
 死んだか確認する暇はない。もう一人の住民が目の前に迫っている。
 黒髪の白人がライフルの銃身を右手に持って、振り下ろそうとしている。
 刀の切っ先を喉に向けると素早く前進した。

「ごぽっ、ぐぽぉ……!」

 切っ先が首骨にぶつかり停止した。刀を引き抜き、腹を真横に斬り裂いた。
 手足を斬っても致命傷にはならない。臓器を一つでも破壊できれば、いずれは死ぬ。
 地面に落ちている黒鞘を拾うと、車に走った。追加の住民はもう要らない。

「降りろ。get、out」
「no!」
「くっ……!」

 剛田の車に行くと後部座席の扉を開けて、ヴェロニカに降りるように言った。
 まさか拒否されるとは思わなかったが、無理矢理に降ろしている時間はない。
 運転席に座るとエンジンをかけた。剛田を乗せて帰る。拒否されたら置いて行くしかない。

「剛田、最終便だ! 乗らないと徒歩で帰ることになるぞ!」

 剛田が戦っていた住民を車で轢くと、強めに言った。
 このまま戦っても、集団に袋叩きに遭って死ぬだけだ。

「……なるほど、時間切れらしい。出発してくれ」

 周囲を見回すと、後部座席に剛田が素早く乗り込んだ。
 暗いから戦いにくいのか、弱い相手を殴る趣味がないのだろう。
 それか腹が減ったかだ。後ろに積んでいる料理を食べ始めた。

 広場を脱出すると、暗い一本道を走っていく。スピードは出さない。
 事故を起こしたら、道路沿いにいる見張り達から襲われてしまう。

「さっきの話どう思う? 撫子達が空港にいると思うか?」
「さあな。確かめないと分からないが、確かめれば嘘なのか分かる」

 骨付き肉を食べている剛田に聞いた。確かに色々考えるよりも確かめた方が早い。
 どちらかと言うと、本当の場合にどうするべきなのか考えたい。
 本当に子供二人が死んでいるのなら、死んだ理由を聞きたい。

「……」

 どこから失敗したのか分からないが、明らかに失敗した。
 犠牲者は出したくないと言って、目標以上の住民を殺してしまった。
 犬石も殺してしまった。桃山と猿橋は住民達に殺されるだろう。
 永鳥がどうなったかは聞くことも出来なかった。

 だけど、後悔と懺悔の感情が湧いてこない。
 感じる感情は疲労感と達成感、生きて日本に帰れる安心感だけだ。
 
「道重、ここで車を止めろ。ここからは歩きだ」
「……どうしてだ?」

 もうすぐ空港に着く。剛田が車を止めるように言ってきた。
 ヴェロニカなら車から降ろせばいいが、そのつもりはないようだ。
 理由を聞いて、車を止めた。

「子供二人を返す約束をした。まだ返していない。ヴェロニカには車で待っててもらう」
「本当の子供じゃないんだ。世話を任されていただけなら、そこまでする必要はない」
「男の約束だ。死んでいたとしても、死体を返すのが道理だ」

 剛田が理由を言ってきたが、お前の気持ちではなく、ヴェロニカの気持ちを聞いてほしい。
 でも、命懸けで守ろうとしていた。大事なのは決まっている。

「分かった。そうしよう」

 ここで無駄な議論をしている暇はない。夜なら撫子達もホテルに帰っているはずだ。
 剛田がヴェロニカに状況を説明すると、拘束せずに車から降りた。
 せっかくの料理だから、待っている間に好きなだけ食べてもらうそうだ。

「剛田はこれからどうするつもりだ? 俺は残りは空港でゆっくりしたい」
「そうだな。まだ考えていない」

 刀とランプを持って、暗い道を歩いていく。
 住民と戦うとは言わずに、考えるだけマシかもしれない。
 二重扉の前まで行くと扉の前に立った。ジッと待っていると扉が左右に動き出した。
 車の時よりも扉が開く時間が遅かった。開けていいのか迷ったのだろう。

「まずは空港にいるか聞くとするか」
「ああ、軍服の人間に聞けば分かるはずだ」

 扉を通り抜けると、撫子達が空港にいるのか調べることにした。
 旅客機やヘリコプター、車が並んでいる車庫にいた白人の男に聞いた。
 すぐに建物に付いてある電話で、上の人間に連絡を取ってくれた。

「その二人なら空港にいます。子供二人の冷凍保存を頼んだ後に、海岸に釣りに向かったそうです」
「ほー、子供二人死んだ後に釣りとは、結構な頭のイカれ具合だな」

 男の報告に剛田は軽く笑みを浮かべると、俺の方を向いて言った。確かにイカれている。
 撫子は俺の為に子供を殺すと言っていたから、馬鹿なことをした可能性がある。

「それで今はどこにいるんですか? ホテルですか?」
「そうだと思います。ですが、その前に検査をお願いします。子供の身体から毒物反応がありました」
「毒物……それで死んだんですか?」

 撫子達の居場所を聞くと、男は答えた後に検査をお願いしてきた。
 子供の死因は毒みたいだが、毒物は島の安全を守る為に持ち込めない。
 身体に刺し傷や首を絞められた痕がないなら、撫子が殺した可能性は低い。

「ええ。口内と喉の炎症が酷いので、口から摂取したと思われます。島に毒草が多少は群生しているので、それを使ったと思われています」
「なるほどな。草食べて死ねば毒草だと分かるだろうからな。知識が無くてもいけるか」

 男の情報通りなら、子供が自分で毒を飲んだ可能性があるそうだ。
 撫子が子供達を助けようと、空港の病院に連れてきたと考えれば、おかしな行動も理解できる。
 撫子が殺してない可能性があると分かって、少し安心した。
 
「剛田、話は後にしよう。死んだら話は出来ない。検査はどこでやるんですか?」
「それなら連絡しました。すぐに来るので、このままお待ちください」

 男に聞くと車庫で待つように言われた。
 待っていると白い救護車がやって来た。車に乗り込むと病院に連れて行かれた。
 血と唾液を取られると、検査結果を待つことになった。
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