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第21話 交渉決裂
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♦︎道重・視点♦︎
待っていると住民達の聞き取り調査が終わったようだ。建物の前にいた住民が何人も向かってきた。
車の周囲を囲むように、十五人の住民が近づいてくる。あまり良い雰囲気じゃない。
「探している車の行き先が分かった。空港に入ったそうだ」
「本当か? 空港に車はなかったぞ」
俺よりも早く剛田が聞き返した。
「よく探したのか? こっちの情報は確かだ。女二人、子供二人が車に乗ったまま空港に入った。空港に入れる住民は死人だけだ。俺達の方には問題ないが、そっちの方には問題が起こったようだな」
撫子が子供を殺すとは思えない。
そんなはずないと否定しようとしたが、取り囲む住民の一人が言ってきた。
「これは大問題だ。お前達が誰も殺してないから特別に交渉していたが、状況が変わった。この島でも子供殺しは重罪だ。だが、責任さえ取ってくれればそれでいい。女二人を連れて来い。子供を二人産めば許してやる」
無茶苦茶な要求だ。子供が出来るまで何日かかると思っている。
当然断るつもりだが、剛田が住民の前に立って睨みを効かせて言った。
「まだ殺したと決まってないのに、無茶苦茶な要求だな」
「殺したと決まったようなものだろ? 死体が欲しくないのか? 必要なんだろ」
「女と俺達は関係ない話だろ。頭悪いのか? だったら俺の学校の奴らがやられた分、お前らを殴ってもいいことになるな。それでもいいのか?」
「はぁ? テメェーが三人殴ったの知ってんだぞ! そっちは関係あるだろ!」
「知らねえよ。証拠映像でもあんのかよ」
チンピラの喧嘩だが、確かに俺達には関係ない話だ。撫子達と交渉したいなら空港に行けばいい。
でも、これが嘘か本当か分からない。すでに人質として捕まっている可能性がある。
知らないフリをして、無茶な要求で交渉を決裂させたいだけかもしれない。
「だったらこのまま帰らせてもらう。剛田、車に乗れ。近づいたら撃ち殺す」
ハンドガンの銃口を向けて、住民達に警告した。空港に撫子がいるのか念入りに調べる。
二重扉には監視カメラがある。確認してもらえば、車が通ったのか分かる。
「待てよ。その銃が撃てないのは知っている。お友達が教えてくれたからな」
だけど、円状に取り囲んだ住民達は誰も怖がる様子がない。おかしそうに笑っている。
桃山達が話したみたいだが、本当に撃てるか撃てないかは、住民には分からないはずだ。
「試してみるか? 撃てるのに撃てないと教えたのかもな。俺は死体なら誰でもいいぞ」
「ガキが強がるなよ。ランプが赤色のままだ。緑色にならないと撃てないのを知らないのか?」
心臓がバクバク言っている。それでも平常心だと自分に言い聞かせる。
「へぇー、それは知らなかったな。最新の奴は赤色だと思っていた」
「じゃあ、どっちが最新の奴なのか試してみるか?」
住民達の顔は笑ったままだ。桃山達の銃を住民達は入手している。
電子銃のランプの色が赤ならオフ、緑ならオンになるのを知っている。
無駄な脅しはやめて、今すぐに車の中に逃げるしかない。
「その必要はない。道重、こっちの方が分かりやすくていい。飯と女が欲しけりゃ俺達を倒しな!」
「ぐがああ!」
住民が襲って来る前に、剛田が住民の頭に頭突きを食らわせた。
馬鹿野郎と叫びたいけど、状況は明らかに不利だった。
扉の開いている車に乗り込むと、急いで扉を閉めた。
「開けろ! 殺すぞ!」
「人質殺すぞ!」
開けたら、絶対に殺される。
取り囲んでいた住民が走ってくると、怒鳴りながら、車の防弾ガラスを銃で叩き始めた。
旅行者達から奪った使用期限が切れた銃だろうか。鈍器代わりに使っている。
撃てない銃を怖がる必要はない。エンジンをかけると車を急発進させた。
「「ぐがああ!」」
前に立っていた住民二人を轢いた。車体の下を肉の塊が転がっていく。
これで完全に交渉決裂だ。車を前後に急発進させて、剛田を取り囲もうとする住民達を妨害する。
素手で勝てるとは思わない。このまま援護するのが正解だ。
剛田が殴り飛ばし、蹴り飛ばした相手を車で轢いていく。
住民の数が減ってきた。このまま追加の住民を相手しても勝ち目はない。
剛田が二対一の状況で、背後に車を停止させると叫んだ。
「剛田、乗れ! 逃げるぞ!」
「何言ってんだ。これからだろう。うおおお!」
「あの野朗、死ぬ気かよ」
乗車拒否された。剛田が雄叫びを上げて、男二人に向かっていく。
片方の腹を殴って、顔面を殴って、もう片方が向かって来たら、髪を掴んで頭突きしている。
今まで我慢した戦闘を目一杯楽しんでいる。
「くっ、どうする」
逃げるべき状況だが迷ってしまう。剛田を一人で置いていけない。
今出来るのは他の住民が近づけないように、車で援護するしかない。
「ぐうぅぅ!」
突然けたたましい音が聞こえてきた。運転席側の扉がマシンガンで撃たれている。
頭を低くしてアクセルを踏んで車を走らせる。銃弾が追いかけてきた。
車の防弾ガラスにヒビが走って見えづらい。
「食糧に当てるなよ。逃したら、お前の肉で払ってもらうからな!」
「ひいいい!」
外を何とか見ると、犬石が背後に立つ住民に、無理矢理マシンガンを撃たされていた。
「あれをどうにかしないと」
やらないとやられる。ハンドルを回して、進行方向を犬石に変えた。
正面から銃弾が飛んでくるが、アクセルを踏み込んだ。
犬石の後ろには住民と横を向いた車がある。車には当てたくない。
こっちの車が壊れたら逃げきれなくなる。だけど、死んだら逃げらない。
ブレーキは必要ない。アクセルだけを踏んだ。
「ぐはぁ!」
衝突の強い衝撃が全身を襲った。激しく身体が揺さぶられる。
犬石と住民に激突して、車同士で挟んで押し潰した。
犬石の車がゴロゴロ転がることもなく、こっちの車も突き進むことなく止まった。
「はぁ、はぁ……」
頭がクラクラする。全身を殴られたみたいに身体が怠い。
だけど、早く車を乗り換えないといけない。
車が壊れたのか反応しない。運転席の扉は変形して開かない。
刀とハンドガンを持つと、後部座席の扉から外に出た。
待っていると住民達の聞き取り調査が終わったようだ。建物の前にいた住民が何人も向かってきた。
車の周囲を囲むように、十五人の住民が近づいてくる。あまり良い雰囲気じゃない。
「探している車の行き先が分かった。空港に入ったそうだ」
「本当か? 空港に車はなかったぞ」
俺よりも早く剛田が聞き返した。
「よく探したのか? こっちの情報は確かだ。女二人、子供二人が車に乗ったまま空港に入った。空港に入れる住民は死人だけだ。俺達の方には問題ないが、そっちの方には問題が起こったようだな」
撫子が子供を殺すとは思えない。
そんなはずないと否定しようとしたが、取り囲む住民の一人が言ってきた。
「これは大問題だ。お前達が誰も殺してないから特別に交渉していたが、状況が変わった。この島でも子供殺しは重罪だ。だが、責任さえ取ってくれればそれでいい。女二人を連れて来い。子供を二人産めば許してやる」
無茶苦茶な要求だ。子供が出来るまで何日かかると思っている。
当然断るつもりだが、剛田が住民の前に立って睨みを効かせて言った。
「まだ殺したと決まってないのに、無茶苦茶な要求だな」
「殺したと決まったようなものだろ? 死体が欲しくないのか? 必要なんだろ」
「女と俺達は関係ない話だろ。頭悪いのか? だったら俺の学校の奴らがやられた分、お前らを殴ってもいいことになるな。それでもいいのか?」
「はぁ? テメェーが三人殴ったの知ってんだぞ! そっちは関係あるだろ!」
「知らねえよ。証拠映像でもあんのかよ」
チンピラの喧嘩だが、確かに俺達には関係ない話だ。撫子達と交渉したいなら空港に行けばいい。
でも、これが嘘か本当か分からない。すでに人質として捕まっている可能性がある。
知らないフリをして、無茶な要求で交渉を決裂させたいだけかもしれない。
「だったらこのまま帰らせてもらう。剛田、車に乗れ。近づいたら撃ち殺す」
ハンドガンの銃口を向けて、住民達に警告した。空港に撫子がいるのか念入りに調べる。
二重扉には監視カメラがある。確認してもらえば、車が通ったのか分かる。
「待てよ。その銃が撃てないのは知っている。お友達が教えてくれたからな」
だけど、円状に取り囲んだ住民達は誰も怖がる様子がない。おかしそうに笑っている。
桃山達が話したみたいだが、本当に撃てるか撃てないかは、住民には分からないはずだ。
「試してみるか? 撃てるのに撃てないと教えたのかもな。俺は死体なら誰でもいいぞ」
「ガキが強がるなよ。ランプが赤色のままだ。緑色にならないと撃てないのを知らないのか?」
心臓がバクバク言っている。それでも平常心だと自分に言い聞かせる。
「へぇー、それは知らなかったな。最新の奴は赤色だと思っていた」
「じゃあ、どっちが最新の奴なのか試してみるか?」
住民達の顔は笑ったままだ。桃山達の銃を住民達は入手している。
電子銃のランプの色が赤ならオフ、緑ならオンになるのを知っている。
無駄な脅しはやめて、今すぐに車の中に逃げるしかない。
「その必要はない。道重、こっちの方が分かりやすくていい。飯と女が欲しけりゃ俺達を倒しな!」
「ぐがああ!」
住民が襲って来る前に、剛田が住民の頭に頭突きを食らわせた。
馬鹿野郎と叫びたいけど、状況は明らかに不利だった。
扉の開いている車に乗り込むと、急いで扉を閉めた。
「開けろ! 殺すぞ!」
「人質殺すぞ!」
開けたら、絶対に殺される。
取り囲んでいた住民が走ってくると、怒鳴りながら、車の防弾ガラスを銃で叩き始めた。
旅行者達から奪った使用期限が切れた銃だろうか。鈍器代わりに使っている。
撃てない銃を怖がる必要はない。エンジンをかけると車を急発進させた。
「「ぐがああ!」」
前に立っていた住民二人を轢いた。車体の下を肉の塊が転がっていく。
これで完全に交渉決裂だ。車を前後に急発進させて、剛田を取り囲もうとする住民達を妨害する。
素手で勝てるとは思わない。このまま援護するのが正解だ。
剛田が殴り飛ばし、蹴り飛ばした相手を車で轢いていく。
住民の数が減ってきた。このまま追加の住民を相手しても勝ち目はない。
剛田が二対一の状況で、背後に車を停止させると叫んだ。
「剛田、乗れ! 逃げるぞ!」
「何言ってんだ。これからだろう。うおおお!」
「あの野朗、死ぬ気かよ」
乗車拒否された。剛田が雄叫びを上げて、男二人に向かっていく。
片方の腹を殴って、顔面を殴って、もう片方が向かって来たら、髪を掴んで頭突きしている。
今まで我慢した戦闘を目一杯楽しんでいる。
「くっ、どうする」
逃げるべき状況だが迷ってしまう。剛田を一人で置いていけない。
今出来るのは他の住民が近づけないように、車で援護するしかない。
「ぐうぅぅ!」
突然けたたましい音が聞こえてきた。運転席側の扉がマシンガンで撃たれている。
頭を低くしてアクセルを踏んで車を走らせる。銃弾が追いかけてきた。
車の防弾ガラスにヒビが走って見えづらい。
「食糧に当てるなよ。逃したら、お前の肉で払ってもらうからな!」
「ひいいい!」
外を何とか見ると、犬石が背後に立つ住民に、無理矢理マシンガンを撃たされていた。
「あれをどうにかしないと」
やらないとやられる。ハンドルを回して、進行方向を犬石に変えた。
正面から銃弾が飛んでくるが、アクセルを踏み込んだ。
犬石の後ろには住民と横を向いた車がある。車には当てたくない。
こっちの車が壊れたら逃げきれなくなる。だけど、死んだら逃げらない。
ブレーキは必要ない。アクセルだけを踏んだ。
「ぐはぁ!」
衝突の強い衝撃が全身を襲った。激しく身体が揺さぶられる。
犬石と住民に激突して、車同士で挟んで押し潰した。
犬石の車がゴロゴロ転がることもなく、こっちの車も突き進むことなく止まった。
「はぁ、はぁ……」
頭がクラクラする。全身を殴られたみたいに身体が怠い。
だけど、早く車を乗り換えないといけない。
車が壊れたのか反応しない。運転席の扉は変形して開かない。
刀とハンドガンを持つと、後部座席の扉から外に出た。
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