18 / 26
第18話 薬師寺の妄想
しおりを挟む
♦︎雪村・視点♦︎
歩と母親が乗った車が遠さがっていく。
後部座席の薬師寺さんが、サバイバルナイフを子供二人に向けて笑っている。
そこまでする必要はない。子供二人が怖がっている。
「薬師寺さん、そんなことする必要ないからやめてください」
「フフッ。心配しなくても刺しませんよ。逃げたら駄目だと教えているだけです」
注意したけど、笑って冗談だと言われてしまった。
冗談でも言葉が通じない相手には、冗談だと分からない。
歩に頼まれたんだから、擦り傷一つ付けられない。
「だったらもう十分です。危ないからそれを仕舞ってください」
「は~い。フフッ。私はそんな怖い顔してる方が、子供達は怖いと思いますけどね」
「むっ!」
「誰の所為で怒っているの!」と言いたいけど、仲良くしないと上手くいかない。
遊びで来ているだけの薬師寺さんと違って、私と歩は絶対に失敗できない。
私達の将来がかかった大事な旅行なんだから。
「それにしてもちょっと変ですね……」
ナイフを鞘に仕舞ってくれたけど、薬師寺さんは子供達の顔をジッと見て、まだ何かやりたいみたい。
島の子供なんかに興味はないけど、このまま黙って待っているのも気まずい。とりあえず聞いてみた。
「何が変なんですか?」
「年齢です。あの女性十八歳前後ですよ。この大きさの子供がいるのは変です。お姉さんなんじゃないですか?」
「そうかもしれないですね。でも、母親でも姉でも家族です。気にしなくてもいいと思います」
私も若いとは思っていたけど、母親でも姉でも関係ない。
歩が戻って来たら、あの女に子供を返せばいい。
それで二度と会うことはない。
「えー、重要なことですよ。女性と子供の関係が分からないんです。大切じゃないなら、道重君が危険です。反撃されて殺されるかもしれませんよ」
「そうかもしれないけど、動けない女に歩が殺されるとは思えません」
「そうでしょうか? 簡単な英語が使えるなら、誘惑することは出来ますよ。トイレに行きたいとか言って、服を脱がせてもらい、そのまま性行為も……」
「あ、歩はそんなことしません!」
くだらない低俗な妄想に、思わず声を上げてしまった。
薬師寺さんと話していると、胸の中にザワザワとした不安な気持ちが膨らんでいく。
今からでも追いかければ、歩の車に追いつけると思う。
歩が喜んでくれるとは思えないけど、不安な気持ちは落ち着くと思う。
でも、そんなことする必要はない。私は歩を信じて待つと決めている。
歩のことを知らない薬師寺さんの言葉に惑わされたりしない。
あんな女よりも私の方が可愛い。絶対に大丈夫。
「まあまあ可能性の話です。それに人は見かけによりませんよ」
「くだらない可能性です。私は歩を信じています。だから平気です」
「フフッ。高校生なんて野獣と一緒ですよ。婚約者がいなければ、三秒で豹変します」
「歩は人間です。野獣じゃないです。私の婚約者を馬鹿にしないでください」
それに薬師寺さんのは完全な妄想だ。それだけは自信を持って言える。
歩が本当に野獣なら、今まで私が襲われていないのはおかしい。
二人っきりになったことは何度もあった。抱き締められたことも、キスもない。
そんな奥手な歩が、今日会ったばかりの女に手を出すわけがない。
「人間です、野獣じゃないです……クッフフフ! ご、ごめんなさい、もう我慢できなくて」
「何がおかしいんですか?」
本気で怒っているのに、薬師寺さんが口を隠して笑い始めた。
何もおかしなことは言っていない。
「ご、ごめんなさい。ふぅー、もう大丈夫です。道重君とラブラブで羨ましいです。ムキになって否定する姿が可愛くて、ついつい冗談が止まらなくなりました。ごめんなさい」
「な、ななっ! わ、笑えない冗談を冗談とは言いません!」
薬師寺さんが両手を合わせて、可愛く舌を出して謝ってきた。
顔が一瞬で恥ずかしさで真っ赤になる。可愛くしても許さない。
子供達だけじゃなく、私にも悪い冗談を言って揶揄っていた。
「まあまあ、そんなに怒らないで、皆んなでアメでも舐めて気長に待ちましょう」
「くぅぅ!」
「誰の所為で怒っているの!」と言いたいけど、子供達の時と一緒だ。
我慢して渡されたアメ玉を受け取ると、子供達と一緒に食べた。
口の中にレモン味が広がっていくけど、こんなアメ玉一個で許さない。
歩と母親が乗った車が遠さがっていく。
後部座席の薬師寺さんが、サバイバルナイフを子供二人に向けて笑っている。
そこまでする必要はない。子供二人が怖がっている。
「薬師寺さん、そんなことする必要ないからやめてください」
「フフッ。心配しなくても刺しませんよ。逃げたら駄目だと教えているだけです」
注意したけど、笑って冗談だと言われてしまった。
冗談でも言葉が通じない相手には、冗談だと分からない。
歩に頼まれたんだから、擦り傷一つ付けられない。
「だったらもう十分です。危ないからそれを仕舞ってください」
「は~い。フフッ。私はそんな怖い顔してる方が、子供達は怖いと思いますけどね」
「むっ!」
「誰の所為で怒っているの!」と言いたいけど、仲良くしないと上手くいかない。
遊びで来ているだけの薬師寺さんと違って、私と歩は絶対に失敗できない。
私達の将来がかかった大事な旅行なんだから。
「それにしてもちょっと変ですね……」
ナイフを鞘に仕舞ってくれたけど、薬師寺さんは子供達の顔をジッと見て、まだ何かやりたいみたい。
島の子供なんかに興味はないけど、このまま黙って待っているのも気まずい。とりあえず聞いてみた。
「何が変なんですか?」
「年齢です。あの女性十八歳前後ですよ。この大きさの子供がいるのは変です。お姉さんなんじゃないですか?」
「そうかもしれないですね。でも、母親でも姉でも家族です。気にしなくてもいいと思います」
私も若いとは思っていたけど、母親でも姉でも関係ない。
歩が戻って来たら、あの女に子供を返せばいい。
それで二度と会うことはない。
「えー、重要なことですよ。女性と子供の関係が分からないんです。大切じゃないなら、道重君が危険です。反撃されて殺されるかもしれませんよ」
「そうかもしれないけど、動けない女に歩が殺されるとは思えません」
「そうでしょうか? 簡単な英語が使えるなら、誘惑することは出来ますよ。トイレに行きたいとか言って、服を脱がせてもらい、そのまま性行為も……」
「あ、歩はそんなことしません!」
くだらない低俗な妄想に、思わず声を上げてしまった。
薬師寺さんと話していると、胸の中にザワザワとした不安な気持ちが膨らんでいく。
今からでも追いかければ、歩の車に追いつけると思う。
歩が喜んでくれるとは思えないけど、不安な気持ちは落ち着くと思う。
でも、そんなことする必要はない。私は歩を信じて待つと決めている。
歩のことを知らない薬師寺さんの言葉に惑わされたりしない。
あんな女よりも私の方が可愛い。絶対に大丈夫。
「まあまあ可能性の話です。それに人は見かけによりませんよ」
「くだらない可能性です。私は歩を信じています。だから平気です」
「フフッ。高校生なんて野獣と一緒ですよ。婚約者がいなければ、三秒で豹変します」
「歩は人間です。野獣じゃないです。私の婚約者を馬鹿にしないでください」
それに薬師寺さんのは完全な妄想だ。それだけは自信を持って言える。
歩が本当に野獣なら、今まで私が襲われていないのはおかしい。
二人っきりになったことは何度もあった。抱き締められたことも、キスもない。
そんな奥手な歩が、今日会ったばかりの女に手を出すわけがない。
「人間です、野獣じゃないです……クッフフフ! ご、ごめんなさい、もう我慢できなくて」
「何がおかしいんですか?」
本気で怒っているのに、薬師寺さんが口を隠して笑い始めた。
何もおかしなことは言っていない。
「ご、ごめんなさい。ふぅー、もう大丈夫です。道重君とラブラブで羨ましいです。ムキになって否定する姿が可愛くて、ついつい冗談が止まらなくなりました。ごめんなさい」
「な、ななっ! わ、笑えない冗談を冗談とは言いません!」
薬師寺さんが両手を合わせて、可愛く舌を出して謝ってきた。
顔が一瞬で恥ずかしさで真っ赤になる。可愛くしても許さない。
子供達だけじゃなく、私にも悪い冗談を言って揶揄っていた。
「まあまあ、そんなに怒らないで、皆んなでアメでも舐めて気長に待ちましょう」
「くぅぅ!」
「誰の所為で怒っているの!」と言いたいけど、子供達の時と一緒だ。
我慢して渡されたアメ玉を受け取ると、子供達と一緒に食べた。
口の中にレモン味が広がっていくけど、こんなアメ玉一個で許さない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる