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第15話 伝言ゲーム

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 ♦︎道重・視点♦︎

「水、water、男、man、女、woman、剛田、you?」

 何かの伝言ゲームみたいだ。後部座席で剛田が水、自分、母親と指差している。
 何をしたいのか分かるが、道案内させるのに母親の名前を知る必要はない。

「……ヴェロニカ」
「おお、ヴェロニカ! 剛田、japan、道重、japan、ヴェロニカ、you?」
「……xxxxxxxxxxxxxxxxxxx」

 苦労した結果、母親の名前が分かった。
 今度は自分と俺を指差して、長い国籍も分かったが、何と言ったのか分からない。
 国籍ではなく、長い悪口を言われた気がする。

「XXXXX? XXXX」
「XX! XXXXXXXXXXXXxXX」
「XXXXXXxXX。XXXXXXXXXXXX。XXXX」
「ん? ちょっと待て! なんて言っているのか分かるのか?」

 そう思っていたんだが、剛田とヴェロニカが会話を始めた。
 英語じゃないのは分かる。剛田に言葉が分かるのか聞いた。

「ああ、ルクス語だ。欧州連合に吸収されて無くなった国だ。歴史の授業で習っただろ」
「そのぐらいは知っている。何で話せるんだ?」

 翻訳機でもなければ、ルクス語なんて誰も分からない。
 その前にルクス語を話す人間が近くにいないから、翻訳機の必要もない。

「そんなの決まっている。色んな国の奴らと戦う時に、言葉が分からないと楽しめないだろ」

 理由は馬鹿だが、頭はある意味天才だ。
 高度な翻訳機の登場で、世界の言語はほぼ共通語になった。
 自国の言葉で、普通に他国の人間と会話できるようになった。
 そんな時代に不必要な言語を勉強する奴がいるとは思わなかった。
 馬に乗るのと同じぐらい、馬鹿馬鹿しい程の時間の無駄だ。

「だったら、墓があるのか聞いてくれ」
「了解だ。だが、強い奴の居場所も聞かせてもらう。俺の用はそっちだからな」
「ああ。何でも好きに聞いてくれ」

 会話が出来るのは助かる。剛田がヴェロニカと会話を始めた。
 なんて言っているのか分からないが、手足を縛るタオルを解いている。
 逃げないから解いてくれと、お願いされたのだろう。

「大体の事情は分かった。二ヶ月前に島に来たそうだ。一緒にいた子供はこの島の子供で、世話を任されたそうだ。ついでに十七で俺達よりも年下だ」
「道理で若いわけだ。母親じゃなかったんだな」

 剛田の口から、ヴェロニカが話したことを聞かされていく。
 俺が子供のことを黙っていたから、機嫌が悪そうだ。

「子供まで人質にするとは、お前も屑野朗だな。まあいい。子供は殺さないと約束しておいた。約束破ったら、俺がお前を殺す。それでいいな?」
「ああ。その時は好きにしてくれ」

 剛田が怖い目付きで脅してきたが、子供二人を殺すつもりはない。
 それに近くにいない人間を殺すことは出来ない。問題ないと答えた。

「それならいい。ヴェロニカは移民一世だ。島のことはよく分からないそうだ。この島を実質的に支配しているのは、移民の二世や三世らしい」
「つまり、そいつらと交渉すればいいのか」

 どこにでも支配する人間と、支配される人間がいるのは同じだな。
 金がないなら、食糧と力を使って支配しているのだろう。

「まあそうだな。人種差別せずに平和的に島を管理しているそうだ。食糧の奪い合い、殺し合いも禁止しているらしい。思ったよりもマトモだな」
「その話が本当なら、俺達は平和な暮らしを壊すクソ野朗だな」

 平和な島で暮らす住民を銃で襲撃する姿は、どう考えても低脳な野蛮人がやることだ。
 
「そう言われると耳が痛いが、食糧とヌイグルミを置いて帰るつもりはないぜ」
「俺もだ。次の旅行者が善人とは思えないからな」

 だが、剛田は略奪行為をやめるつもりはないらしい。
 そもそも完璧な善人なら、こんな島には送られない。来たいとも思わない。
 この島にいる人間は、殺される理由を大なり小なり持っている。
 自分の所為だったり、親の所為だったりと理由はある。
 この島に生まれたというだけの、そんな理不尽な理由もある。

「この道を進んでくれ。この先に食糧が落とされる広場があるそうだ。交渉するなら、そこの住民とするしかないそうだ」
「分かった、行ってみる。桃山達が暴れていたら、交渉は難しそうだけどな」
「その時は死体が山程あるだろ。お前にはその方が都合が良いだろ」
「確かにその通りだ」

 ヴェロニカから話を聞いて、剛田は道を真っ直ぐ進むように言った。
 桃山達がどこに向かったか分からないが、アイツらが十字路の右と左を選ぶとは思えない。
 合流できれば戦力が増える。ヴェロニカを渡せと言いそうだが、俺達の獲物だと言えば問題ないだろう。

 目的地が決まり、止まっていた車が動き出した。
 アクセルを踏んで、惨劇の可能性がある広場を目指した。

 ♦︎桃山・視点♦︎

「うぐっ……どこだ、ここは?」

 身体中が痛いが死んではいないようだ。
 雑草が生えた建物の中で目覚めると、手足に手錠が付けられていた。
 それ以外に気になるのは、顔面がヒリヒリするぐらいだ。

「ようやく起きたか。自分で起きれて良かったな」
「……誰だ、お前?」

 ここがさっきの建物なのか知らないが、さっきの黒髪の白人じゃないのは分かる。
 日本語で短い黒髪の中国系の顔の男が話してきた。手には長いナイフを持っている。
 料理用には見えないが、俺の料理用かもしれない。

「ぐふっ!」
「誰ですかだ。次はナイフをぶち込むぞ」
「ごほぉ、ごほぉ!」

 口の利き方が悪かったらしい。男が腹に蹴りをぶち込んできた。
 どうせ殺すつもりだ。さっさと殺してほしいが用が済むまで無理だろう。

「おい、俺の仲間はどうした? もう殺したのか?」
「カッ。いい度胸してやがる。泣き叫ぶのが楽しみだ。お前の仲間はまだ無事だ。一人は焼肉にしている。肉が足りない時はお前の出番だ。楽しみに待っていろ」

 咳き込むのをやめて、男に聞いた。今度は蹴りは必要ないらしい。
 笑いながら教えてくるが、聞きたくない情報だ。
 焼肉パーティーに食材として参加させられるらしい。
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