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第1話 殺処分島へ
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♦︎道重・視点♦︎
日本から離れて十何時間、未だに退屈な空の旅が続いている。
飛行機を乗り継ぎ、現在は定員三十人弱の小型旅客機の小窓から外を眺めている。
前は空、下は海、青と白しか見えない退屈な世界だ。
「薬師寺さんも行くなんて思わなかった。女子は私一人だけだと思っていたから……」
「ええ。変わった場所の方が良い経験になると思って。雪村さんは道重君が行くからですか?」
隣の席に座る婚約者の雪村撫子が、前の席に座るクラスメイトの薬師寺瑠華に話しかけた。
安心したように話しかけたと思ったら、すぐに不安そうな表情に変わった。
嫌なら来なくてもいいと言ったのに、それでも撫子は付いてきた。
「俺は無理して来なくてもいいと言ったのに、コイツがどうしても来ると、言うことを聞かなかったんだ。危険なんだから、フェンスの外で待ってていいからな」
長い黒髪の撫子が何か変なことを言う前に、桜色の髪と眼鏡の薬師寺に言った。
狭い機内で婚約者アピールされたくない。
「ううん、大丈夫。歩が怪我しないように、私も頑張る」
「頑張って付いて来られる方が迷惑なんだがな」
「フフッ。何だか、二人だけ新婚旅行みたいで羨ましいですね」
結局、新婚旅行にされてしまったが、あながち間違いではないから否定できない。
これから向かう島の名前は『殺処分島』だ。人間が人間を合法的に殺せる地獄の楽園だ。
俺の両親が高校三年の修学旅行中に、この殺処分島で結婚した。撫子が付いてきた理由がこれだ。
俺の両親に気に入られようと必死だ。
「羨ましいなら、俺が新婚旅行に付き合ってもいいぜ。ホテルで楽しもうぜ!」
女子二人が楽しそうに話していたからか、三つ後ろの席に座る桃山和人が話しかけてきた。
短い青髪を芝生のように立てて、狐のような鋭い目をしている。
旅行の開放感からか薬師寺を性的に誘っている。
「ごめん、遠慮しておくね。桃山君、激しそうだから動けなくなると困るから」
薬師寺は両手を合わせて断ると、さらに傷口に塩を塗るような言葉を付け加えた。
明らかに気持ち悪いから無理、と言っているようなものだ。
「だぁはははは! 確かにコイツ、ゴリラみたいに激しそうだ。絶対にやめた方がいい!」
「誰がゴリラだよ! 俺は紳士なんだよ。嘘だと思うなら試してみないか? 後悔させないからよ」
桃山の周囲にいる仲間三人が大笑いしているのに、桃山はもう一度薬師寺を誘っている。
しつこいゴリラは嫌われるが、ゴリラは馬鹿だから分からない。
「うーん、魅力的なお誘いだけど、新婚旅行中に未亡人になりたくないかな。帰りの飛行機でもう一度誘ってみて」
薬師寺は少し考えるフリをした後に、両手を合わせてやっぱり断った。
「あちゃー。こりゃ死亡フラグの方が立っちゃったな。桃山、お前が立派に戦ったって、クラスの皆んなに報告してやるよ。安心して成仏していいからな」
「なんまいだぁ~。なんまいだぁ~」
フラれた桃山を慰めもせずに、薬師寺のように両手を合わせて、仲間三人が念仏を唱え始めた。
馬鹿らしいが、コイツら四人組はいつも連んで馬鹿をやっている。
沢山ある旅行先の候補から、殺人旅行を選んだのも馬鹿をやりたいからだろう。
「おい、マジでやめろよ。本当に死んだらどうすんだよ!」
「だぁははははは~!」
桃山が怒って仲間三人を殴り始めた。
冗談だと笑っていられるのは、今のうちだけかもしれない。
飛行機に乗っているのは制服を着た学生八人だけだ。
帰りに何人乗っているか分からない。
殺処分島は殺人が楽しめる島だが、逆に考えると殺される危険もある島だ。
人口増加、高齢化社会、貧困層への支援から死援、人間至上主義から自然至上主義への転換、宗教の廃止。
様々な理由で現代は、一部の人間に対しての人間狩りが合法化された。
殺処分島は死刑宣告を受けた人間達が、世界各国から送られる死の島だ。
その中で俺達が向かうのは、軽犯罪や貧困層が送られる比較的安全な島『エリア1』だ。
それでも武装した住民が数百人はいる。生きて帰れる保証はどこにもない。
そんな危険な島に俺は自分の意思ではなく、親の意思で向かっている。
俺にとって、この殺人修学旅行は楽しいものではない。
日本から離れて十何時間、未だに退屈な空の旅が続いている。
飛行機を乗り継ぎ、現在は定員三十人弱の小型旅客機の小窓から外を眺めている。
前は空、下は海、青と白しか見えない退屈な世界だ。
「薬師寺さんも行くなんて思わなかった。女子は私一人だけだと思っていたから……」
「ええ。変わった場所の方が良い経験になると思って。雪村さんは道重君が行くからですか?」
隣の席に座る婚約者の雪村撫子が、前の席に座るクラスメイトの薬師寺瑠華に話しかけた。
安心したように話しかけたと思ったら、すぐに不安そうな表情に変わった。
嫌なら来なくてもいいと言ったのに、それでも撫子は付いてきた。
「俺は無理して来なくてもいいと言ったのに、コイツがどうしても来ると、言うことを聞かなかったんだ。危険なんだから、フェンスの外で待ってていいからな」
長い黒髪の撫子が何か変なことを言う前に、桜色の髪と眼鏡の薬師寺に言った。
狭い機内で婚約者アピールされたくない。
「ううん、大丈夫。歩が怪我しないように、私も頑張る」
「頑張って付いて来られる方が迷惑なんだがな」
「フフッ。何だか、二人だけ新婚旅行みたいで羨ましいですね」
結局、新婚旅行にされてしまったが、あながち間違いではないから否定できない。
これから向かう島の名前は『殺処分島』だ。人間が人間を合法的に殺せる地獄の楽園だ。
俺の両親が高校三年の修学旅行中に、この殺処分島で結婚した。撫子が付いてきた理由がこれだ。
俺の両親に気に入られようと必死だ。
「羨ましいなら、俺が新婚旅行に付き合ってもいいぜ。ホテルで楽しもうぜ!」
女子二人が楽しそうに話していたからか、三つ後ろの席に座る桃山和人が話しかけてきた。
短い青髪を芝生のように立てて、狐のような鋭い目をしている。
旅行の開放感からか薬師寺を性的に誘っている。
「ごめん、遠慮しておくね。桃山君、激しそうだから動けなくなると困るから」
薬師寺は両手を合わせて断ると、さらに傷口に塩を塗るような言葉を付け加えた。
明らかに気持ち悪いから無理、と言っているようなものだ。
「だぁはははは! 確かにコイツ、ゴリラみたいに激しそうだ。絶対にやめた方がいい!」
「誰がゴリラだよ! 俺は紳士なんだよ。嘘だと思うなら試してみないか? 後悔させないからよ」
桃山の周囲にいる仲間三人が大笑いしているのに、桃山はもう一度薬師寺を誘っている。
しつこいゴリラは嫌われるが、ゴリラは馬鹿だから分からない。
「うーん、魅力的なお誘いだけど、新婚旅行中に未亡人になりたくないかな。帰りの飛行機でもう一度誘ってみて」
薬師寺は少し考えるフリをした後に、両手を合わせてやっぱり断った。
「あちゃー。こりゃ死亡フラグの方が立っちゃったな。桃山、お前が立派に戦ったって、クラスの皆んなに報告してやるよ。安心して成仏していいからな」
「なんまいだぁ~。なんまいだぁ~」
フラれた桃山を慰めもせずに、薬師寺のように両手を合わせて、仲間三人が念仏を唱え始めた。
馬鹿らしいが、コイツら四人組はいつも連んで馬鹿をやっている。
沢山ある旅行先の候補から、殺人旅行を選んだのも馬鹿をやりたいからだろう。
「おい、マジでやめろよ。本当に死んだらどうすんだよ!」
「だぁははははは~!」
桃山が怒って仲間三人を殴り始めた。
冗談だと笑っていられるのは、今のうちだけかもしれない。
飛行機に乗っているのは制服を着た学生八人だけだ。
帰りに何人乗っているか分からない。
殺処分島は殺人が楽しめる島だが、逆に考えると殺される危険もある島だ。
人口増加、高齢化社会、貧困層への支援から死援、人間至上主義から自然至上主義への転換、宗教の廃止。
様々な理由で現代は、一部の人間に対しての人間狩りが合法化された。
殺処分島は死刑宣告を受けた人間達が、世界各国から送られる死の島だ。
その中で俺達が向かうのは、軽犯罪や貧困層が送られる比較的安全な島『エリア1』だ。
それでも武装した住民が数百人はいる。生きて帰れる保証はどこにもない。
そんな危険な島に俺は自分の意思ではなく、親の意思で向かっている。
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