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第3話 男の娘誕生

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「ねぇ、どうして僕と契約したの? 本当にお母さんのミルクを狙っているんじゃないよね?」

 階段は凄く長い。上るのに時間がかかるので、妖精リザベルに僕と契約した理由を聞いた。
 妖精が一度に契約できるのは一人だけだ。
 僕のお母さんは美人だけど、美人のお母さんなら町を探せば他にもいる。
 僕がこんな変態妖精の被害に遭った理由が知りたい。

「まあ、飲んでいいなら飲むよ。でも、理由はお前がエリックの息子だからだ」
「えっ? お父さんの事を知っているの⁉︎」

 飲むつもりがあるのにも驚いたけど、リザベルの口からお父さんの名前が出てきて驚いた。
 まさかとは思うけど、こんな変態妖精とお父さんが契約していたとは思いたくない。

「ああ、知ってるぜ。エリックが子供の頃に会っているからな」
「それって……お父さんと契約してたって事?」
「違う。エリックと契約していた妖精と友達なんだ。その妖精に頼まれて、お前と契約したんだぜ」
「そんなぁ……」

 ……その妖精、お父さんにどんな恨みがあるんだよ。
 変態妖精とお父さんが契約してないと知って、少しホッとしたけど、変態の友達は変態だ。
 お父さんと契約していた妖精がお父さんの事が嫌いなのか知らないけど、コイツに頼んだみたいだ。
 どう考えても絶対に嫌がらせだ。

「おいおい、何でガッカリするんだよ? 俺はベテラン妖精なんだぜ。一人、二人としか契約した事がない新米妖精よりは全然頼りになるんだぜ」
「はぁぁ、全然信用できないよ」

 リザベルは優秀だと言っているけど、どう見ても優秀には見えない。
 それに不満があっても、もう契約したからどうする事も出来ない。
 お父さんの子供に生まれてしまった不運を呪うしかない。

「それで僕は夢界で何をすればいいの? 仕事をするんだよね?」

 具体的に夢界で何をするのか分からない。
 ある程度はお母さんに聞いたけど、「あとは行ってからのお楽しみ」と全部は教えてくれなかった。
 自称ベテラン妖精ならば、知っているはずだ。

「それは着いてからのお楽しみだ、と言いたいけどいいぜ。夢界には『夢見の館』という特別な館がある。そこには国中の夢が集まる。その夢の中が仕事場になる」
「それは知っているよ。『夢見の扉』に入って、夢を良い夢に変えるんだよね?」

 リザベルが教えてくれた事はお母さんに聞いている。
 夢見の館の夢見の扉に入ると、そこで『夢結晶』が手に入る。
 夢結晶は夢界でお金の代わりとして使用できて、そのお金で買った物を夢界から持ち帰るのが仕事だ。

「何だ、そこまで知っているなら問題ないな。夢の形は千差万別だ。似たような夢はあるが同じ夢はない。人間一人一人の違いを説明するのは難しいだろう? 夢はそれと同じだ。具体的にどんな事をすればいいのか説明するのは無理だ」
「ふぅーん、優秀だと言ってたのに何も分からないんだね。口だけなんだね」

 ベテラン妖精の分かりやすい説明を期待したのに、難しいから出来ないそうだ。
 人の家に上がり込む事以外に出来る事があるのだろうか。

 階段を上っていくと白い雲の中に入った。
 階段を挟むようにフワフワの雲の壁が続いている。
 白い雲を揉み揉み触っていると、リザベルが聞いてきた。

「そろそろ扉に到着するぞ。オッパイボイーンの美少女になる準備はいいな?」
「僕はそんな大人にはならないよ」
「勿体ない。夢の世界なんだぞ。性別さえも変える事が出来るんだからな」
「それに何か意味があるの?」

 僕が想像する大人の姿は15歳ぐらいで、身長は160センチ以下ぐらいで、平均的な筋肉でいい。
 髪も水色髪のショートヘアのままでいいし、服も派手なものよりも動きやすい方がいい。
 それに女の子になって髪を伸ばしたり、スカートを履くのが楽しいとは思えない。

「あるに決まっているだろう! 夢の中でしか出来ない事があるんだ! やらないなんて損だ!」
「結局、元に戻るんだから一緒だよ。それよりもあれが夢界の扉なの?」

 リザベルが力強く力説するけど、説得力は全然ない。
 もしかすると、僕にお母さんそっくりの女の子になってもらって、ミルクを飲みたいのかもしれない。
 ミルクが出るはずないけど、身の危険を感じるので、変態妖精とはこれ以上話したくない。
 階段の先に見える白い鉄柵の扉を指差して、出口なのか聞いた。

「ああ、あの扉を通ったら変更は出来ないからな。今からでも美人の女の子になってもいいんだぞ」
「絶対にならないから早く通ろうか」

 美人の女の子と言う時点で危険しか感じない。階段を駆け上がって扉の前に立った。
 扉の先には緑の丘が見える。丘の先には大きな白い城のようなものが見える。

「よいしょ、よいしょ……ふぅー、到着と」

 白い鉄柵扉をギィーと両手で押し開いて扉を通って、夢界の緑色の地面に足を付けた。
 すると、僕の身体と着ている服がハッキリと変化していく。
「おお!」と声を上げて喜んだ。身長がぐんぐん伸びていく。身体全体が大きくなっていく。
 
「……えっ? な、何だよ、これ?」

 でも、変化が終わると異常事態に気付いてしまった。
 僕がなりたかった姿と全然違う姿になっている。

「何で、スカート履いてるんだよぉー⁉︎」

 短い黒スカートを掴んで叫んでしまう。
 水色髪は肩まで届くセミロングヘアで、胸には柔らかい二つの山が出来ている。
 上着はフードが付いた長袖の白い毛皮で、胸の中心にチャックが付いている。
 生地の触り心地は猫を撫でているみたいに気持ち良い。

 短い黒スカートを履いている下半身はスースーする。
 薄い生地の長い黒靴下は太腿の中途半端な所で止まっている。
 靴は白い紐付きの茶革のブーツを履いている。
 下着は上は黒いシャツと白い胸用下着を着ているけど、下は白い女性用下着を履いているだけだ。

「何なんだよ、これ⁉︎」
「おお! 可愛いじゃないか。やっぱり女の子になりたかったんだな」
「違うよ! 何なんだよ、これ!」

 何度触っても、胸にはムニュと柔らかい塊が付いてある。
 太った人のお腹みたいに胸だけが太っている。

「どれどれ、調べてあげましょう……」
「にゃ⁉︎」

 混乱しているのに、さらに変態妖精が混乱させてくる。
 目の前に立つと少ししゃがんで、目線を胸の位置に合わせると、両手で僕の胸をムニュムニュと揉み始めた。

「B……いや、Cだな。間違いない」
「にゃあああぁー‼︎ な、何すんだよぉー‼︎」

 恥ずかしさと怒り以外に何も感じなかった。
 絶叫しながら怒りの鉄拳をクズ妖精の左頬に向かって振り抜いた。
 だけど、変態妖精の素早い動きによって、右拳は簡単に避けられてしまった。

「おっとと、いきなりどうしたんだ? 判定が気に入らなかったのか?」
「どうしたって、こっちの台詞だよ⁉︎ 何、揉んでだよ⁉︎」
「えっ? 『何だよ、これ?』って聞くから調べたんだよ。間違いなく、Cはある。人に見せられる大きさだぞ」
「はぁ? そんなの聞いてないよ! というか見せないよ! 何で、女の子になっているのか聞いてんだよ!」

 地面を右足でダァン、ダァンと何度も強く踏み付けて、ド変態エロクズ妖精に怒って聞いた。

「ああ、そっちね。俺が女の子が良いから変更させてもらった」
「やっぱりお前の仕業かぁー‼︎ 死ね死ね死ねぇー‼︎」

 原因が分かったから殴り掛かった。左右の拳を変態妖精の腹を狙って連続で振り回す。

「おっとと、やる気満々だな。よぉーし、このまま街まで行くから、しっかり付いて来るんだぞぉー」

 だけど、変態妖精は素早いからやっぱり避けられてしまう。
 それどころか遠くに見える街に向かって走り出した。
 当然、生きて逃すつもりはないから追いかける。

「はぁ、はぁ、息が苦しい……?」

 長い階段を上っている時は全然疲れなかった。
 体力が永遠に続くなら、絶対に逃がさない自信がある。
 でも、全力疾走でリザベルを追いかけていると、すぐに呼吸が苦しくなってきた。

「その身体に慣れてないんだよ。しばらくは誰でもそんな感じだぜ」
「くぅー!」

 疲れて休憩していると、汗一つ流していないリザベルが戻ってきた。
 悔しいけど、自分の身体じゃないみたいに上手く動かせない。
 とくに胸の二つの塊がプヨプヨ揺れて、身体から引き千切れて落ちそうで怖い。

「まあ、ゆっくり歩いて行くしかないな。あと夢の中で死んだら、契約は強制解除されるから注意するんだぞ。そしたら、二度と夢界には来れなくなるからな」
「うぐっ、そんなの知っているよ」

 目の前でリザベルが教えてくるけど、それはお母さんから聞いているから知っている。

「それは良かった。つまりは俺を怒らせたらどうなるか分かっているって事だよな?」
「にゃ⁉︎ やっぱり、僕に酷い事をする目的で連れて来たんだな!」

 変態妖精がニヤリと不気味な笑みを浮かべて、両手の手の平を向けてきた。
 つい反射的に胸を両手で隠してしまったけど、僕は男の子だ。隠す場所が違う。
 そんな僕を笑いながら、リザベルは右手だけをさらに伸ばしてくる。

「ひぃっ!」

 ……揉まれる!
 目を閉じて、怖くて悲鳴を上げた。でも、襲うつもりはないみたいだ。何もしてこない。
 恐る恐る目を開けると、リザベルの右手は僕の前で止まっていた。

「そんなつもりはねぇよ。仲良くしようって事だ」

 ただの握手だった。今時、握手で仲直りとかしないけど、しないと終われないみたいだ。
 仕方なく、リザベルの右手を握って握手した。

「よし、これで問題なしだ。じゃあ、さっさと街まで行こうぜ」
「むぅー!」

 リザベルの中では、これで仲直りが出来たみたいだ。
 僕はまだ勝手に女の子にされた事を怒っているけど、楽しそうに街に向かって歩き出した。
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