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26日目

母親の部屋・国家軍師

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 ベアトリスにお金を払って、カノンは服を着た。
 髪や肌がガラス細工のように触り心地が良い。
 お人形さんになった気分だ。

「姉様は何時までやるつもりなんですか?」

 お客様から料金を前払いで集めている、ベアトリスにカノンは聞いた。

「もっ、もっと罵るように……」
「この牝豚!」

 ミランダは風呂場で寝ている女性を、足で踏んで磨いている。
 あれは特別料金は要らないらしい。色々なお客様がいる。

「昨日は疲れるまでやっていました。今日は来ている人が終われば帰ると思います」
「そうですか。だとしたら、長くなりそうですね」

 全員が終わるまでなら、一人5分と考えても、4時間ぐらいはかかりそうだ。
 浴場の外には50人ぐらい並んでいた。まだ人が増えると考えると、もっとかかりそうだ。
 ミランダは『期間限定今日まで』とお客様に考える時間も与えない。

 ルセフ達は今日は家で解体をやっている。
 ルセフが解体したヘルハウンドだけが、金稼ぎ勝負の金額に加えられる。
 下手に手伝っても、妨害する結果になってしまう。

「うーん、よし。あれをしましょう」

 このまま浴場にいるのは退屈だ。カノンは考えた結果、屋敷に帰ることにした。
 ベアトリスに伝えると、一人で帰るのは危ないと言われてしまった。
 本当に危ないのは怒った女性達に、ミランダが浴槽に沈められないかだ。

 カノンは屋敷に帰ると、まずは訓練所に向かった。
 ドラゴンとパトラッシュが進化可能だったから、進化させて、伝説の実を与えた。
 この後に二匹と一緒に外出する可能性がある。最大レベルを上げさせた。

 屋敷に入ると目的地の部屋を目指して、廊下を通って、階段を上っていく。
 ちょっと豪華な扉の前に到着すると、軽く叩いて呼びかけた。

「お母様、カノンです。聞きたいことがあります」
「入りなさい」

 母親の部屋にお邪魔すると、カノンは聞いてみた。

「失礼します。お母様、廃都ジンムグリは、どこの貴族が治めているんですか?」
「……いきなり何ですか? 知りたいことがあるのなら、まずは自分で調べなさい」

 予想外の質問にロクサーヌは、手に持っていたエリック酒の売上げ報告書を机に置いた。
 机の上にはお見合いの申し込みもあるが、残念ながら、カノンのだけはない。
 長女と次女が凄いジョブを貰い、三女はジョブ無しの噂が広がっている。

「もちろん調べました。他国の何たら侯爵の領地で、火竜王と四匹の火竜に襲われて、どこかに逃げたそうです」

 そんな噂があることをカノンは知らないが、廃都のことは歴史図鑑で調べておいた。
 何も知らずに母親に聞けば、叱られると分かっているからだ。
 堂々と覚えた知識を聞かせてあげた。

「はぁー。それを調べたとは言いません。海向こうのガルディンガル王国のグスタフ侯爵です。火竜が何匹いたのか知りませんが、事実上放棄された領地です。そんなに歴史の勉強がしたいんですか?」
「お勉強は嫌いです。廃都の魔物を倒したら、貰えるのか聞きに来ました」

 お馬鹿な娘の質問に、ロクサーヌは溜め息をついているが、まだまだ質問は続く。
 今度は一番知りたいことを聞いている。

「あなたは国家軍師にでもなりたんですか?」
「何ですか、それ?」
「はぁー」

 馬鹿な娘に馬鹿な質問をしてしまった。カノンが首を傾げている。
 ロクサーヌは考えると、娘にも分かるように話してみた。

「戦略的に貰えるかなら、事実上支配すれば可能です。魔物を倒したから貰えますか? なんてガルディンガル王国に手紙を送るのは、愚か者のすることです。欲しいならならず者を大量に用意して、この国とは無関係な人間を装って住み着くのが効果的です」
「なるほど。魔物のように力尽くで奪い取れですね」
「端的に言えばそうですね。魔物に国際関係は関係ありません。こんなことを聞きに来たんですか?」

 娘が多少は理解できたようで、ロクサーヌは少しは安心したようだ。
 だけど、娘が廃都にそこまで興味があるとは思えない。
 部屋にやって来た本当の理由があるのか聞いている。

「はい、そうです。お母様のお陰で助かりました。今から戦略的に支配して来ます」

 もちろん本当の理由なんかない。カノンは母親にお礼を言うと、部屋から出て行った。

「……あの子は駄目ね。どこかの伯爵の遠縁の五男ぐらいに嫁がせようかしら」

 カノンがいなくなると、ロクサーヌは呆れながらも、机のお見合い写真を手に取った。
 お馬鹿な三女の使い道を、若いうちに早めに考えた方が良さそうだ。
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