47 / 121
11日目
和解・父親再就職
しおりを挟む
「ふむ。ディラン君、これはどういうことかな?」
ギルド長が床の大量のハンカチを一枚拾うと、ヒラヒラ振ってディランに見せた。
朝一番の報告で聞いた話と随分と違う。
「ギルド長、これは偽物です。騙されては駄目です」
「それはおかしいな。君が調べた素材が全て本物だと報告したんだ。このハンカチも調べてみるか?」
「もちろん。そうさせていただきます」
まだ、ディランは負けを認めるつもりはないらしい。
60枚程のハンカチを全部集めて、金庫から鑑定紙を取り出して調べている。
鑑定結果は焦り出した顔を見れば分かる。
「申し訳ない。どうやら職員が誤解したようだ。素材は全て買取ります」
ディランの代わりに、ギルド長が謝罪すると、エリックは立ち上がった。
カノンも土下座をやめて、立ち上がった。
「いえ、お金は構いません。ご迷惑をかけたお詫びだと思ってください」
「そういうわけにはいきません。正当な労働には、正当な報酬を支払うものです。お受け取りください」
「いえいえ、損害賠償だと思って受け取ってください。報酬は被害を受けた冒険者に分配を」
「いえいえ、ただ酔って動けないだけです。被害ではなく、酒をくれと訴えているぐらいです」
54歳のエリックと53歳のギルド長が、報酬を譲り合っている。
エリックは金なら、カノンが大量に作ってくれるから本当に要らない。
良い格好をして、冒険者ギルドに貸しを作る方が得策だと考えている。
「ギルド長、お待ちください! まだ盗品の可能性があります。手品でもハンカチぐらいは増やせます」
「素材も武器も出来ますよ。お見せしましょうか?」
鑑定を終えたディランがやって来た。まだ疑っている。
カノンは親切心で追加の手品を見せようとしている。
「ディラン! その失礼な態度を今すぐに謝罪しなさい!」
「ぐっ!」
だけど、その必要はないようだ。ギルド長が怒ってディランに言った。
謝りたくないディランが、嫌そうに顔を歪めている。
「ははっ。ギルド長様。悪いと思ってない人間に、謝罪を強要しても無理です。この歳まで一度も失敗したことが無いなんて、凄く優秀なんでしょう。失敗を学べば、もっと優秀になれますよ」
「誠に申し訳ない。ロクに部下の教育も出来ずにお恥ずかしい限りです。全ては私の責任です。不愉快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません」
「いえいえ、ギルド長が謝る必要はありません。若さとは失敗することです。まだ彼が若いという、ただそれだけのことですよ」
謝らないディランをエリックが笑って許すと、ギルド長が代わりに謝罪した。
年寄り二人は和解したみたいだが、若いディランの顔は全然納得していない。
「ギルド長、まだです! 馬で往復六日の距離を2時間ですよ! 他に仲間がいるに決まっています!」
「はぁー。ディラン君、黙っていることも出来ないのかね?」
謝罪も出来ないディランの言動に、ギルド長はかなり呆れている。
反省文と減給で許すつもりだったのに、これでは解雇も考えないといけない。
「あの、実際にお二人を近くの町まで護衛しましょうか? 見ないと納得できみたいなので」
「本当に申し訳ない。愚かな彼の為にもお願いしたい。もちろん報酬もご用意します」
「では準備するので、父と一緒に街の外でお待ちください」
疑われたままでは仕事できないので、カノンは飛行船に乗せると言った。
ギルド長が頭を下げてお願いすると、カノンは森の中の飛行船を取りに出かけた。
「なっがががががぁ~‼︎」
ディランが空を見上げて、驚いた顔でガタガタ震えている。
街の外で待っていると、青く輝く空飛ぶ大型船がやって来た。
乗らなくても分かったみたいだが、乗らないという駄目だ。
三人が乗ると、飛行船は空の旅に出発した。
「これは速いな。ディラン君、飛び降りる前に二人に言うことはあるかな?」
「申し訳ありませんでしたぁー‼︎ どうか、どうかお許しください‼︎」
解雇されてもいいが、処刑されたくはない。ディランは必死に謝罪する。
手首を背中に回されて、ギルド長に船の扉に向かって押されていく。
ギルド長は腕っ節なら、中級冒険者にも引けを取らない。
「まあまあ、ギルド長。その辺で許してあげてください。良かったら、私が職員として彼を教育しましょう」
笑顔を浮かべたエリックが、ギルド長の右肩をポンポン軽く叩いて止めた。
名案を思いついたようだ。
「実は普通の酒を酒場に置いてもらおうと来たんですが、職員として働いた方が娘にも会えるし、正直な酒の感想もお客様から直に聞けます。もちろん給料は要りません。酒の売上げだけで結構です」
「うーん、それは構いませんが……本当によろしいんですか?」
ギルド長は考えた。優秀な娘は欲しいが、おじさんは欲しくない。
でも、おじさんを働かせれば、娘が付いてくる。だったら仕方ない。
「もちろんです。酒以外にも食事も提供できます。カノン、お前が作ったパンを出して差し上げなさい」
「はい、お父様。どうぞ、ギルド長様。ディランさんもどうぞ」
「ああ、ありがとう」
カノンが名前を呼ばれて、舵から手を離してパンを渡しに来た。
急いで配って戻らないと、飛行船が墜落してしまう。
「おお! これは美味い!」
「では、次はこちらの酒をどうぞ」
パンを一口食べて、ギルド長は気に入ったようだ。
エリックはニヤリと笑うと、秘伝のミックスフルーツ酒を取り出した。
容赦なくトドメを刺すつもりだ。
ギルド長が床の大量のハンカチを一枚拾うと、ヒラヒラ振ってディランに見せた。
朝一番の報告で聞いた話と随分と違う。
「ギルド長、これは偽物です。騙されては駄目です」
「それはおかしいな。君が調べた素材が全て本物だと報告したんだ。このハンカチも調べてみるか?」
「もちろん。そうさせていただきます」
まだ、ディランは負けを認めるつもりはないらしい。
60枚程のハンカチを全部集めて、金庫から鑑定紙を取り出して調べている。
鑑定結果は焦り出した顔を見れば分かる。
「申し訳ない。どうやら職員が誤解したようだ。素材は全て買取ります」
ディランの代わりに、ギルド長が謝罪すると、エリックは立ち上がった。
カノンも土下座をやめて、立ち上がった。
「いえ、お金は構いません。ご迷惑をかけたお詫びだと思ってください」
「そういうわけにはいきません。正当な労働には、正当な報酬を支払うものです。お受け取りください」
「いえいえ、損害賠償だと思って受け取ってください。報酬は被害を受けた冒険者に分配を」
「いえいえ、ただ酔って動けないだけです。被害ではなく、酒をくれと訴えているぐらいです」
54歳のエリックと53歳のギルド長が、報酬を譲り合っている。
エリックは金なら、カノンが大量に作ってくれるから本当に要らない。
良い格好をして、冒険者ギルドに貸しを作る方が得策だと考えている。
「ギルド長、お待ちください! まだ盗品の可能性があります。手品でもハンカチぐらいは増やせます」
「素材も武器も出来ますよ。お見せしましょうか?」
鑑定を終えたディランがやって来た。まだ疑っている。
カノンは親切心で追加の手品を見せようとしている。
「ディラン! その失礼な態度を今すぐに謝罪しなさい!」
「ぐっ!」
だけど、その必要はないようだ。ギルド長が怒ってディランに言った。
謝りたくないディランが、嫌そうに顔を歪めている。
「ははっ。ギルド長様。悪いと思ってない人間に、謝罪を強要しても無理です。この歳まで一度も失敗したことが無いなんて、凄く優秀なんでしょう。失敗を学べば、もっと優秀になれますよ」
「誠に申し訳ない。ロクに部下の教育も出来ずにお恥ずかしい限りです。全ては私の責任です。不愉快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません」
「いえいえ、ギルド長が謝る必要はありません。若さとは失敗することです。まだ彼が若いという、ただそれだけのことですよ」
謝らないディランをエリックが笑って許すと、ギルド長が代わりに謝罪した。
年寄り二人は和解したみたいだが、若いディランの顔は全然納得していない。
「ギルド長、まだです! 馬で往復六日の距離を2時間ですよ! 他に仲間がいるに決まっています!」
「はぁー。ディラン君、黙っていることも出来ないのかね?」
謝罪も出来ないディランの言動に、ギルド長はかなり呆れている。
反省文と減給で許すつもりだったのに、これでは解雇も考えないといけない。
「あの、実際にお二人を近くの町まで護衛しましょうか? 見ないと納得できみたいなので」
「本当に申し訳ない。愚かな彼の為にもお願いしたい。もちろん報酬もご用意します」
「では準備するので、父と一緒に街の外でお待ちください」
疑われたままでは仕事できないので、カノンは飛行船に乗せると言った。
ギルド長が頭を下げてお願いすると、カノンは森の中の飛行船を取りに出かけた。
「なっがががががぁ~‼︎」
ディランが空を見上げて、驚いた顔でガタガタ震えている。
街の外で待っていると、青く輝く空飛ぶ大型船がやって来た。
乗らなくても分かったみたいだが、乗らないという駄目だ。
三人が乗ると、飛行船は空の旅に出発した。
「これは速いな。ディラン君、飛び降りる前に二人に言うことはあるかな?」
「申し訳ありませんでしたぁー‼︎ どうか、どうかお許しください‼︎」
解雇されてもいいが、処刑されたくはない。ディランは必死に謝罪する。
手首を背中に回されて、ギルド長に船の扉に向かって押されていく。
ギルド長は腕っ節なら、中級冒険者にも引けを取らない。
「まあまあ、ギルド長。その辺で許してあげてください。良かったら、私が職員として彼を教育しましょう」
笑顔を浮かべたエリックが、ギルド長の右肩をポンポン軽く叩いて止めた。
名案を思いついたようだ。
「実は普通の酒を酒場に置いてもらおうと来たんですが、職員として働いた方が娘にも会えるし、正直な酒の感想もお客様から直に聞けます。もちろん給料は要りません。酒の売上げだけで結構です」
「うーん、それは構いませんが……本当によろしいんですか?」
ギルド長は考えた。優秀な娘は欲しいが、おじさんは欲しくない。
でも、おじさんを働かせれば、娘が付いてくる。だったら仕方ない。
「もちろんです。酒以外にも食事も提供できます。カノン、お前が作ったパンを出して差し上げなさい」
「はい、お父様。どうぞ、ギルド長様。ディランさんもどうぞ」
「ああ、ありがとう」
カノンが名前を呼ばれて、舵から手を離してパンを渡しに来た。
急いで配って戻らないと、飛行船が墜落してしまう。
「おお! これは美味い!」
「では、次はこちらの酒をどうぞ」
パンを一口食べて、ギルド長は気に入ったようだ。
エリックはニヤリと笑うと、秘伝のミックスフルーツ酒を取り出した。
容赦なくトドメを刺すつもりだ。
6
お気に入りに追加
348
あなたにおすすめの小説
追放魔族のまったり生活
未羊
ファンタジー
魔族の屋敷で働いていたメイド魔族は、突如として屋敷を追い出される。
途方に暮れてさまよっていた森の中で、不思議な屋敷を見つけた魔族の少女。
それまでのつらい過去を振り払うように、その屋敷を拠点としてのんびりとした生活を始めたのだった。
※毎日22時更新を予定しております
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端家族が溺愛してくるのはなぜですか??~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる